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戦争を始める前に、パフェを食べよう

「おはようございます」、その扉をくぐったときの出来事だった。
「あの、今日の打ち合わせナシになりました…」

友達から、”ちょっと来てみない?”と誘ってもらったのは、昨日の夜。
「役に立てるかわからないけど」と、まず言い訳してしまう心には、慣れたものだ。
「せっかくの機会だし、行ってみようかな」と思えるようになった。
出掛けることを決めた。

待ち合わせの30分前、電車に乗りながら別件について「こんな感じでどう?」と、やり取りをしていた。
「ありがとう、詳細はあとでね」
「いま向かっているよ」と、連絡をしたところだった。

残された面々ではどうすることもできない内容で、わたしたちは途方に暮れた。
いわゆるドタキャンなので、「信じられない」とみんな口にしたけれど、
怒るというよりも呆れてしまったし、こんなに”途方に暮れる”という状況が、ぴったりなことはなかった。
仕方がないのでコーヒーを飲んで、煙草を吸って、お土産のクッキーをかじる。

「ケーキと、パフェと、パンケーキ。どれにする?」

しごくまじめな顔で、声をかけられた。
もう、怒っていたのかもしれないけれど、彼はまじめだった。

「パフェがいい」

今日は暑いから、アイスがいいと思ったので、そう答えた。
冗談かと思っていたけれど、近所で美味しいパフェを食べられるお店を調べた。
彼は、本気だった。


暑い中、3人でパフェを食べに行った。
近況とか、最近のびっくりした話とか、他愛のない話をしながら、炎天下を歩いた。

ひとしきりテンションを上げて、各々の至福を決めて、また話した。
やっぱり、他愛のない話だった。
町田と南町田は離れすぎている、とか
二子玉の本屋はなかなかいい、とか
どうぶつの森の花火大会はなかなかすてきだった、とか
この、”会ったときに話す、どうでもいいはなし”っていうのは、結構好きだと思う。

話しているうちに、パフェを頼んだことをすっかり忘れていた。
でも、パフェはやってきた。

「おお、パフェ! すごい!」

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「いただきます」
「なにこれ」
「おいしい」
「アイスと生クリームを最初に掛け合わせた奴は天才」
「なんで、掛け合わせようと思ったんだろうね」
「きっと、強欲だったんだよ」
「これ、コーンフレークじゃなくて、パイ生地だ…!」

打ち合わせの出来事なんか忘れて、目の前の至福に感動するばっかりだった。
ああ、わたしたちは単純にできていてよかった。

「戦争とかも、パフェですればいいのにね」
「お互いのパフェ職人出してね」
「そちらのパフェもなかなか旨い、とか言ってね」
「うちのチーズも最高だけど、そっちのクリームも最高だ、ってなる」
「そして掛け合わせて、新しいパフェができる」

おおまじめな顔のコックさんが、
おおまじめにパフェを作って、
「おぬし、やりおるな」とお互いのパフェを褒める絵を思い浮かべて、少し笑えた。

「今日は、パフェの日だったね」
「満足だね」
「こういう日が必要だね」

満腹になって、帰路につく。

パフェを食べるのは、ほんとうに久し振りだった。
そうそう、この感じ。
ご褒美って、ほんとうにすてき。

わたしはこれからも、
戦争を始める前に、パフェを食べようと思う。




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