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頑固で無口な父の形見の品

春を迎え、そろそろトイプードルの三郎も衣替えの季節となりました。冬はシルバーショップで購入した可愛いセーターを着させていましたが、そのセーターは来シーズンまで大切にしまっておきます。

私は編み物はできないけれど、縫い物は大好き。以前にも三郎の服は作りましたが、新しい服をまた作りたくなりました。

お店に行って生地を探すことも楽しいですが、今回は15年前、娘が保育園に入園するときに作ったお弁当袋や巾着袋、布団袋、ランチョンマットの余り生地が家にたくさんあったので、その中から探しました。

娘なので余り生地はピンクやうす紫など、女の子仕様のものが多いのですが、その中にプーさん柄の黄色い生地がありました。

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これなら男の子の三郎でもおかしくないかなと思い、これに決定。

ネットで犬の服の作り方を検索し、型紙を作り、生地を裁断してミシンで縫い始めました。伸縮性の低い生地だったので、三郎に着せるときは大変だろうなと思いながらも手を止めることなく完成させました。

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着せてみたらパジャマみたいです。


裁縫の時に使う家庭用ミシンは、嫁入り道具として父が私に持たせてくれたもの。ミシンを持たせてくれたのには理由があり、父にとっては生活の一部になっていたからだと思います。

私が幼いころ、父は洋服店を営んでおり、家には足ふみミシンや、作業台、裁縫道具もたくさんありました。作るものはオーダーメイドの背広。


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当時家にあった足ふみミシンによく似た画像
(アンティークミシン修理士の工房さんからお借りしました)


作業をする父の姿を私は今でも覚えています。いつも首にはひも状のメジャーをひっかけていました。作業台で長い竹の物差しを使って生地の長さを測り、鉄製の大きな裁ちバサミで生地を裁断していました。

足に障害を持つ父でしたが、足ふみミシンを器用に使い、左手は生地を押さえ、右手は手回しハンドルを回したり止めたりしながら、テンポ良く背広を仕上げていきました。

玄関を入ってすぐ左には応接間がありました。あの部屋は大人の雰囲気があり、幼い私は「入ってはいけない部屋」という印象を自然と持っていました。あの部屋でお客様の採寸や、出来上がった背広のお渡しをしていたんでしょうね。

次第に既製品を扱う大型店舗が出現し、背広を個人の洋服店で誂えるお客様も減少してきたため、父は洋服店を閉めることにしました。当時の私は小学校低学年。気づいた時には父は外に働きに出るようになっていて、いつお店を閉めたのかもわからないくらいでした。

私が高校生の頃は、制服のスカートがだんだんと短くなっていった時代でした。高校入学時に作った制服のスカートの丈はひざ下10㎝。私はスカート丈を短くしたくて、腰のところで二つ折にしていました。折るとスカートのヒダの形が悪くなるため、折らずにヒダもきれいな状態でスカートをはくことができないかと模索しているときに、あることを思いつきました。

中学校の時のスカートを、一か八か短く切って縫ってみよう!

中学校も高校もセーラー服で、色は微妙に違っていたけれど目立つほどではない。私は父が使っていた鉄製の大きな裁ちばさみを握り、目見当でザクザク切っていきました。次は手縫いでまつり縫いをし始めましたが、プリーツを広げると気が遠くなるような長さで、あっという間にやる気が失せてしまいました。

結局、裁断したままのスカートを放置し、いつものスカートを腰のところで二つ折りにしてはき、登校していました。

それから数日後、父が私に
「スカート縫っといたぞ。あんなに短く切っちまって。」
私は「やばい、バレた。怒られる。」と思い身構えましたが、父はそれ以上何も言わず、黙っていました。

スカートを見に行くと、プリーツスカートの長い長い裾はきれいにまつり縫いがされていました。それもとても丁寧に。私がいい加減に切ったスカートを、昭和の背広職人だった父が黙って仕上げてくれました。

見事な縫い目に背広職人の誇りと、「しょうがねえなあ」という父の呆れた思いが沁みたスカートをはき、頑固で無口な父はなぜ私を怒らなかったんだろうと考えながら登校したのを思い出します。

父の形見として、父が自分で仕立てよく着ていた背広と、鉄製の裁ちばさみをもらいました。背広の裏地は昭和ならではなのか、とても派手なもの。元気な頃の父の体にピタリと合った形をしていて、縫い目はとても繊細できれいです。

鉄製の裁ちばさみは、私が裁縫をするときには必ず使っています。独身時代に用意した裁縫箱を今でも使っていますが、その中に入っている裁ちばさみは切れ味が気持ちよくない。父の鉄製の裁ちばさみは、重みとともにザクザクと独特な音がして、裁断するのがとても気持ちいいのです。



裁縫が苦にならないのは、父の血を引いているからなのかもしれないけれど、裁縫は無心になれて、気持ちが自然と整っていく時間を過ごせるから大好きなのです。嫁入り道具のミシンや、鉄製の裁ちばさみを使いながら、これからもチコチコと縫い物をしていこうと思います。


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