マガジンのカバー画像

クッキーはいかが?

332
1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
運営しているクリエイター

2022年5月の記事一覧

ときどき、そんなことより花の水。親友の声と歌

早起きしよう。 が、いつもうまくいかない。 家を出る、とか 電話をする約束があると、とか そういう確固たる何かがあれば、ぜんぜん起きれるんだけどなあ。 「できれば」っていうときはだめ。 多くは、「できれば朝のうちに日課をやろう」ってやつ。 「絶対やらなくちゃ」のタイミングだと、起きれるんだけどなあ… まどろみながらも、その判断は見誤らないから結構すごい。とすら思うほど正確に。 * 「もうちょっと早く起きられたら」と思うことはある。 たくさんある。 掃除は終わったけど

ライラックの横顔

ポストに、手紙が落ちていた。 ひっくり返してみると、いつもの筆跡だった。 わたしが彼女に手紙を書いたのは12日で、13日に投函している。 返事にしては早すぎる。 最近は、そんなことが続いていた。 「この手紙を書いていたら、あなたからの手紙が届いた」と走り書きされていたこともあった。 わたしたちは近年、手紙の返事を書くのをやめた。 たぶん、先にやめたのはわたしだと思う。 なぜだか、やり取りしている手紙は”返事”でなければならない、と思っていたことを、覚えている。 相手の

或る夜、努めない話

逃げよう、と思った。 結局したことは「何もしないこと」と「眠ること」だったけれど、というのが事実だけれど その夜、わたしは逃げた。 最初は、少しのんびりしよう。から始まった。 それからどれくらい時間が経っても、スッキリと起き上がることができなかった。 ごはんを食べても、ソファーからベッドに移動して昼寝をしても、ラジオ体操をしても、お風呂に入ってみたもダメだった。 むしろ、次第に身体が重たくなっていった。 いま思えば、火が消えてゆくようだったと思う。 帰宅したすぐあとは

朝、事実よりも真実を

すうっと、抜けるような感覚だった。 または、ふうっと落ちるような感覚。 何かがいなくなって ここにはいられなくなって 大きく欠いた、と思う。 大きく欠いた。 でもそのあとの行動や決断は、きちんと自分に委ねられていた。 悲しむのか、怒るのか 追うのか 唇を噛むことすらできずに、一度静かに見送った。 いつか帰ってきてくれればいい、と思ったけれど、そんなに易しい話ではない。と悟る。 煙草を辞めてしまったことが、時折寂しい。 ほんとうはいつも寂しかったはずなのに、いまでは時折

むくむくと、もくもくのとなりで

春霞、という言葉を覚えた。 春の空は、煙っている。 ついこのあいだまで夜空を照らしていたオリオンも、シリウスも西の空に沈んで見えない。 沈んでいるかも、うまく確認ができない。 春はさわやかで、ときおりけだるく 気温はそれぞれなのに 不思議とずっと、空は煙って、星は見えなかった。 * ある日、星が見えた。 諦めたような癖で見上げた、そのときだった。 * 冬の星座たちが沈んだということは、春の星座が昇ってきている。 春の大三角、 北斗七星を孕む春の大曲線 しし座のレグ