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ぱっと見、ワークシートのススメ。

以前、担任させていただいた学級の授業風景。国語の時間。

(日直が挨拶を終えた後)「さあ、国語を始めるよ。ノートを開こう。今日の課題を書きましょう。」と言って、僕は黒板に「登場人物の人柄を読み取ろう。」と書いた。そして、子どもたちの方を振り返ると、

「すでに寝る体制かいっ!!しかも、5人も!」(心の声)

内心同様しながらも、爽やかに「ノートを開こうか。」と促し、大人の余裕をみせた。そして、活動を指示する。

「今日は、登場人物の人柄を読み取るよ。まずは、通して一度読んでみよう。では、準備ができた人からどうぞ!」


「誰も、読みゃしねえ!!!」(心の声)

もう、衝撃受けまくり。恥ずかしながら、長い間教師をしていて、これほどまでに学習意欲を失った子どもの集団を目にしたことがなかった。1年後には、卒業を迎える6年生。干渉しない人間関係から無気力授業スタイルまでかちかちに固まっていた。4月。衝撃を受けまくりながらも、普段の僕であれば、あり得ないほどのテンションの高さを常にキープし、これまでの経験から生み出した楽しく授業できる小技を出し惜しみすることなく次々と投入していった。結果。

「もう、出せる技ありません。」(心の声)

完全に心が折れた。僕なんかのレベルで手におえる集団ではなかった。今振り返って、当時の僕に声をかけてることができるのなら、2つ褒めたい。

①「最後まで『力づくで従わせる』という選択肢を我慢したのは正解だ。」②「大丈夫。その経験はお前のレベルアップにつながったぞ!」

今思えば、彼らの固定された人間関係の根底にあったのは、「不安」なのだと思う。「自分を否定される不安」僕は、これを倒すことができなかった。言い訳をすると、果敢に挑んではいた。「世の中には、こんな面白おかしい大人がいてもいいんだよ。だからみんなも楽しもうじゃないか。」とメッセージを送ったつもりだ。残念なことは、受け取ってくれる人があまりにも少なすぎた。学級は、集団で決まる。どのような集団の勢力が大きくなるかで、その学級の雰囲気は決まる。僕の指揮した集団はあまりにも小さかった。「不安」という目に見えない統率者に指揮された集団の力は計り知れない。自分自身が取り込まれそうになった。度々、「教室には、僕一人しかいないんじゃないか。」と思うようになり、何度も頬を張りながら何とか前進した。だがしかし、人間は偉大だ。そのような絶対絶命の逆境においても、一筋の光を見いだすことができる。それが、

「ぱっと見、ワークシート!」だ。

この秘密兵器は、何かというと対して革命的なものではない。ただ、自分の授業スタイルを広げてくれた相棒の1つである。このような追い込まれた状況で、自分が目指した授業スタイルを全て捨てた。

「手が上がらなくても、声を出さなくても、笑顔がなくてもいいじゃないか。力がつけば。」(心の声)

完全に振り切った。彼等の特性は、やはり自己肯定感の低さからくる、「間違えたらどうしよう。」「だれかに否定されたらどうしよう。」という圧倒的な「不安」なのである。その不安を解消する手立てとして、授業の見通しを明確に子どもたちへ提示した。子どもが「今日の授業では、何をするのか。」ということをワークシートを見ればその全貌が分かるよう心掛けてつくった。その結果、ワークシートを配付した瞬間に、

「先生、やっていいですか。」

と聞いてくれる子どもが続出した。自分の考えを表現することには気が進まないが、学習意欲は失っていなかったのである。黙々と問題を解き進める子どもたち、ぱっと見でできるので、教師が説明する必要もない。個別に支援が必要な子ども中心に教室内を循環して、適宜丸をつけたりアドバイスしたりしていく。

「それまで目指していた『子どもたちがムキになって話し合うような授業づくり』からは、程遠いが、眠ることなく真剣に取り組む子どもたちの姿を見ることができたのならいいじゃなかいか。」(心の声)

僕は、新たな武器を手に入れた。

現在、担当させていただいているクラスは、子どもたちの声が途切れることはない。むしろ、

「少し話を聞いてほしいんだけど・・・。」(心の声)

なんて思うこともある。個別の支援が必要な子どもがとにかく多い。そんなときは、この「ぱっと見ワークシート」が効果を発揮する。

説明をしなくても取り組めるということは、「見通しをもてる安心感」だけでなく、

「僕もできるかもしれない。」

という、学習に苦手意識のある子どもに「勇気」を与えるという効果もあることが分かった。一斉授業をすると、一瞬にして床に寝転ぶ子どもも、このワークシートは、取り合えず取り掛かろうとはする。これは、すごい効果である。

ワークシートにも限界はある。全ての授業をワークシート化することはおすすめしない。やはり、目の前の子どもの実態や、授業内容に合わせて検討する必要がる。しかしながら、これからの小学校教育で、全ての授業を「みんなで考えよう。」のスタイルで押し通すことは、不可能である。こどものニーズは、ますます多様化する。そんなとき、「ぱっと見、ワークシート」が教師の行く手を照らす光となることを僕は確信している!



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