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君に伝えたい百の言葉

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あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
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#日記

遠い影

 口内炎が治った。  治った、というよりも、正しくは“峠を越えた”というところだろうか。  数日前まで、何をしなくてもズキズキと痛い状態が続いていたのと比べると、ずいぶんと良い。  いま、タリーズで飲んでいる出来立てのコーヒーは染みるけれど、朝自分で淹れたコーヒーは染みずに飲めた。ごはんだってもう、おどおどせずに食べられる。どん兵衛の、お揚げの“ジュワッ”に涙目になっていたことも、もう懐かしい。  治ってきている。確かに、回復に向かっている。そしてこれから悪くなることも、き

抱きしめてから蹴飛ばして

 ムカつく連絡がきた。  いやはや、心穏やかではないし、わざわざそんなこと言うなよ。と、お思いになるかもしれないけれど、確かにムカついた。  悪気の有る無しじゃなくて、それでいったら悪意はなくて  強いていうならば、「いつでもいいです」「なんでもいいです」が延々と続いて、全部こっちで決めることになってしまった。いや、いーんだけどサ……それが気遣いなのもわかっているし、ムカついたって仕方がなくて、何にでも合わせられることは長所だとも言える。  とにかく、怒っているバアイではな

休職中のあなたへ

懐かしいな、と思う。 マクドナルドで頼んだ、エグチとホットコーヒーを受け取りながら。 おねえさんの、驚くほど眩しい笑顔を、ほんの数秒見つめてしまった。 学校帰りのランドセル姿の小学生 iPadとヘッドセットで通話しながら歩く人 子連れの母たち そして、マクドナルドのおねえさん みな、自分の日々と役割をまっとうしている。 わたしはそれを、「仕事」とくくってよいと思っている。 学校に通うことも、子どもを育てることも、すべきことをしているという点で、仕事ではないだろうか。 わ

ハッピーセットをポケットに

友達から連絡がきた。 ぽんっ、とひとつ、いつも通りのメッセージが届いたあと、しばらくしてこちらを気遣うような内容が続いた。自意識過剰かもしれないけれど、生身の、温かさを感じた。 わたしは時折、文章から必要以上の温度を感じ取ってしまい、それを勝手に受け取ってしまう。 感覚を信じすぎてはいけない、言葉は言葉であり、それ以上ではない。 わかっているのに、無視することができない。足裏を流れる、さざなみのように 心配をかけてしまったな、と反省した。 いつも、自分としては落ち着いた心

さすれば、りんごの重さも

12月のわたしは、りんごだった。 その、なんの前触れもなく、りんごは現れた。 28〜30個って書いてある箱がふたつ。 主食を、りんごケーキ(焼いたりんごをホットケーキミックスでとじるやつ)にして、剥かれたりんごにしても、到底食べ切れる量ではなかった。 ということで、12月のわたしはりんごだった。 友達に会う予定があるたびに、かばんにりんごを詰めて電車に乗った。 重たいのに。散歩をしたいのに。 左肩にいつものトートバッグ、右肩のエコバッグにりんごを詰めて。 相手に迷惑で

【お悩み相談】 鬱気味で活力がありません。どうすれば良いですか? +わたしのはなし

誰かにわざわざ話すことでもないけれど、 もしも誰かが「悩みとかない?」って尋ねてくれたら 深夜0時、暗闇にまぎれて、こぼれ落ちる言葉があるかもしれない。 おとなの保健室”深夜のお悩み相談” 今回は、先月開催した「折本名刺」プレゼント企画の際にいただいたご質問に回答します。 ▼プレゼント企画のこと 回答が遅くなってしまってごめんなさい。 とても、とても考えました。何度も 多くのお悩み相談は、最初に「こんな感じかな」って答えが見える。それを、こねこねと練ってゆくようにお

それぞれのはなまるうどん

「たまには、外食したら?」 冷蔵庫に、常備菜を詰め込みながらそう言うのは矛盾ではないだろうか、と思うのだけれど 「自分が作ったもの以外も食べるべきだ」「買い食いをしたまえ」と、なぜだかいつも言われる。 わたしとしては食べるものはなんでもいいので、冷蔵庫のストック更新がされず5日くらい経つとようやく「ちょっと飽きたな」と思い始める。 今日も帰れば、大根のみぞれナントカとかいう創作料理と、小松菜の漬物、にんじんのナムルが残っていたはずだ。 食べるものはなんでもいい、家で食べれ

今ならカボチャも作れるから 〜逆上がりができなかった頃のわたしへ〜

流行りの、スイカゲームってやつをダウンロードした。 同居人が好きそうだなァと思って、「やってみる?」と相談したら、「やりたい」と言うので買ってあげた。 わたしはなかなか良いヤツなのである。 (正直なところ、十余年も一緒にいるのに、この男が何で喜ぶか未だよくわからないので、わかったときには喜ばせるようにしている。価格240円) 溶けるような時間の中で、同居人はスイカの制作に成功した。 スイカゲームとは、スイカを作るゲームなのである。 そして、なかなかスイカを作るのは難しいゲ

おとなになるってなんだろう

おとなになるって、なんだろう。 わたしにとっての”おとな”というと、不思議とディズニーランドを思い出す。 子どものころ、何度か連れて行ってもらった。 夢の国の、お兄さん・お姉さんは完璧な存在で、もちろんお仕事中におしゃべりなんかしていなくて、いつも笑顔でピシッとしていて、ずいぶんと眩しかった。 どこか遠くで、「おとなになるっていうのは、完璧になることなんだ」と思ったのを、覚えている。 うすぼんやりと、鮮明さが入り混じった記憶。 母親(家でピアノを教えていた)と、父親(大工

2023_0721_箱と場所

気がついたら、デスクが乱雑していた。 乱雑というのは、唐突に訪れる場合と、蓄積で訪れる場合があって、今回は後者だった。 気づいたら、ひどいありさま、ってやつ デスクの引き出しにも、化粧ポーチにもしまえない背の高いボトルとか 使用頻度が高いネイルとかアロマ それから、虫刺されの薬(バルコニーで転がっていると、どうしても虫に刺される) これはよくないって、本当は片付けたかったんだけど、この子たちには行き場がない。 引き出しや定位置から溢れたそん時なので、片付けると言っても隅に寄せるくらいしかできない。 そもそも、ここにあったペン立てが出張中なので、広い場所に対してボトルやビン類がとっ散らかってしまったのだ。 難しい、 その余白に、人も物も暴れるのだろうか。 その隙間さえなければ、発生しない問題もあったかもしれない、と思う。 結局のところは、理想と現実のすきまに落っこちるように、デスクは散らかったままだ。 そして、帰るところのない物ものたち。 箱を買った。 無印で、小さい箱。 箱っていうか、蓋のないやつ。 基本的にずぼらなので、蓋のないものを愛している。 箱というか、四角いその小さい仕切の中に、並べた。 そうしたら急に、きちんとした人みたいになって驚いた。 本当にびっくりしてしまったので、驚きついでに他の場所も片付けちゃった。 ああ、なんだ 箱にしまえばいいんだ。 場所を与えればいいんだ。 わたしに足りないのは目的地でも決定打でもなくて、 箱と場所だったのかもしれない。 箱と場所を用意するためには 積載量を理解する必要があって 箱を買ったならば、何をしまうのか考えなければいけないから 一筋縄ではいかないかもしれないけれど 箱を用意しよう。 安心する箱 帰りたいと思える箱 余すことなく装備できるように、いろいろが見渡せる場所 だからこそ、進もうと思える場所。 箱を探そう。 足りないから求めたり 持ちすぎたから削ったりする前に わたしにぴったりの、箱を、探そうと思っている。 【photo】 amano yasuhiro https://note.com/hiro_pic09 https://twitter.com/hiro_57p https://www.instagram.com/hiro.pic09/ (無印で買った箱) https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/detail/4549337495562

おじさんたちが、元気な世界が良い

知り合いのおじさんが主催するライブに 知り合いのおじさんが出るっていうから 遊びに行ってきた。 有り難い。 もう、知り合って十余年も経つのに。 まだこうして声をかけてもらえる。 会場に行ったら、「久し振りだねぇ」と声をかけてもらえて、知っている顔がちらほらいて、なんだか嬉しくなってしまった。 最近はライブハウスの出入りも減って、周りも後輩ばかりになってきたけれど おじさんたちと話していると、20代で、バーカウンターで煙草ばっかり吸っていた自分のことを、深々と思い出せる。

咲かない花も、咲けない花も

このあいだ、花を買った。 あの日から、”ダリアの首”について考えている。 あるいは、”ダリアの首を落とせるか”について ロスレスブーケっていう、めちゃくちゃお得に買えるお花。 fowerってアプリから買えるので試して欲しい。 このお花がお安い理由っていうのがいくつかあって、 ひとつは、お花屋さんを経由していないこと。 このお花たちは「花屋で売られる、商品になる」という運命を回避しているので、何が起きているかというと、葉っぱが多い。バラにはトゲがある。 つまり、手入れの必

人生に希望は、必要か

希望に、殺されそうになったことがある。 あれは、10年ほど前の出来事だろうか。 右手の親指を、骨折した。 それは、小さな小さな剥離で、最初の病院では見つけてもらえず、その次の病院で撮ったレントゲンに「本当に痛いからもっとよく見てください」と訴えて、ようやく見つけてもらえた。 ほんとうに、小さな剥離だった。 当時のわたしは、ピアノを弾くこと(練習をすること、曲を作ること、ライブをすること)と、ライブハウスで働くことがすべてだった。 わたしの右手は、わたしにピアノを弾くことを

切なる願いで、生きてゆくこと

「恥ずかしいんだけど」って、言わないように気をつけることにした。 わたしが「恥ずかしい」という枕詞で話し始めてしまうと、同じ境遇の人に「恥ずかしい」という烙印を押すことになってしまうかもしれない、という危険性に気がついたからだ。 だから、何事もない顔で近況報告をするけれど、1週間ほど会社に行けていない。 正直、恥ずかしいと思う気持ちもあるし、不幸自慢と思われてしまっても仕方がない。 でもこれは、近況報告なのだ。 そして、友達がしんどいときには「休め」と言いたい。何も考えるな