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パン屋さんから後を付いて来られた話

以前住んでいたアパートの近くに、石窯のある小さなパン屋さんがあった。子供と散歩に行くとき、たまにそこでおやつ代わりにSimit(シミット・ごま付きパン)を買い、近くの公園に行って食べるというのが楽しみだった。

秋のはじめ頃だったか、いつものように子供と散歩に出かける際、パン屋さんに寄った。子供はまだ3歳になっていなかった。

トルコでは老若男女問わず、小さな子供たちをとても可愛がってくれる。小学生の男の子でも、小さな我が子を見かけて「可愛いね」などと言って頭をなでていったりする。その日もパン屋さんで子供に声を掛けてもらいながらパンを買い、パン屋のおじさんにバイバイをして私たちは公園に向かった。

あちこち興味を持って、なかなか進まない子供を何とか公園のそばの広い道路まで連れて行く。道路を渡ると川沿いに公園がある。

道路を渡り公園に向かっている途中、何気に後ろ振り返ると、大学生風の若者が一人歩いて来ていた。先ほどのパン屋さんで、私たちの後ろに並んでいてパン屋さんと私たちのやりとりと子供を見てニコニコしていた若者だった。

公園の遊具の所まで子供を連れてくると、子供は遊び始めたが、まだ小さいので滑り台もブランコもつきっきりで遊ばせないといけない。そうやって二人で遊んでいると、気が付けば、先ほどの若者が公園のベンチに座っている。公園には他に誰もいない。川沿いのウオーキングコースにもその日は誰も歩いていなかった。周りに人がいないし、その若者に何となく違和感を感じたので、「今度はあっちに行こうか。」などと言いながら、私は子供を誘導して場所を少しずつ移動して行くことにした。

だけど、やっぱり若者は同じように移動してくる。

広い道路に戻ってきたけれど、車の行き交いはあるが、あまり人は歩いていない。道路を渡ってまでは付いて来ないかもしれないと思い、道路を渡る。

少し歩くと松の木がある小さな広場があり、子供が松ぼっくりを拾って遊び始めたので、私はふたつあるうちの一つのベンチに座り子供が遊ぶのを見ていた。すると、また若者がやって来て、もう一つのベンチに座った。松の木の広場は道沿いにあったけれど、ここでも他には誰もいない。

これは嫌だなど思い、場所を移動しようと思ったとき、「日本人ですか?」とトルコ語で話しかけられた。だけど、ずっと付いて来られていたので気持ちが悪く、「トルコ語はわからないです!」と言い、その場からすぐに逃げ出した。(実際、わからなかったのだが)

そのまま家に向かい、その若者に家を知られるのが嫌だったため、道路の向かい側に小さな売店が見えたので、またそちらに移動することにした。とりあえず人がいる所へと。

売店にはおじさんがいたが、ちょっとパニックになっているし、そもそもトルコ語がまともに話せない。最終的には夫に電話した。

夫は職場からタクシーに乗って、すぐに迎えに来てくれた。タクシーに乗り込み後ろを振り返ると、若者は、また私たちと同じように道路を渡って小さな売店の側まで来ていた。

ただ単に、日本人に興味があったのかもしれない。小さな子供が好きだったのかもしれない。だけど、1時間近く後を付けて来られた側からしたら、怖いとしか言えない。

どこの国にも変な人はいる。子供をかわいがってくれる人は、みんながみんな良い人ではないのだ、と気を付けなければならないと思った一件だった。





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