詩 『夏のはじまりに生まれた風』
線路と一緒に夏を走る。
いつもは気にくわない風。今日のこの日は視線を合わせる。微笑む。
短い夏はいつだって思い出の中にあって、夏の中にいる自分には気づけない。
水の流れる音をきく。手ぬぐい越しの木々は映画のクライマックスさながらに揺れる。情緒ある距離感。葉の一枚ずつに事情でもあるみたいに。
そうしたら、帰ろうか。
澄んだ頭に体が追いつく。アスファルトに生きる賢明な命。
手の甲に擦り傷がいくつあっても、こんな日は平気に手をつなごう。
まだ少し白さが混ざる青の空。どこまでも居場所を見つける夏めいた雲。また会えた線路はこっちを横目で見ながら生真面目に振る舞う。元来、自由で笑い上戸なくせをして。
眠る一秒前に見るのはたぶん知らない人の人生。踊る姿に胸を打たれる。今日は仲良くなれた風に、この音楽を贈ろう。