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特別支援学校「生活のための数学」

学校司書3年目の私は、特別支援学校に勤めていた。
読み聞かせは、主に小学部と中学部を中心にはいるのだが
高等部でもやったらいいと言ってくれて
教務主任の数学の授業の後半の15分での読み聞かせに入ることになった。

ある時、他のクラスの読み聞かせを終えて移動すると
まだ数学の授業が続いていた。

生徒たちの手元には、何やらプリントと、電卓と筆記用具。
(筆算ができなくても、計算の理屈がわかっているなら、電卓があればなんの問題もないと先生は私に教えてくれた。)

みんなの計算の答え合わせが始まる。
時給820円。
朝9時から15時まで働いて、間で1時間お昼休み。
A.4100円

「では、月給なら?週休2日で、1か月は4週とする。」と先生。
4100円×5日×4週
A.82000円

「1か月働いたら、82000円もらえる。何を買いますか?」
「そうだね。いろいろ欲しいものがありますね。」
「でも、生活をしなければならない。住むところ、毎日の食費もあるね。水道や電気もただではない。」

『ええ~、それじゃ何も買えない』

「820円。これは最低賃金といって、最低限この時給以上は払いましょうと決まっているから、必ずこれはもらえる。そして、今は5時間で計算した。もうちょっとがんばれば、給料はもっともらえるんだ。」

『じゃあもっと働く』

「もう一つ。最低賃金が適用されるのはA型の事業所だけだ。B型の事業所は、時給ではなく工賃。仕事をしたらした分だけもらえる。でも、1つがとても安くて、1時間でできるのは200円とか300円分ぐらい。例えば300円で計算してごらん。」

みんなは、とても真剣な表情で計算をしている。そして、金額の少なさに戸惑っているようだった。私も一緒に戸惑ってしまった。

「じゃあどうしたらいいか。」

「〇〇くんは、キータッチ。もうちょっと頑張ろう。」
「〇〇さんは、先日研修に行ってきた接客。よくできていたんだから、もうちょっと自信を持って。」
「〇〇くんの作業はとても丁寧。もう少しだけ早くできるように練習していこう。」

そうやって、先生は全員に「もう少しがんばること」を教えてくれた。

「みんなそれぞれ、もうちょっとがんばったら、最低時給よりもっといい金額だってもらえるんだ。そうしたら好きなものも買える。」

『そうか。もうちょっと頑張ってみよう。』
みんなそんな顔をしていた。

ここでの学びは、未来の生活に直結している。
私も改めて学んだなと感じられた授業だった。


そして私は、この授業を聞きながら、後ろにある本棚で選書をこっそり変えて、この後の読み聞かせで、お金に関連する絵本を読んだ。

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