マガジンのカバー画像

君に伝えたい百の言葉

389
あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
運営しているクリエイター

2021年2月の記事一覧

未知への不安を蹴飛ばして

(……やっちまった) 気づいたのは、退勤間際だった。 社内チャットの「松永さんお願いします」のメッセージを、見落としていた。 昼休憩から戻ったあと、わたしはその手前のメッセージまでしか読めていなかったみたいだ。 早めに気づいたなら、今日中に終わらせられたのに… 初めての業務、期限は明日の15時まで。 仕方がない、明日に持ち越しだ。 そうしてわたしは、眠る前に思い出す。 (あした、頼まれてた仕事…はやめに、やらなきゃ…) また、思い出す。 仕事を始めたばかりの頃のこと。

真空パックの呪い

音楽をやってきた、という言い方はしっくりこないのだけれど 誰かに経歴を伝えるときには、どうしてもこの言い方になってしまう。 実際、音楽をやってきたのだとも、うすぼんやり思っている。 大学では軽音部、 卒業してからはライブハウスに入り浸った。 そんなわたしのiTunesや、iPhoneの「ミュージック」アプリには、”友達の曲”というものが、存在する。 数はきっと、少なくない。 わたしの世代は、「CDを焼く」ことができるようになり、簡単にデモCDの配布もできるようになった。

あなたの1ページしか、見えなくて

その言葉を聞いたとき、わたしは息が止まるかと思った。 いまの仕事を始めて、まもない頃。 いや、いまだって入社後1ヶ月と少しなので、「まもない」と言っても過言ではないのだけれど。これは、もう少し前の話。 いろんな業務があって、共有フォルダの場所や、スプレッドシートの名前が覚えられなかった。 覚えられる気もしなかった。 「これはやばい」と早めに気づいたわたしは、とにかくメモを取って、「次やるときは、時間が掛かるだろうけど、ひとりでできるように」と努めた。 電話は、出るのも掛

まっすぐな靴底で歩きたかった

階段を歩いているとき、前をゆく人の足元を見る。 スニーカーの靴底が、斜めにすり減っていた。 わたしはそれを、懐かしい気持ちで見つめる。 ああ、そうだ。わたしもそうだった。 * いまでも、わたしの靴底は内側のほうから薄くなってゆく。 それでも、昔よりはずいぶんマシになった。 20歳を少し過ぎるまで、わたしは極度の内股歩行だった。 いまでは、あの頃の比べると「極度」ではなくなったのだと思う。 あの頃までのわたしは、ずいぶんとひどい歩き方をしていた。 子供の頃は、ずいぶん

まぶたの裏に、住む記憶

もうむりだ、と思ってベッドに潜り込む日がある。 眠い、と自分では思っている。 もう、身体も思考回路も限界だ、と思っているはずなのに、寝付けない夜がある。 身体は、もうなにもできない、と言っている。 それなのに、思考に火をがついたように、ぐるぐるする。 バランスを失っている。 だからもう、眠りたい。 眠るのが好きなのに、寝付きが悪い夜があるなんて、笑ってしまう、と思うわたしもいるのに 頭の中はなんだか一生懸命で、いろんなことが浮かんでくる。 必要なことはメモに残して、わ

ちょうどいいコーヒー

喫茶店で、久しぶりにコーヒーを飲んでいる。 そんなことを、このあいだも言った気がするけれど、今日は違う。 わたしだけ、の時間を設けるために来た。 君と飲むコーヒーじゃない。 前職で働いていた頃は、仕事帰りの週に何度かは、コーヒーを飲むようにしていた。 家にいると眠くなってしまうから、外でもうひと頑張りしてから帰ろう、という魂胆だった。 その習慣がようやく根付いた頃に、仕事をクビになってしまった。 今思えば、緊急事態宣言×無職の組み合わせって、家に監禁みたいなものだったのか

わたしの夢は、叶ったのかもしれない。

ここ半月くらい、ずっとそんなことを考えていた。 1月の終わりに思い立って、 そして勇気を出して 「わたしのいいところ」をみんなに尋ねてみた。 わたしが当たり前だと思ってスルーしている事柄の中に、 なにか、潜んでいるのではないか。 わたしはそれを、言葉にしたい。 わたしはそれを、知りたい。 わたしはわたしを、「当たり前」だと思いすぎている。 困ったときには、 なにより「自分の思考回路じゃたどり着けないとき」には、助けを求めたらいい。 だってわたしが、子育てについて記事を書

「あきらめないで、よかった」

その、すこやかな声と言葉に、心臓がぶち抜かれたような気分だった。 「そういえば、これあったわ」と、右隣りの上司が言う。 会社でわたしが使っているパソコンは、なぜだか印刷もスキャンもできない。 そんな中、上司が「スキャンができなかったときに設定を確認するメモ」の存在を思い出したらしい。 確認してみよう、と思って確認したけれど、設定は正常だった。 そうだよね。 諦めていた。 仕方がない、と頷いた。 その心遣いだけでも、もうなんだか充分な気がした。 「できないのって、スキャン

走り始めた君へ 〜300日間歩み続けた僕からの手紙

松永さんのおかげで、やりたいこととかやることとか見えました そんなことをわざわざ、報せてくれてありがとう。 べつに、次に会うときで構わなかったのに。 僕だって君と話せてずいぶん勉強になったから、お互いさまだよ。 でもこの連絡は、僕にとって一番嬉しいことのひとつになった。 それは、断言できる。 だから、ありがとう。 僕は、世界平和を願えない。 手の届かない、見えない人まで救おうとすることはできない。 僕は、薄情かもしれない。 その代わり、手が届く友人たちのことは、漏れな

まとい、守られて

友達からの荷物に、ピンクの容器が入っていた。 ずっしりと重く、BODYSHOPのロゴ 詳しい説明を見ると、「濡れた身体をマッサージするように」と書いてあったので、ボディ用のスクラブみたいなやつだと理解した。 二十代の頃は、そういうのがとにかく面倒な人間だったと記憶している。 パックも嫌いだった。なんかべとべとするし。 大切なときや、特別なときに使うもの、に対する向き合い方が、とにかくへたくそだったとも思う。 この1枚のパックを、わたしは一体いつ使えばいいのだろうか。 そんな

「なんかいい」って、すごくいいよね。

久し振りに、友達とコーヒーを飲んだ。 サンマルクの、カウンター席に並んで 呼び出すときも、呼び出されるときも、気まぐれだった。 大半は「そろそろかな」というタイミングで、用事がないときのほうが多い。 わたしたちはふたりで、なんでもないなにか、を話す時間を設ける。 それは、Twitterのつぶやきみたいだった。 思い出したことを「そういえばさ」と言う。 相手の話を聞いて、「そういえばさ」と思い出す。 ひとつの話題はあんまり長く続かなくて、わたしたちはぽつぽつと語り続ける。

1ヶ月後には、我が者顔でオフィスを歩いてる

わたし、仕事辞めても大丈夫かもしれない。 そう思った日のことを、覚えている。 「仕事を辞めても収入があるから」とか、そういう話ではなくて 「別の仕事に変えても大丈夫」のほうが、適切な表現かもしれない。 家賃や光熱費を払うための収入がなくなってしまうのは困るし、それを得るためには「雇われること」がわたしにはまだ必要だった。それはいまも変わらない。 前職は流行病の影響でうっかりクビになってしまったので、これは前々職のときの話になる。 初めてのオフィスワーク。 務めて1年が経

文字に咲く笑顔

Aの次にやること そうタイピングしたあと、わたしは「かお」と打つ。 うーん、ちょっと気分じゃない。 「かおもじ」と打ち込んで、何度か変換ボタンを押す。 Aの次にやること(*´∀`*) わたしは「資料」と名付けたテキストの冒頭に、そう書き加えた。 * 顔文字を、使うようにしている。 仕事のとき、自分しか見ないようなメモ書きみたいな資料には、必ず付ける。 自分と、自分の身の回りだけ、実務とは少し遠いところだけで咲く、小さな魔法だった。 * いまでも、忘れない。 も

あなたが教えてくれた、わたしのこと。

わたしはいったい、どこへ向かっているんだろう。 わたしはずっと、考えている。 ひとつ、たどり着いた答えは「目的地がない」ということだった。 そりゃあ、どこへ向かっているかわからないよね、と思う。 わたしの掲げた目標は「じたばたすること」や、「とりあえずやってみること」だった。 それを、毎日繰り返してゆく。 ときどき嬉しいことがあって、深く息をできる。 意味があったんだ、と安堵する。 意味を求めた旅ではなかったのに。すごくうれしい。 目的地のないわたしは、いつも何かが足り