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10話

3年生の卒業式が終わり、そのあとは各部活での送別会。

水泳部も先輩方を見送る。

彼は、そこに姿を現さなかった。

センパイが卒業してしまうのが、イヤだ。
好きって言えない自分が、イヤだ。
センパイだけ大人になっていくのが、イヤだ。
何もかも、イヤだ。

全部捨てたい。

人を好きになることが、こんなにも苦しいだなんて知らなかった。

出会わなければ良かった・・・
そう思うのは、好きになってしまった弱音だって分かっている。

その後、彼は・・・

行き場の無い想いをすべて泳ぐことに注ぎ、着実にタイムを伸ばしていった。

静かに日々は過ぎ、季節が進み、4月。
彼の3年生がスタート。

水泳部には新入部員がけっこう入る中、マネージャー希望の女の子がいた。

現在の水泳部はマネがいない。
マネは貴重な存在。

マネ希望の女の子は彼に言った。

「先輩、わたしがマネになったら嬉しいですか?」

もちろん、うれしいよ。
(ここはマネ確保せねば!)

「先輩は彼女、いるんですか?」

今は、いないね。
(センパイ、元気かな・・・)

女の子は水泳部のマネになった。

直球ど真ん中ストレートなマネ。

部活終わりに誘われ、毎日のように一緒に帰っていた。
彼はただ部活に打ち込むだけのロボットのような状態。なんとなく、なされるがままに・・・

もちろん彼は、マネが自分に好意を持っていることを理解していた。

その1ヶ月後、マネは彼に言う。

「先輩!わたしと付き合ってください!」


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