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節分に豆菓子はいかが?

 この前、年が明けたばかりだと思っていたのに、明日は何と、節分だそうだ。生きていると、いろいろなことに慣れていくものだが、時間の速さは、いつ何時なんどきでも私を驚かせに来るので油断ならない。

 節分といえば豆だ。
 昨年の今頃、スーパーで小学校低学年らしい男の子が、
「お父さん!節分の豆買ってよ」
 そう言って、お父さんの袖を掴んで引っ張っていた。
「えぇ? この前買ったじゃないか。そんなに買っても食べきれないよ」
 お父さんは、少し驚いた様子で男の子を見る。
「ボク、豆好きなんだよぅ。食べられるよぉ。だってボク、豆が大好きだからさ」
 男の子は豆に対する愛を、これでもかとお父さんに訴えている。
 私はその光景を見ながら、思わずニンマリした。こういう渋好みの子供に出会うと、何故かわからないが、不思議と嬉しいものだ。
 彼の訴えは聞き入れられ、お父さんは買い物かごに、節分用のいり豆を入れた。
「やったー!!」
 ガッツポーズで喜ぶその子を、私は微笑ましい気持ちで眺めていた。

 あの子に負けないくらい……とまで言えるかわからないが、私もいり豆は好きである。口寂しいとき、ポリポリやり始めると、止まらなくなってしまう。毎年、節分が終わっていり豆が安くなると、少し多めに買い置きする。

 先日、スーパーで、普通の節分用のいり豆の横に、砂糖がコーティングしてあるいり豆を見つけた。私は思わず「諏訪湖豆みたい!」と喜び、買い物かごに入れた。

 諏訪湖豆とは、長野県諏訪市にある七福堂の豆菓子である。

 原材料は、大豆、砂糖、澱粉のみ。いり大豆に、砂糖がまぶしてあるだけの豆菓子で、あぁ、こんな味だろうな、と想像できそうである。

 初めて購入したとき、車に戻って即開封し、諏訪湖豆をつまんでみた。私はすぐさま、追加購入すべく店に戻った。5袋抱えて車に戻ってきた私を見て、夫が、
「え、そんなに……」
 と驚愕している。諏訪湖豆は私の想像より、何倍も美味しかったのだ。
「だって、お土産に2袋あげたら、私はあと4袋しか食べられないんだよ」
 私が言うと、
「……え、俺の分はないの?」
 そう言って夫は震えていた。

 諏訪湖豆は、諏訪湖サービスエリアでも売っている。立ち寄るときには、いつも今日は何袋買うか、心の中でせめぎ合いが始まってしまう。


 東京で豆菓子といえば、何と言っても、麻布十番にある豆源の豆菓子は外せない。私は本店に行ったことはないが、いつもデパ地下で買っている。デパートに行き、豆源の鳩のマークが目に飛び込んでくると、もうだめだ。吸い寄せられるように、色とりどりの豆菓子を手にしてしまう。そして、またもや、どれくらい買うべきか、心の中でせめぎあいが始まってしまうのだ。

 私は、特に豆源のカレー豆が大好物だ。
 正式名称はカレービンズだが、我が家ではカレー豆と呼んでいる。おとぼけ豆も美味しいが、やはりお酒にも合うとなれば、カレービンズ、黒胡椒豆、ワサビビーンズだ。こうして書いているだけで、私の意識は鳩のように、豆源に飛んで行ってしまいそうである。

 実は豆源以外にも、お気に入りのカレー豆がある。新潟県の弥彦神社近くで販売している、成沢商店のカレー豆だ。

 カレー味の甘じょっぱい蜜が、豆にかかっている。お店で試食を頂いたとき、かなり甘く感じた。これはちょっと、お酒のつまみにはならないかな…そう思った私は、一袋だけ買って店を後にした。

 弥彦神社の旅を終え、帰宅した私は、あのときの自分を恨んだ。成沢商店のカレー豆を一袋食べ終える頃には、私はその味の虜となってしまったからだ。

 甘くてスパイシーな香り、豆の歯ざわり。口の中でゴリゴリ噛んでいるうちに、甘さ、カレースパイス、豆の風味が混然一体となっていく。甘味はあるのに結構辛い。舌の上が少しひりつく。このスパイシーさが堪らない。そして私の手も止まらない。どんどん病みつきになる。残りが少なくなるにつれ、  

なぜ、もう一袋買わなかったんだっ!

 そう己をおのれ責めた。こうして書いていても、悔しさがよみがえってくる。弥彦神社に再訪した際には、あのときの恨みを晴らさんばかりに、大量に買い置きしてしまいそうで、今から怖い。


 私が豆菓子を好きになったのは、三十路を過ぎてからだ。
 それまでは、母が豆源の豆菓子を買ってきても、ふーん、といった感じで適当につまんでいた。今では考えられない。若さとは、何と愚かなことか……。

 それに引き換え、昨年出会った、あのいり豆の少年は素晴らしい。
 きっと将来、私以上に豆菓子の虜となり、塩豆がなければビールは飲めない、そんな有望な大人になるに違いない。
 今年もスーパーで、
「ボク、豆好きなんだよぅ。食べられるよぉ」
 と言って、お父さんに節分の豆をせがんでいたのだろうか。
 そんなことを思いながら、私は明日、44粒の豆を食べる。

 


お読み頂き、本当に有難うございました!