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「できる教師」は、勉強させない。

「全然勉強しないので、変わってください。」

突然声をかけられた先輩。休校措置がとられ、僕の学校ももちろん休校している。しかし、どうしても休みが取れず、家庭に一人きりになってしまう低学年の子どもを受け入れてきた。各学年の教師が、自習をしている子どもたちを分担をして見守っている。

僕らの学年が見守り担当になり10分。ある教師が交代を求めてきた。

「どうしても、勉強をしてくれないんです。遊んじゃって。」

ということであった。僕らは、快く引き受けてその子の教室へ。机に突っ伏している姿を確認。僕は、先輩がどのような支援をするのか興味深く見守った。ずっと見守った。粘り強く見守った。しかし、先輩は一向に学習を促さない。その子と他愛もない話をずっとしているのである。


家にいるときは、だいたいゲームかyoutube。
1年ほど前からマイクラにはまっている。
最近、ポイントをまとめたマイクラの説明書を書き始めた。
情報は、お母さんのスマホで調べている。
友達は、フォートナイトをやっている。
集まるのは、だいたいいつも同じ友達の家。
集まるとけんかになるからと、断れることもある。
youtubeでは、怖い話を視聴。
顔が怖いおばけが嫌い。
お母さんは、仕事で忙しい。たまに仕事場へ一緒に行く。
放課後児童クラブに行っていたが、最近は行っていない。
児童クラブのお兄さんは、1人だけ優しい。
本当は、留守番が得意。1年生頃から経験済み。
お弁当をチンして食べることができる。
いつもお弁当と手紙が机の上に置いてある。

食べ残したときは、そのまま机の上に置いておく。

ずっと世間話ををしている。

しかし、話をしながらも少しずつ子どもの様子に変化が起きた。留守番の話あたりからおもむろに漢字練習を始めたのだ。相変わらずのマシンガントーク。「漢字は、覚えられてないだろ。」とは思ったが、目標としていた部分までやり遂げた。

「よく頑張った!もう少ししたら、お弁当だね。」

その様子を満足そうに見ていた先輩は、課題を達成した子どもを力いっぱい褒めた。すると子どもが、

「先生も、ここで食べなよ!」

と誘っていた。

お弁当を食べ終わった後、「どうしてずっと関係のない話をしていたのか」聞いてみた。すると、

「お前さあ、友達が休みで自分は学校。そして、目の前にはやりたくもないドリルが置いてある状態で、『勉強しよう。』って声をかけて。やる気が起きると思うか?」

と言われた。確かにそうだ。例え、学習時間が10分だったとしても、長期的に見れば、この関係性を築くことができた価値は計り知れない。先輩は、目の前の課題を仕上げるのではなく、子どもの関係性を重視していたのだ。

教師の選択肢として、無理矢理課題を最後までやらせることもできただろう。ただ、ここで課題をやらせるという選択肢は、「教師」と「子ども」の関係性を考えたときに、教師側の目的意識が強く出すぎてしまうことは明らかだ。僕等がとった選択肢は、漢字プリント全てを終わりにすることはできなかったが、関係性を築くことができた。「この先生なら、自分の話を聞いてくれる。」という関係性は、プリントを終わりにする以上の価値がある。

子どもの成長を願う大人にとって心がけるべきことは、「自分の目的を達成するには、まずは、子どものニーズを把握する。」ことだと教えてもらった。

きっとこの休校の中で、また彼と学習するチャンスがある。次は、「話を聞いてくれる人」から「勉強を教えてくれる人」にレベルアップする必要がある。一筋縄ではいかないが、子どもの言葉をよく聴きながら、ゆっくりとステップアップできるようにしたい!

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