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残像。

確かに知っているはずの、
何かを見た。

どこで見たのか。
何を見たのか。

皆目わからないのに、
『知っている』ことだけ、
知っている。

指と指の隙間から、
零れていく砂。

風にさらわれて、
二度と集められない。

汗ばんだ掌にまとわりついて残った、
砂粒みたいだ。

拭いたくても拭えぬし、
かき集めて元に戻すこともできぬ。

手に残った砂は、
春の雨に洗い流して来たはずなのに、
ザラつく感触は刻まれて。

ふとした瞬間、
掌に残った砂粒の感触が、甦る。

また、溢してしまった。

大事にしたかった。

掌に、確かに感じていた重みは、
もうどこにもなくて。

モザイクにもならないほどの
微かなパーツをたぐり寄せて、
組み立てていく残像。

何を見ていたのか知りたくて、
何を教えてくれたのか思い出したくて、
追いかけて追いかけて、

掴めど空を切る、指。

輪郭すらなぞれない、透明な砂。

失ってもまた、
この掌に、
透明な砂を与えて、

『今度は溢さないで』

『次は輪郭をなぞって』

と、囁きを落とし、
視線を投げて、
去っていく。

そもそも形作る何かを、
忘れたままなのに。

もう少し、
助けてよ。
少しくらい甘えたい。

でもそれも、
できないことだけ、
『知っている』。

広がりすぎた砂みたいに、
いつも輪郭のない、残像。

それだけ残して去っていく。

また性懲りもなく、
指と指の隙間から、
砂を溢して歩いてしまう、

わたしだけ、

残して。


flag *** hana


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