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グレイの空を思い出しながら

 今朝は、もうどうしても眠かった。
 毎日眠いのだけれど、「どうしても」と思える朝は、時折必ず訪れる。
 そういえば、昨日の夜も眠たくてコーヒーも淹れられていない。
 とりあえず引っ掴んで出てきた空っぽのタンブラーを抱えて、スターバックスに駆け込んだ。
 会社にコーヒーメーカーはあるけれど、朝からスターバックスを飲む日。というのも必要なように思える。
 アイスコーヒーに、エスプレッソのショットを追加する。最近お気に入りの飲み方。

 さて、帰りはどうしようかと考える。
 ワンモアコーヒーのレシートを握りしめて、どこかでまたコーヒーでも飲もうかなと思ったけれど、必ず飲まなきゃいけないわけじゃないし……今日は帰ってそのまま眠ってしまいたい気もする。
 けれども、「あたたかいコーヒーに、アーモンドミルクを追加する」カフェミストがわたしを呼んでいる気がして、スターバックスに向かうことにした。

 あるときわたしは、「家では何もできず眠ってしまう女」だった。今もそうだけれど、もっと酷かった。家で執筆なんて、絶対にできなかった。
 コロナ禍で仕方なく家での執筆を覚えたあとも、カフェはわたしにとって「努力の場所」だった。書く場所。書く気持ちになる場所。自分の気持ちを整えて、ここからもう一度旅立つ場所。

 いやしかし、いつからだろう。とも思う。
 今より、もっともっとやる気なんて出てこなかったとき
 やる気っていうのは、お空のどこから降ってくるもので、それを待っていたとき
 わたしはやる気を求めて、カフェに逃げ込んだ。
「何もしなくてもいい」と言い聞かせながら
 結局のところ、やる気と出会えることを信じて。


 何もしなくていいよ、と今日のわたしに言い聞かせている。
 何もしなくていい。
 ただ、コーヒーを飲もう。
 結局こうして書いているけれど、頑張って書かなくてもいい。
 頑張らなきゃいけないって、誰が決めたんだろう。
 言葉は皆に平等(かどうかはわからないけれど、多くの場合はそれなりの平等)に与えられて、ここは好きな言葉を紡ぐ場所で、もちろん「ここへ訪れてくれるかもしれない人」の存在を、完全無視したりはしないから、わたしはいつもあなたに届けたい健やかな適温みたいなものを、捻り出して狙ってはいるのだけれど。
 でもそれも、毎日頑張る必要はないし、なんなら毎日頑張らなくても良かった。もっとシンプルに。すうっと呼吸をするように。と、当たり前すぎることを、今日は指差し確認している。

 カフェ=頑張る、でも
 書く=頑張る、でもなくて良かった。
 会社に行くも、朝起きるも、「頑張らなきゃできないよォ」と思う自分もいるけれど、そう"しなくてはいけない"っていうのとは全然違う。

 でもせっかくだしとか、カフェでコーヒーを飲む贅沢をするのならば頑張って書かなきゃね、と思うわたしの肩をトンッと叩く。ただの贅沢もたまにはいいじゃないか。頑張ると贅沢の狭間みたいな場所を、ふらふらするような文章だって。そんなわたしだって。とてつもないような、けれども小さな勇気「なにもしない」を抱えて、いまわたしは、カフェミストを飲んでいる。

 白黒はっきりしなくたって、
 グレイの空でもいいではないか、と言っていた、優しい人のことを思い出している。
 何かをハッキリ色付けなければいけないと、気づけば思い込んでしまって、そんな傷や膿に、微笑んでくれる人だった。時には爆笑しながら。

 あなたが生きていたら見せたかったであろう空の下を、これからも歩んでいきたいと思った。
 白黒ハッキリして、意気揚々と頑張って、できる限り背筋を伸ばそうとしてしまう自分自身を、まあ待て待てと嗜めながら。膝を抱えて唇を噛む肩を、「まあいいではないか」と叩きながら。

 スターバックスでなにもしない。
 そんなささやかな、けれどもとてつもないような勇気を、
 グレイの空にしか訪れない美しさを
 これからも時折必ず、思い出してゆきたいと思っている。


▼グレイの空

▼あなたへ


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