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「やさしさ」とは何か(2)〜「やさしさ」の4大要素〜

※前回の記事を未読の方は、ぜひこちらからどうぞ↓

前回の記事で、「やさしさ」と「おもいやり」の違いについて、私なりの考えを述べさせていただきました。

次に、私自身や周囲の人々を観察してきた経験から、おもいやりが発揮される場面を思い出し、箇条書きで並べてみることにしました。

そして、似た内容のものを集めて分類してみました。

すると、大きく4つのパターンに分類できると思いました。

・【共感】自分も似た経験をしたことがあるから、相手の気持ちがわかる
・【推理】人の状況や気持ちを察して、自分がとってあげるべき行動を考える
・【恩の貸し借り】恩義のある人に報いる
・【博愛】普段関わりはないけれど、同じ人間として人助けをする

「おもいやり」の4大要素

これら、

・共感 sympathy
・推理 detective
・恩の貸し借り balance
・博愛 humanity

の4つを、一旦「おもいやりの4大要素」と名付けることにしました。

おもいやりの4大要素

そして、「おもいやり」から、元々のテーマである「やさしさ」に考えを戻します。

前回の記事で触れましたが、「やさしさ」とは、「おもいやり」を発揮するためのベースとなる潜在能力です。

ですので、「おもいやりの4大要素」を発揮するための、それぞれの潜在能力とはどのようなものか考えてみることにしました。

すると、次のように考えることができると思いました。

・「共感」とは、「感覚」を共有すること
・「推理」とは、「論理力」で導くもの
・「恩の貸し借り」とは、心の「損得」の交換である
・「博愛」とは、損得に左右されない、個人的な「美学」に基づく万人に対する思いである

「やさしさ」の4大要素

これら、

・感覚 sence
・論理 logic
・損得 profit and loss
・美学 policy

の4つを「やさしさの4大要素」と名付けることにしました。

やさしさの4大要素


それでは、この「やさしさ(おもいやり)」の4大要素を一つ一つ、順番に説明していきます。

感覚(共感)

人には、生まれつき個体差があります。

性別、顔や体格、脳の特徴、成長や老化の速さ、神経の過敏さ、アレルギー、楽しいと思える瞬間など、あらゆる差があります。

つまり、人によって感覚が違うということです。

例えば、

・体の同じ部位を、同じ強さで叩かれても、激痛を感じる人もいれば、あまり痛みを感じない人もいます。

・大きな声で怒鳴られて、ショックを受ける人もいれば、全然へっちゃらな人もいます。

・同じ運動量や読書量でも、疲れ方が人によって違います。

・全く同じ仕事をしていても、やりがいを感じるポイントが人によって違います。

・健康によい睡眠の時間帯が、人によって違います。

・特定の生理現象や病気のように、人によっては一生経験しない苦痛もあります。

このような個体差が無数に存在する人間社会では、生まれつき特徴が似た人同士が集まり、共感しあい、仲良くなる傾向があります。

同じ悩みを抱える者同士だと、お互いの気持ちがわかるので、相手の求めている言葉や行動がわかり、おもいやりを示したり、受け取ったりできる確率が高まります。

逆に、感覚が異なる者同士では共感できないので、自覚なくおもいやりに欠いた言動をしてしまったり、勘違いして勝手に傷ついてしまうことがあります。

例えば、

・太りやすい体質で悩む人が、痩せすぎで苦しむ人に「いくら食べても太らないなんて羨ましい」などと軽い気持ちで言い放ってしまいます。

・背の高い男性は、背の低い男性の劣等感がわかりません。

・生理痛が軽い女性上司が、生理痛が重くて会社をよく休む女性の部下に、冷たい態度を取ります。

・マスクをしても平気な人が、マスクをつけられないほど顔が感覚過敏な人に対して、「マナー違反だ」などと糾弾する事例がコロナ禍でありました。

・嗅覚の鈍い人が、自分の口臭や体臭の異常に気づかずに、臭気を撒き散らします。

・「早寝早起きは健康によい」と盲信する人が、早寝早起きで健康を損なう体質に生まれてきた家族に、早寝早起きを無理強いしてしまいます。

このように、感覚が違えば共感ができないので、無自覚におもいやりに欠いた言動をしてしまったり、相手の言葉の意図を勘違いして勝手に傷ついてしまうことがあります。

論理(推理)

人は、他人が感じている楽しい気分や苦痛などについて、自分が未経験なことは共感できません。

しかし、喜んでいる表情や痛がっている仕草などを見れば、演技を疑わない限りどう感じているか把握することができる場合があります。

また、どのように感じるか説明されたり、本などで知識を得たりすることで理解できる場合があります。

例えば、

・爬虫類を飼育して可愛がる人を見れば、自分は爬虫類が苦手でも可愛がる気持ちを否定せずに尊重することができます。

・尿路結石は「痛みの王様」と呼ばれていることを知れば、その病気の経験がなくても罹患者の体をいたわることができます。

・書籍やテレビやブログの体験談などで鬱病の多様な症状と苦悩を知れば、鬱病が未経験の上司でも、罹患してしまった部下に十分な休暇を許可して復帰を急かさない対応を行うことができます。

・お年寄りが横断歩道をゆっくり渡っている途中で赤信号に変わっても、イライラせずに渡り切るまで待つことができるドライバーがいます。

・ヘルプマークの意味を知っていれば、相手が若く健康そうに見えても、電車で席を譲ることができます。

・アクセシビリティ(インターネットにおけるバリアフリーのようなもの)を考えるwebデザイナーは、色盲や全盲の人をテスターとして雇って意見を聞き、サイトデザインに反映させます。

このように、感覚が違う人でも、「知識」「観察」「推理」を駆使すれば、おもいやりを示すことができる確率が高まります。

ヘルプマーク

逆に、普段から知識を集める習慣がなく論理的な思考力が弱い人は、想像力が欠如しているので、本人は「やさしい人間でありたい」または「人に心の冷たい人間だと思われたくない」と思っていても、多くの場面で人を「おもいやる」ことができません。

人を傷つけてしまっても、自分の行動に悪気がないため「おもいやり」の無さに無自覚な状態になってしまいます。

例えば、

・旦那がカブトムシを飼い始めたのに、バルサンを焚いて全滅させてしまった奥さんがいました。

・子供が苦手だという食べ物を無理やり食べさせようとする親がいました。

・ネット上で「鬱病は甘えだ」などと言い切って物議を醸す人がいました。

・発達障害の苦悩を語る人に「そんな程度の苦しみなら、誰にでもあるものだ」とわかった気になってしまい、本人の前で思ったことを軽々しく口に出してしまう人がいました。

「知識」を集める習慣がなく「観察」を怠り「推理」をする気がなければ、おもいやりを示せる確率が低くなります。

おもいやりには「共感」だけでなく「理性」や「知性」も必要なのです。


損得(恩の貸し借り)

人は、関係を築くメリットがあると感じる相手にはおもいやりを示します。
そして、おもいやりを示してくれた相手には恩を感じ、おもいやりで返そうとする傾向があります。

例えば、全く見ず知らずの相手よりも、

・家族や親族
・クラスメイト
・友人
・職場の同僚や上司

などのような知り合いの方が、良好な関係を継続するメリットがあるので、おもいやりを示す確率が高まります。

さらに、知り合いの中でも、

・ケンカが強い人
・権力者や権威者
・有名人
・美人やイケメン
・お金持ち

には、良好な関係を継続するメリットが高いので、おもいやりを示す確率がさらに高まります。

逆に、メリットがなかったり、恩を売っても返してくれなさそうな相手には、おもいやりを示す確率が低くなります。

恩を売ることでデメリットが生じると思う場合は、さらに低くなるでしょう。

例えば、

・都会の喧騒で、困った様子で道ゆく人々に助けを求める人がいても、ほとんどの人は詐欺を警戒し、関わりたくないので無視します。

・ギャンブル好きの人に「お金を貸して欲しい」と言われると、今後の付き合いを考えます。

・クラスでいじめ被害者を不憫に思っても、助けると今度は自分がターゲットになるかもしれない不安があると助けることができませんし、逆に「いじめられる奴にも問題がある」と言うように、助けない自分を正当化し安心しようとします。

・美人やイケメンや上司やお金持ちなどにはやさしくしますが、そうでもない人には明らかにおもいやりに欠いた、落差の大きい振る舞いをする人がいます。

このように損得を天秤にかけて損が大きいと判断すれば、人はおもいやりを示さない判断を下すことがあります。

その判断スピードはとても早く、自覚的に計算高く行われることは稀で、ほとんど無意識に、生理的な反射神経で行われます。


美学(博愛)

人は、恩の貸し借りとは無関係に、全くの赤の他人に見返りを求めることなく、おもいやりを示せる場合があります。
 
例えば、

・貧困国の子供へ、食糧や医療支援のために、寄付をします。

・戦場で敵味方を問わず、怪我人を看護します。

・災害現場にボランティアに行きます。

・道端で倒れている人に声をかけて救急車を手配します。

・駅のホームから転落した人を、危険を顧みずに救助します。

・渋滞で隣の車線から入ってくる車に、前を譲ってあげます。

・迷っている人に道を教えてあげます。

・ホームレスに炊き出しを行います。

・事故現場に献花します。

・橋から身を投げようとする人を説得します。

などです。
 
人ではなくても、動物や植物や昆虫などにもおもいやりを示すことがあります。

・人工物に挟まって動けなくなった野生動物を助けます。

・岸に打ち上げられた鯨やイルカを海に返します。

・保健所に収容されたペットを引き取って里親になります。

・アスファルトのひび割れから生えたタンポポに水やりをします。

・屋内に迷いこんだ虫を捕まえて、殺さずに窓の外に逃がしてあげます。

また、生き物以外にも、おもいやりを示すことがあります。

・人の目に触れない場所でも、山や川や海岸でゴミ拾いをします。

・お地蔵様に積もった雪をはらって、笠をかけてあげます。

・ぬいぐるみや人形を修復することを、治療と呼びます。

・着られなくなった衣服を、修繕して綺麗に折り畳んでから、感謝の気持ちをこめて廃棄します。

このように、それぞれの価値観や美意識などによって、博愛精神が高い人ほど、おもいやりを示す機会が多くなります。


以上に示した、

・感覚(共感)
・論理(推理)
・損得(恩の貸し借り)
・美学(博愛)

の4つが、「やさしさ(おもいやり)の4大要素」です。

それぞれ単独で発揮される場合もありますし、複合的に作用しあって発揮される場合もあります。

「おもいやりの4大要素」と「やさしさの4大要素」を、前回の記事でも取り上げた「行為の7段階サイクル」に当てはめると、次の図のようになります。

第2回目は以上です。

続きはこちらです↓


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