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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2024年1月の記事一覧

泣く資格

駅前の、パン屋がなくなった。 看板が剥がされて、 グレイの壁だけが残っている。 と、思ったけれど 実際のパン屋は2軒となりで、今日も元気に営業していた。 とすると、あそこのグレイの壁は一体何だったんだろう。 弁当屋も、薬局も、和菓子屋も、変わらずそこにあるから わたしにはもう、わからない。 人生には、そんなことばっかりだ。と思う。 何度もグレイの壁を見送って あそこって何屋さんだっけ? と考えても 思い出せることは、3度に1度より少ない。 友達に尋ねたって同じことだ

松永さんの場合は、

さっきまで、「もう22時になってしまった」というエッセイを書いていた。 眠すぎて、ぜんぜん先に進まなくて、下書きにして画面を閉じた。 眠すぎるときと、お腹が空きすぎているときは、どうしても書けない。 けれども人生の大半というのが、眠たいかお腹が空いているものだ。 やる気に満ち溢れている瞬間は刹那。 眠くもなくて、やる気もあって、具合も悪くない瞬間なんて、奇跡みたいな話だと思う。 そんなどうしようもない(だいたい眠い)のわたしが、noteの毎日更新を1400日を迎えようとし

さすれば、りんごの重さも

12月のわたしは、りんごだった。 その、なんの前触れもなく、りんごは現れた。 28〜30個って書いてある箱がふたつ。 主食を、りんごケーキ(焼いたりんごをホットケーキミックスでとじるやつ)にして、剥かれたりんごにしても、到底食べ切れる量ではなかった。 ということで、12月のわたしはりんごだった。 友達に会う予定があるたびに、かばんにりんごを詰めて電車に乗った。 重たいのに。散歩をしたいのに。 左肩にいつものトートバッグ、右肩のエコバッグにりんごを詰めて。 相手に迷惑で

ねむい(救い)

約束の時間の、1時間半くらい前にスタバに着いて 今日分のnoteを書いてしまおうと思ったのだけれど、撃沈してしまった。 「言いたい」と「伝えたい」は全く異なる作業で 伝えるために、どれだけ「言いたい」を削れるか。 今日は、書いた半分を消した。 伝えたいときには、それなりの準備が必要だということを学んだけれど、準備しようと思うと面倒で後手になるのはわかっているので、また勢いで書き始めるのだと思う。 むかしは、「準備のできないわたしはダメなヤツだ…」と思い、いちいちきちんと落

マネケンのワッフル

静岡駅のASTYを散策していたら、マネケンのワッフルを見つけた。 懐かしさに、ついつい吸い寄せられてしまう。 あれは、何年前のことだろうか。 前の、その前の会社に勤めていたころなので、気づけば7年ほど経っただろうか。 職場が移転して、新宿駅から大江戸線に乗り換えて蔵前へ だからあのころは、新宿といえば大江戸線のある西口で、「会社の帰りに寄りやすいように」と決めた美容院も、西口にある。 西口の、モザイク通りを通り抜けるのが好きだった。 わけもなく歩いて、ときどきアナスイ