「どんなことばも社会を纏ってしまってる」
友人に「ゲイいじり」「童貞いじり」をされた主人公・七森。その心情の描写に、こんな一節があった。
あいつらの、僕らのことばがどこまでも徹底的に個人的なものだったらよかった。嫌なことをいうやつから耳を塞いで、そいつの口を塞いでそれで終わりなら、まだこわさと向き合えた。でもそうじゃない。どんなことばも社会を纏(まと)ってしまってる。どんなことばも、社会から発せられたものだ。そう考えるとどうしようもなくなって、七森はしゃがみこんでしまう。
ー大前粟生『ぬいぐるみとしゃべる人はやさし