見習いたいと思うところがたくさんある私の上司

今の職場に勤めるようになって、9ヶ月が経った。

医療職から全く違う分野での仕事。始めの頃は、職場で聞く言葉は聞き慣れないものばかりで、知っている言葉でも自分には関係ないと適当に流してきたものが多く、その言葉たちを理解し、慣れていくことに必死で、慣れるまではまるで異世界にいるようだった。

仕事で関わる方も、今までとは異なる分野の方々ばかりだった。電話対応でも、
「○○事務所の○○士の○○ですが、○○契約の云々・・・」
と流暢なしゃべりと専門用語のオンパレード、メモを取るにも必死。受話器を置き、上司に伝言するために自分で取ったメモを見ても、殴り書きの字が酷すぎて、解読するにもひと苦労。

自分のメモと、さっきまでの会話を思い出しながら、パズルを組み合わせるように伝言内容をまとめ、上司に伝達。私は嫌な汗をかきながら、漏れがないようにと懸命に上司に伝えるけれど、結局は私が伝えたことを上司が要約してくださるような始末。

それでも、果敢に電話対応に挑み、だんだんと受話器から聞こえる言葉や、相手の方が伝えたいことも理解できるようになってきて、話の内容によっては、上司に電話を繋いだ方がスムーズであることの判断も、大分できるようになってきた。

電話対応だけでなく、証書作成の準備や書類の編綴、他細かな業務など、仕事を始めた頃は、なにをするにも心臓の鼓動を自覚するくらい緊張していた。

そんな私に上司は何度もこう声をかけてくれた。

「分からなくて当たり前だからね。ボクも4年経ってやっと分かるようになってきたからね。」

退官後も今の職に就き、知識と経験が豊富なこの道のプロである上司。無知な私の緊張感を和らげるためにそう言ってくださっているのは伝わってきたけれど、その頃の私は無知であることに焦りを感じていて、素直にその言葉を受け取ることができなかった。

しかし、上司の仕事を側で見ていると、自分の知識や経験だけで仕事を進めているのではなく、今でも全書を開き、過去のケースを確認し、ときには同役に問い合わせをしながら、確実な仕事に努めている。

極端なことを言えば、長年の知識や経験があっても、この世の中で起こることすべてを知り尽くせるわけでない。幾つになっても初めてのケースや異なったケースに出会い、その都度確実に、そして丁寧に対応していくことが大事なんだと思った。

それは経験や知識が豊富な上司の日々の仕事の姿勢から学んだことだ。

それからは私自身も、焦らずひとつひとつ確実にそして丁寧に進めていけば良い、と心がけながら仕事に努めている。


先日、希有な手続きの問い合わせがあった。これは上司に直接あった問い合わせだったけれど、それに関わる資料を一式ファイルに集めてくださっていた。「こういった手続きもあるんだあ。どんなことをしなきゃいけないんだろう。」と思い、私はその資料を読み、9ヶ月の間にあったケースと照らし合わせながら、一致する点や異なる点について考えていた。

ふむふむと資料を読んでいる私の側に上司がやってきて、

「年に1回あるかないかのケースだから、ボクも緊張するよ。一緒に勉強しながら進めていこうね。頼むね。」

この分野の仕事に携わるようになってたった9ヶ月のまだまだ無知な私に、誠実な言葉をかけてくださり、私の口から思わず出た言葉は、

「はい!こちらこそよろしくお願いします。」

だった。


今の上司は、人に対する声のかけ方や、仕事に対する姿勢も尊敬できる人だ。そういう人と一緒に仕事をしていると、見習いたいと思うところがたくさんある。自分はもう大人なんだけれど、

「私もこういう大人になりたい」

と常々思っている。





ヘッダーは初雪さんのイラストからお借りしました。ありがとうございます。

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