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招かれざる客、居座る人

部屋のドアを開けたらベッドの上に鳩がいた。我が家は賃貸でペット不可なので、私のペットではありません。

もし旅先のホテルにチェックインして、もらった鍵でドアを開けたところに誰かが裸でいたらびっくりしますよね?知らない人がいるだけでも十分仰天ですが、相手が裸だったらもう混乱と驚愕で、ひとまず謝罪して扉を閉めることでしょう。

私は自分の家で、寝室に入ったら鳩がいたので、「わあっ!」と思わず叫び、向こう(白い鳩)も、「わっ」といった様子で、こちらを見て一歩後ずさり、私は引き返し、ドアを閉めました。

いったん閉じたドアを恐る恐る開くと、白い小ぶりな鳩がベッドのシーツの上にちょこんと両脚揃えて立ち、こちらに潤んだ黒目を向けています。

ちょっとかわいいかもしれない・・・いやいやいや、なんでこんなことになっているのだ?急に白い鳩がいるなんてマジックみたいだけど、鳩の横に帽子はないし、我が家にはマジシャンはいないはず。

目線を上げると、窓が開いている。

通常、私は窓を開けるとき、在宅時はカーテンを閉めて、留守にするとき暑さしのぎのために窓を開けていても雨戸(スペインでは網戸はないが雨戸がある)は閉めるようにしています。一応、防犯上に。

しかし、その時の窓は半分開いて、カーテンが20%くらい開いていました。

後から知ったところでは、私が帰宅する10分くらい前に出かけた相方が、空気の入れ替えのために、私がすぐ閉めるだろうと思って、少し窓を開いたままにしていたそうで。

私に澄んだ空気を吸わせてやりたかったのですね。優しい気遣いです。悪意はなかったのですから、責めることはできません。

人の行動とは、意図せず、時に予想外の結果をもたらすものです。

まさか、わずかな入れ違いの間に、わずかに開いていた窓から、侵入者があるなんて、計画的ではない正真正銘のサプライズ。

泥棒が入るのだって、家主にとっては予想してなかったサプライズですから、招かれざる客が来る時というのはそういうものなのでしょう。

招かれざる客といえば、スペインでは、他人が他人の家に侵入し住み続ける、占領して、出て行かない、という「オクパ(okupa)」という社会問題があります。

英語ではこの占拠は「スクワット(Squat)」で、する人たちのことは「スクワッター(squatter)」と呼ばれます。ご存じでしょうか?

泥棒なら盗んだら出ていってくれますが、オクパは他人の家に不法侵入して居座るのです。つまり家賃タダで住み続ける人たちです。

この概念はスペインに限らず、ドイツ、イギリスやアメリカでもあり、Wikipedia情報では、その他の多くの国々でもあるようです。スペインではオクパで、英語ではスクワッターです。

日本人にとっては頭の上にはてなマークがいっぱい発生しそうな概念なのですが、世界は広く、「郷に入れば郷に従え」の姿勢で読んでみていただきたい。

他人が占拠して出て行かない、追い出せない、私がそういう人たちがいるのだと知ったのはベルリンに住んでいた時でした。

ベルリンでは1970年代頃からスクワッターのムーブメントがあり、アーティストやミュージシャンが空きビルに住んで文化的な盛り上がりがあったり、左翼的な活動家が集まって政治的な活動をしたりという歴史があったそうです。

私がベルリンで出会ったパンクな女の子が、スクワッターの家の集まりに行ってご飯を食べるから「来る?」と聞いてくれたことがあったのですが、私はまだスクワッターが何なのかよく知らず、なんとなく怖くて断ってしまいました。

今となれば、そんな機会滅多になかったから一度見学に行ってみればよかったかもと思わなくもないのですが。

国によって状況は違いますから、不法占拠なのか違法なのかというところは、私は言及する知識を備えていないので他に譲りますが、スペインでは、一度オクパされると、そのオクパした人たちには住む権利が発生して、大家であっても退去させるのは相当至難の業であると聞いたことがあります。

そして大家はこのオクパを退去させるために、裁判をすると金も時間も膨大にかかるため、「追い出し屋」みたいな人たちにお金を払ったり、またはオクパに出てってもらうために示談金を払ったり、なんとも不可解な状態なのだそうです。

本来は、多くの場合は、長年空き家となっているところに住むスタイルで、文句言う人もいなかった、と聞いたことがあります。

なので、夕飯食べてたら知らない人がいきなり突撃してきて住み着いた、みたいな世にも怖い話ではなかったようです。

ただ、 Airbnbで宿泊客が居座り占拠したり、休暇用の家(別荘)に侵入されたり、例外もあるようなので、やはりゾッとする話ではあるのですが。

オクパについて日本語で書かれているものあるかな、と調べたら、ありました。バルセロナで宿を経営している方がオクパの被害にあわれていました。

とっても壮絶で、警察や行政は助けてくれない、と言うのがよくわかるお話で、この方のご苦労が痛いほど伝わってきました。

話は鳩に戻り、私はこのスクワッターやオクパの話を以前から耳にしていたものの、それが実際にどれほど家主を困らせることか理解していなかったことに、寝室の鳩を見て気づきました。

オクパ鳩はすぐには出ていってくれませんでした。

鳩からしたら、無人だった部屋でくつろいでいたのに、後から入ってきた私の方が侵入者です。

驚いて飛び上がり、窓の方へバタバタと向かいましたが外には出ず、カーテンレールの上に停まりました。

カーテンレールで休む鳩

私は鳩に出ていってもらおうと、鳩が停まっている足元のカーテンをゆっくり引っ張りますが、レールの上の鳩はカーテンと一緒にマイケルジャクソンのごとくムーンダンスをしてスライドしていきます。

その後、鳩がベッドの上をバタバタと飛び、うんこをシーツの上に落とし、ベッドの下に隠れてしまいました。

白くて小柄で、ちょっとかわいい、動物は好きなので一緒に住むのもアリ?なんて一瞬思ってましたが、うんこをされて、やはりオクパ鳩と同じ屋根の下で共存は無理だと気づきました。

家が占領されたのに、オクパがグッドルッキングだったから、悪い人じゃないし、なんて、つい心を許してたら、冷蔵庫の中は勝手に食べるし、掃除しないからゴミ部屋になって、慌てて「追い出し屋」にお金払う家主の気持ちでしょうか。

鳩には、うちから出ていってもらわねばなりません。棒で突くのは野蛮な気がする、だけど、羽の間から黒い虫が見えたし手づかみも無理。

「そうだ、ベッドの下に逃げ込んだ鳩を追い出せるのはルンバだ」と、お掃除ロボットに白羽の矢を立てました。

ロボットは感情がないんだから、恐れたり、かわいそうって思ったりしないはず。私は自分がやりたくないことをルンバに押し付け、窓全開の部屋にオクパ鳩と閉じ込め、私はドアを閉めて部屋を去りました。

しばらく経って「そろそろ鳩も出ていったかな」と部屋をのぞくと、ルンバが掃除し続ける中、鳩は丸いルンバが届かない隅にじっとしていました。冷静な判断です。

ルンバの届かない場所で待つ鳩

鳩のあの小さな頭に入った脳みその方が、私の脳みそよりも優っていました。

結局、私の低速脳みそとノミの心臓では、鳩を追い出せず、相方が帰るまで窓を開け放したまま放置して待ちました。相方は盛大に棒で突いて、鳩はバタバタと大騒ぎの末に出ていってくれました。

一度入らせたら追い出すのは大変。対処よりも予防が大切。白い鳩が私に教えたくて来てくれたのかもしれません。

ふと気づいたのですが、白い小柄な鳩だからってちょっと好意的に思ってしまった私って、差別的じゃないですか?白い鳩は良くて灰色の鳩はダメなんかい、小柄は良くて大柄はダメなんかい、という。

まずいですね。ごめんなさい。改めます。

気づけば鳩について書くのは3回目でした。私の日常は鳩と密接にあるの運命なのかもしれません。わからんけど。

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