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認知症の徘徊や暴力にはタッチングが有効

◆五感

「五感」とは、動物の持つ五つの感覚のことです。

視覚:目で見る
聴覚:耳で聞く
嗅覚:鼻でにおう
味覚:舌で味わう
触覚:皮膚で感じる

いずれも重要な感覚ですが、ここで究極の選択です。
五感のうち、どれか1つを残して、4つを失うとしたら、
どの感覚を残しますか?

この質問に、多くの人は「視覚」と答えるでしょう。
では、2つ残すとしたら?
「視覚」「聴覚」を選ぶ人が多いでしょう。

では3つ残せるとしたら?
「味覚」を選ぶ人が多いかもしれません。
「おいし~い」と感じれなくなったら、
人生の楽しみが半減すると思うのも無理ありません。

◆皮膚は感じている

軽視されているのが「触覚」です。
目、耳、鼻、舌、皮膚から入ってくる情報は、脳に伝わり処理されます。
五感のうち、最も多くの脳細胞とつながっている感覚は?
おそらく「触覚」でしょう。
「触覚」がなくなったら、人間生きていけないとまで言われています。

皮膚は人体で最も重く、最も大きな臓器です。
皮膚の表面には、触覚のセンサーがびっしりと敷きつめられています。
皮膚が感じているのは、「熱い」「冷たい」「痛い」「かゆい」だけではありません。

随筆家の白洲正子さんは、目が不自由でしたが、
根来塗の盆を触っただけで、ホンモノかニセモノか見抜いたと言われます。
生まれつき目の不自由な人は、
気配で目の前の人が誰だか分かると言われます。
これは、音やニオイではなく、肌で感じる触覚と思われます。

最近の研究では、皮膚は明るさや色を感じることができ、
音も聞き分け、ニオイもかぎ分けていると言われています。

皮膚が感じている情報のうち、
私たちが自覚できるのは4万分の1だけだそうです。
あの人とは「肌が合う」「肌が合わない」と言われますが、
皮膚は理屈をはるかに超えた相性を感じることができるのでしょう。

◆介護者を悩ませる認知症の行動

話は変わりますが、
介護者が困ってしまう認知症の行動とはなんでしょうか。
いろいろありますが、「徘徊」「暴力」ではないでしょうか。

攻撃的な行動や介護拒否、徘徊は、
ストレスホルモンのノルアドレナリンが影響していると言われます。
ノルアドレナリンは、ストレスを感じたときに分泌されるホルモンです。

脳の海馬には、ストレスホルモンにブレーキをかける仕組みがあります。
海馬は記憶をつかさどるだけでなく、
ストレスホルモンを減らす役割もあるのです。

アルツハイマー型認知症になると、海馬が萎縮するため、ブレーキがかからずストレスホルモンが過剰になり、脳が興奮してしまうのです。

「ストレスホルモンを減らすことができれば、徘徊や暴力も減るのではないか」とワシントン大学のペスキンド教授は考えました。

◆タッチング

米国のアズサ・パシフィック大学のリン・ウッズ准教授は、
アルツハイマー型認知症の人に、
「声をかけながら肩から背中に優しく手を触れてそっとなでる」
というケアを行いました。

すると、ケアを受けた女性は、
「とってもよい気持ち」とつぶやいて優しい顔になりました。

「手でそっとなでる」ことは、今日、タッチングと呼ばれています。
タッチングの後、唾液中のストレスホルモンを測定したところ、
減少していました。

皮膚は多くのことを感じ、それが脳細胞へと伝わっています。
「スキンシップ」とは、肌の触れ合いによって親近感を育むことをいいます。
優しく触れる「タッチング」により、
不安が和らいだり、痛みが軽くなることが経験されています。

「徘徊」や「暴力」の根っこには、「不安」があると言われます。
そんな人に、優しくタッチングをしてみてはいかがでしょうか。

参考文献
1)傳田光洋:『驚きの皮膚』, 講談社,2015
2)青柳由則:『認知症は早期発見で予防できる』, 文藝春秋,2016

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