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送球漂流記 Vol.6お金か名誉か

Vol.5「蘇る記憶たち」では、私たちの記憶は素敵なご縁として掘り起こされる黄金の泉のようなものであると書きました。経験として積み残されていくスポーツの記憶は、人生を豊かにしてくれる素敵なものに他なりません。Vol.5「蘇る記憶たち」⇒

その「蘇る記憶たち」とは違う視点で、今回はスポーツやハンドボールに少し触れたいと思います。ずばり、お金か名誉か。

プロ・スポーツの命題

日本が誇るボクシング界のモンスターこと井上尚弥選手(WBAスーパー&IBF世界バンタム級チャンピオン)とフィリピンのジョンリエル・カシメロ(WBO世界バンタム級チャンピオン)による3団体統一戦が新型コロナの影響で長らく延期になっていました。しかし、この歴史的一戦が中止だそうです。お互い次の興行が決定しているようですから、このビッグマッチは一旦中止ということは間違いないでしょう。

ボクシングにはプロモーターという存在があります。いかに強い相手を倒して名を挙げるか。それによって、超大型の強力なプロモーターと契約することができます。井上尚弥をプロモートするトップランク社は、アメリカの最大手とも言えるプロモーターです。トップランク社と契約するということは、ボクシングの本場アメリカにおける大きな興行を開催することのできる選手だと認められた証拠でもあります。そのような意味においても、井上VSカシメロというビッグカードは世界が注目するところでもありました。

今回の中止の理由として挙げられているのが、カシメロサイドが新型コロナによる無観客試合のため「報酬減額」という条件を承諾できないからだとの報道がありました。

報酬であるファイトマネー等は、例え試合に負けたとしても支払われます。したがって、ビッグカードであればあるほど両者にとってその報酬は巨額なものになります。しかし、無観客となれば興行収入がその分見込めないため「減額」という措置を取らざるを得ません。

減額を受け入れた井上サイドと受け入れないカシメロサイド。この真相はわかりませんが、下馬評ではカシメロは井上に勝てないという意見が多かったように思います。カシメロにとって、この試合をすることは勝ち負けに依存せずとも自分の名前をもっと売り出すチャンスとして捉えることができるかもしれません。あるいはカシメロほどのパワーヒッターであれば、このビッグマッチそのものを行うことに金銭的価値があるかもしれません。

お金のためか、名誉のためか。この究極の選択は、ボクシングだけでなくスポーツ全体の命題と言えるかもしれません。

「できない」魅力

にわかではありながら、ボクシングというスポーツは僕にとってとても魅力的なスポーツです。その理由は、自分には絶対的にできないから。厳しくて辛い減量を乗り越え、その極限状態の中で拳と拳で語り合う。極めて原始的でありながら、最高のスポーツだと思うのです。同時に、自分には絶対できないスポーツだとも思うのです。

ゆえに、その正々堂々とした姿に観る人の多くが魅了され、世界中の多くの人がその結末を追いかけます。あれだけのビッグマネーが動くスポーツであることに納得することに時間を要しません。

そこで「自分にはできない」という視点は重要かもしれません。スポーツを観るものにとっては大いに魅力的な視点かもしれません。ハンドボールも同様にやってみて、教えてみて、観て、様々な点から「難しいスポーツだな」と感じることが多々あります。ゆえに、これほどまでに僕自身が取り憑かれているのかもしれません。

「できる」への憧れ

さて、スポーツの命題は「お金か名誉か」かもしれないと最初に書きました。プロとして挑むスポーツ選手の多くに、このことは非常に重要な概念になってくると思います。しかしながら、お金にせよ名誉にせよ、そこには多くの観るものたちがいて憧れるものたちがいるからこそ生じる概念であることも事実です。それはボクシングであろうとハンドボールであろうと変わりがありません。

自分には絶対できないスポーツだから、その戦いに挑むボクサーたちに憧れ、魅了され、ボクシングをスポーツとして観る。

ハンドボールにおいては、自分がやってきたスポーツだからこその難しさをあらゆる面で感じます。そのハンドボールを日本のトップリーガーたちはお手本となるようなプレーをして、魅了するようなプレーをして、私たちの憧れの対象として披露してくれます。

あのとき感じたオムロンへの憧れも、そういったものだったのだと思うばかりです。
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お金か名誉か

スポーツには「できる」も「できない」も魅力にする力があります。エネルギーがあります。だからこそ、お金は動き、名誉称讃を得ることもある。

ハンドボールは難しい。ゆえに、魅力的でもあります。「難しい」に積極的にチャレンジしていく子どもたちこそ、もっと増えて欲しい。

プロスポーツを観る者の1人として「お金か名誉か」という視点から、そんなことを考えさせられました。

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