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何の音楽を聴けばいいかわからなかった

わたしは悪い意味で、人間失格の主人公のようなところがある(いい意味ってあるのかな?)。人間社会の営みがわからないのだ。最近はそうでもないが、昔は特に。

中学のときも象徴的なことがあった。いつの間にか、わたしと通常の人の間に溝ができている。みんな、ヒット曲を知っている。わたしは知らない。え、ビーズってなんですか?

文化祭かなにかの行事でかける曲を決めるということで、投票用紙が回ってきたことがある。候補が5曲くらいあった気がするが、わたしは何ひとつわからなかった。謎のカタカナが並んでいるだけ。

数少ない友達のダルシムに聞いてみた。わたしの友人なのでメインストリームにいる人間ではない。

記事にときどきダルシムが出てくる(↓)

わたしと同種の、次元のはざまにいる人間から「有名やん。知らないんか?」と言われた。わたしは焦らざるを得なかった。

なぜみんな知っている! このままでは田舎に裁かれるではないか(田舎は独自のアルゴリズムで異物を検知しレーザーで焼き殺す)。

なお、当時はインターネットなど存在していないことをお伝えしておく。田舎なので、音楽イベントの類もない。

わたしは真っ先にテレビを疑った。ここに秘密があるのではないか……。それに、自分の行動についても身に覚えがあった。わたしはその頃プロ野球が大好きで、ゴールデンタイムは野球中継ばかり観ていたのだ。同世代とは違う行動だという自覚があった。田舎は自由を許さない。

わたしは注意深くテレビを見まわしてみた。気づきがあった!
「これか!」
CMである。CMには曲がかかっている。みんなこれを見て、流行りの音楽を学習しているのだな。

しかし問題があった。曲が流れているのはわかるが、曲名がわからない。画面を隅々まで見渡す。隅っこにものすごく小さな文字で曲名がかかれていた。しかもすぐに消える。これは難易度が高い。みんなこんな努力をしていたのか。というか、マサイ族か! 田舎で生きるとはなんてレベルの高いことなのだろう。視力の悪いわたしにはこのアプローチは厳しかった。

今はこんなに音楽が大好きです(↓)

次のわたしの気づきはこれだった。そうか、ドラマだ! ドラマを観ればいいんだ。幸い、当時は夕方5時ごろにドラマの再放送もやっていた。わたしは「101回目のプロポーズ」を観た。「SAY、YES」いい曲や。

このアプローチはいっけん正しいように思えた。しかしこれにも問題がある。効率が悪すぎる。1曲覚えるのに、全12話くらい観なければならない。

わたしが次に行きついたのはラジオだ。わたしが求めているような曲を流してくれることはめったにないのだが、たまに来ることがある。だいたいは興味のないDJのおしゃべりと、まったく求めていない雰囲気の曲で時間が消費されてしまう。

なんだろう、このイマイチ感は……。この感じをたとえるなら、釣りだろうか。獲物がかかるまで、じっと待つ。音楽とは釣りなのか? 田舎は、釣りの心境を得よと人々に告げているのか? 

わたしは天を仰ぐ。田舎は何も語らない。だけど、裁きは確実にくだされる。

わたしがオリコンのチャートにたどり着いたのは、その1年後だった。


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