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バーキーと呼ばれた私 ~22.誰にする?~

 セイヤとちょうどいい距離感でささやかな日々を過ごしていたカオリに、久々にアンナから電話があった。

「カオリ!今あんたどこにいんの!?」
『え?"彼氏"ん家だよ?』
「ヨウスケがめっちゃアンタの事探してるよ!もうウザいから早く連絡して!」

 え、嘘・・・なんでヨウスケが。

 カオリは激しく戸惑った。アンナからヨウスケの電話番号を聞き、非通知で恐る恐る架けてみた。

「ハイ、もしもし」
『なんなの?私の事捨てたくせに何探しまわってんの!迷惑なんだけど!』

 カオリは名乗りもせずにまくしたてた。でもヨウスケはすぐに気づいた。

「カオリ…あのさ。カオリのお母さんから電話来たんだよ、もう何ヶ月も帰って来てないって」
『別に無視すればいいじゃん、もうヨウスケには関係ないんだから!』
「そうだよね、関係ないよね…でもさ、色々考えてみると俺にも責任があるんじゃないかって。あの時の俺、真面目にやれやれうるさかったでしょ?あれでカオリを追い詰めてしまったんじゃないかって…」
『・・・・・』
「ゆっくりでいいから、また戻ってきたら連絡ちょうだい。ゆっくりでイイよ。無理しないでね、体調には気をつけてね。じゃあね…」

 電話を切った後、一粒の涙がカオリの頬をつたう。
 
 ──なんで?なんでこのタイミング?
 どこまでもカッコいいの?
 どうして?ねぇどうして?

 電話の後、カオリは何もやる気が起きず、ただボーッとしていた。家に帰ってもボーッとして、何も手につかなかった。見かねたセイヤが気晴らしにカラオケに行こうと誘ってくれた。セイヤから誘ってくれるのは滅多にないのでカオリは喜んで行った。「どこがいい?カオリに任せるよ」と言われたので、カオリは行き慣れている"HAPPY"へと向かった。

 二人で楽しく歌ってたところ、カオリは用を足しにトイレへ行った。トイレから戻る途中、従業員のオバさんに声をかけられた。

「あれ、アンタ久しぶりだねー」
『あー、オバさん久しぶりー』

 昔クリスと一緒にきた時に働いてた人だった。すると、オバさんはちょっと待ってと言い、一枚の紙切れを持ってきた。

「はい、前にアンタとよく来てた子いるでしょ、男の人。こないだアンタ探しにきてて、最近来ないよーって言ったら、じゃあもし来たらコレ渡してくださいってー」
『え・・・』

 カオリは、恐る恐る紙切れを開いた。"手紙"にはこう書かれてた。





────────────
カオリへ
今どこにいるの?
お母さんから帰ってきてないって電話があったよ。
俺のとこには居ないって言ったけど、俺も全力で探すって言ったよ。
もしこの手紙を読んだのなら早く帰ってきて。
また歩華と智哉と4人で遊びに行こう。
沢山わがまま言っていいから、もう束縛しないから。
苦しめてゴメン。
子供達の面倒は俺が見るから。
カオリは好きなだけ遊んでいいよ。
でもお家にはちゃんと帰ってきて。
だから、早く帰ってきてほしい。
お願い。
一緒に楽しく過ごそう。
カオリと一緒になりたい。
────────────


 カオリは再びトイレへ駆け込んで号泣した。


 ───どいつもこいつも・・・
 なんで私なんかを心配するの?
 私は素晴らしい人間なんかじゃない。
 沢山の男に抱かれた。
 下の子は援交で出来た子だ。
 育児も放棄してる。
 中絶も三回した。
 なのになんで?
 なんでこんな私を見捨てないの?
 お願いだから見捨ててよ。ねぇ…



 泣くのが落ち着いた後、カオリは部屋に戻った。

「おー、遅かったじゃん。どしたん?」
『あ、ここのオバさんと久々にお喋りしてたらなんか嬉しくてさ。話し込んじゃった』

 カオリは適当な事を言ってその場をやり過ごした。そして、トイレ行く前に予約した曲がまわってきた。

 画面に表示されたのは、浜崎あゆみの"Who"

 歌詞を見て、カオリは固まった。




────────────────
辛い時誰が
そばにいてくれて

誰の肩で涙を流した?
喜びは誰と分け合って
誰と手を取り合ってきた?
思い出しているよ

ふたり離れて過ごした夜は
月が遠くで泣いていたよ

ふたり離れて過ごした夜は
月が遠くで泣いてた
────────────────



 カオリは一言も発せられないまま、マイクを持って泣き崩れた。セイヤは何も聞かずにそっと肩を抱いてくれた。

 ヨウスケとクリス、二人の元カレに翻弄されたカオリ。そしてセイヤ。果たして、彼女は誰を選ぶのだろうか。


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