見出し画像

季節の狭間

帰る前にはね、
あれもこれもやろうって思っているのに。
気を抜くと、すぐに倒れ込んでしまう。

今晩は、家にひとり。
あなたがいない空気をたっぷりと吸い込んで、悠々自適に過ごすのだ、と思っていたのに。
ああ、少しだけ

お気に入りのピアスは大切なものだから、それだけはきちんと外そう。
指輪と時計とブレスレットも外して、靴下とブラウスを洗濯籠に放り込む。
「ついで」にできたのはそこまでで、わたしは床に倒れ込んだ。
リビングの床は、ひんやりと冷たくて心地良い。
ああ、少しだけ

少しだけのつもりで倒れたのに、目が覚めても動けなかった。
動けないのか、動きたくないだけなのか
そんなことはもうどうでもよくなって、落ちていた毛布に手を伸ばす。
「そろそろ、タオルケットにしなくちゃね」と言っていたのに、なかなか片付けられない冬の毛布。

開け放たれた窓から流れ込む、おだやかな風
冷たい床と相反する、冬の空気をまとったままの毛布が、ふんわりとわたしを包む。
ああ、こんなに幸福なことがあっていいのだろうか。

わたしはいま、季節の狭間にいる。

日中の気怠いような暑さを感じながら、
心地の良い夜風に吹かれて、冬の空気を抱きしめる。
こんなに幸福な期間は、長くは続かない。
明日も日中は暑くなるだろうし、すぐに茹だるような夏がやってくる。

どうか、いまだけは

わたしは、季節と時間と狭間をさまよいながら、眠り就いた。





スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎