「文学フリマ東京37」(2023年11月11日)で買った本
まず初めに。
「ペナルティさんは純文学ですか?」
これは、ラジオ「マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0」にて
ゲストの又吉直樹さんに
野田クリスタルさんが放った質問です。
マヂカルラブリーがM-1優勝し、野田さんはR-1も優勝。
三冠目を狙って芥川賞はどうだ、”先生”に話を聞こう・・・
という体裁でゲストに又吉さんを迎えた回
「そもそも純文学ってなんですか?」
という話に。
又吉さんも「難しいよなあ・・・」と言いながら、
「ただ物語を語るのではなくて、実験性や独自の発想が入ってくるもの」が多い
と軽い定義をしたあとの1コマでした。
「えー!」「いや難しいな……」と反応するマヂラブの2人。
以下、わたしが買って紹介する本は半分以上 ”研究本” ですが それは、
誰に頼まれてんねん という
なんでここまで? という熱・・・・・・・・・
それ、純文学。
純文学フリマでした。
では
そんなことを気にせず
一冊ごとの紹介へどうぞ。たのしい本ばかりですよ。
ジャンル別紹介
タイトル部分は著者へのリンクになっています。
研究│街あるき
I-28 遠藤宏『日本の小屋』『トタン工場へようこそ』
題の通り、日本全国で見つけた物置小屋の写真集。
『トタン~』は、その活動を続けるうち目が向いた「トタン」について、製造工場へ取材した写真ルポ。
どちらも著者の人柄か、小屋愛からか、妙に(?)心暖まる読み心地になっている。
まずプロのカメラマンさんで写真が抜群。小屋のいる風景、小屋の形、そこからうかがえる小屋の来歴まで、音と空気が自然に想像できる。味わい、滋味が深い。
田んぼのなか、その小屋のためだけに電線が伸びてきて、横の電柱に着地している様子。土手の斜面へ貼りつくように建ち、奥の壁は土手そのもの、な小屋。あるいは多くの外壁が剥がれ塗装が剥げた小屋の佇まいに、共に生きてきた人の営みを、さらには、ひとり務めを果たす寡黙な人格(小屋格?)まで感じてしまう・・・。
ブースで見た写真の一枚。ある港町での、昆布干し小屋。
”これで1時間くらい飲める”とおっしゃり、少し語ってくだすった。小屋と人との来歴が無限に引き出される。ものすごいディテール。
トタン工場取材記は、これだけ目にしながら何も知らなかったトタンを知れる一冊。トタンは、錆から守るために錆びていた!(「知られざる犠牲防食の世界」)を端緒に、製造工程を詳細に。
ここでも、モノをつくる「ひと」の存在が印象的。
読後、街歩きの視界が変わることうけあいです。
即売会の本の紹介で身もふたもないことを言うけれど、
なんでこれが自費出版なんだろう???
E-44 chachaki 『OTOMODACHI COLLECTION 引込計器盤キャビネット写真集』
「お友達」とは、建物の外壁などに取りつけられ、電気系統の計器を仕舞っているキャビネットのこと。
著者によれば
1)2つの検診窓が目のように見え、愛らしい
2)街で見つけたとき、友人とばったり会ったような高揚感がある
から、オトモダチだそう。
(DSのソフトではありません)
表紙を見ただけで、色とカタチの多様さ、バリエーションがわかり、オトモダチの愛らしさ、楽しさが伝わってくる。
あるいはピカピカ、あるいは錆の浮いたエイジングお友達、ストリートで落書き・シールまみれのお友達、色とりどりのお友達が並ぶページは、いつしかブラーノ島やグアナファトまで思わせるほどだ。
街でふいに出会う、見知らぬ、でも懐かしいオトモダチ。
2014年から撮り始めたそうで、まだまだ発表を待つお友達も多いはず。サイトにある「タイプ別お友達図鑑」もぜひ参照を。
なお、今回の文学フリマで上記「小屋」の遠藤さんと「お友達」のchachakiさんの出会いが起きた。その、作品から通じ合う感じ、はた目にもとても幸せだった。
I-40 トレードロップ『市役所前バス停プロジェクト~中日本制覇版~』
”日本でいちばん多い名前では?” と思い立ち、全国の「市役所前」バス停を巡っている、もう16年にもなんなんとするプロジェクトの中日本編報告書。
たしかに「市役所前」は見たことがある。
”47”都道府県のさらに十数倍はある「市」、その「役所」。その「前」・・・とは限らず、時に裏手にも堂々と立つ「市役所前」バス停。
これを全制覇しようと言うのだ。
著者のルールは厳しく、「市役所」や「○○市役所」という、「前」無しや固有名詞は対象外。そこからさらに「市営バスには「市役所前」が多く、2つ以上の市をまたぐ民営バスでは固有名詞系になるのでは」という仮説も生まれる。16年続ければ市の合併やバス会社の統廃合もあり、「市役所前」ではなくなった/逆に生まれた、の報告も。それらは発見次第更新されているので、サイトをチェックしよう。
白眉なのは、配られていたペーパーに記載の文。
最近「統計情報サーチ」なるサイトを見つけてしまったといい、そこによれば「日本でいちばん多い名前のバス停」は、
「中村」
なのだそうだ。
中村といえば
「地理人」今和泉隆行さんの空想地図も「中村(なごむる)市」だが、深い関係があるのだろうか。ないか。
ともかく研究の実践は、行ったものだけの味がある。和歌山では雨のなか自転車を飛ばし、歩道の点字ブロックで大転倒。パチンコ待ちの人が駆け寄ってきてくれたとか。
また以下の一文なども、さらっと書いているが16年越し。行者だけに訪れる、愛惜の瞬間ではないだろうか。(数字は訪問の年/月/日)
か-04 宗谷圭(若竹庵) 『すみません!この駅、トイレは洋式ですか!? ~京都市営地下鉄で各駅のトイレを調べてみた本~』
愛知県民の著者が、京都を愛し、地下鉄で安心して旅をするため作成した本。(※基本は創作サークルさんです)
まえがき早々「どの駅も、洋式トイレはあります」
「調べようと思っていた情報はほぼ京都市交通局のホームページに掲載されていました」とくる。現代の利便性に、逆に企画を砕かれるのも研究本の醍醐味。
そこでリサーチを拡充し、乗り換え路線、バス系統、トイレは改札内・外どちらか、和・洋の比率は何基ずつか、多目的トイレは男女別か、設備は、オストメイトはあるか、ベビーチェアはあるか、さらに防犯として、付近の改札は有人か否かまで調べ上げた結果が収録された。
著者は女性のため、”辣油”氏が男性トイレ側を担当したそう。お疲れ様でした。
対象は市営地下鉄なので、烏丸線・東西線。
それぞれの項目には「逆引き用一覧」もついているので、ぜひ京都旅行にご携帯を。
うちも姉が京都住まいなので、渡してこようかと思います。
J-10 スギモトマユ『ヨーロッパの美しい文房具店』
著者が旅行先で見かけた文具店を紹介したもの。
まえがきによると、日本は実は文房具大国、ヨーロッパでは大フロア文具店はほとんどなく、この本のような小規模店が街に1、2軒程度なのだとか。
でも文房具は実用だけではない。ここに載っているアイテム、封蝋印とか、ガラスペンとか、ノスタルジックな絵柄のデコパージュ紙モノ「クロモス」とか、スタンプ各種にレターセット、ヨーロッパの味と香りを放つあれこれに、フェティッシュを禁じえない。
強い、強すぎる。
本が宇宙をとじ込めるものなら、それを記録する文房具に宇宙が宿るのも当然かしら。
表紙のトーン、紙のちょっとしたざらつきも雰囲気にピッタリ。
評論│建築・写真
J-16 ginrei/坪谷サトシ『ESSAY on TOKYO BIGSIGHT 東京ビッグサイト試論』
来年12月の文学フリマはビッグサイト開催、とアナウンスされたタイミングで見かけた本書。
'90年代 臨海副都心計画のなかで生まれたこの建物が、工法・構造から建築史的・意味論的に、どう存在しているかを考えたエッセイ&写真集。
ビッグサイトの空間をとらえた紙面の静謐な空気感も魅力的で、非日常の異様な空間に飲み込まれる。
イベントごとに相を変えるビッグサイトの、器としての顔。
巻末に「機動警察パトレイバー」トリビュートの本・CDリンクがあるのだけど、たしかそう、パトレイバーはリアルタイムで臨界エリアが開発されているとき、それを直近未来SFとしてやってたのでした。
パトレイバーリブートって、そこをどう処理してるんだろう。
ちなみにこちらは委託品。ブースを構えたIm Karton(イムカートン)さんの本は、ドイツで行われる世界最大のボードゲームイベント「Essen Spiel」ガイドブック。度重なる参加で、書けるんじゃね?と作ったそう。あれも(実用というかVRとして)読んでみたかった。
日記・イラスト
E-14 みぞグミ絵璃『絵日記まとめ本 夢に見た日々 2023.03.01-08.31』
もう毎回買ってるみぞグミさんの絵日記。今回も描いたり、思ったり、動いたり、寝たり、寝すぎて落ち込んだり、体づくりしたり、etc. のことが可愛いイラストと共に綴られていく。
(あとカフェオレ。カフェオレが飲みたくなる)
”夢に見た日々”というのは、https://andsofa.com/でいよいよマンガの連載をしていたからだ。『すってんてんちゃんお休み日記~休職したって休めません編~』11月22日に電子コミックスが発売。その執筆の日々の様子が・・・・・・
さほど、かいてない。
忙しかったからだ。
「てんちゃん」に表現されたもの、フィクションとして昇華したものも、この日記本と通底しているので、読んでいる身からより伝わってくるものがありました。
単行本ぜひ。
B-14 日々『あることないこと』
日々の(食べもののことがおおい)日記・挿絵イラスト・それと、書くことが思いつかなかったときの架空日記の三冊セット。
ツイッターで発表していた日記を、要素ごとに分冊で構成。
かわいい本。
毎日の献立(おやつ含)がしっかりメモされていたり、”月一回のパフェ”という行事が出てきたり、とにかくごはんがおいしそう。
腰塚のコンビーフとハリッツのドーナツは絶対食べることにしました。
(※追記:ハリッツ行きました。もちもちで程よい甘さ
毎日でも食べたい……パン系ドーナツ。美味しゅうございます)
イラストの可愛さも特級で、ツイッターでの画像版はバックグラウンドの配色から可愛さが出てるのでぜひ見てみて。
https://twitter.com/mainichiparfait
架空日記のほうは、動物と人がわりと同じ目線で生活している空気感(なんだか猫十字社を思いだした)。隣の部屋にアデリーペンギンが住んでたり、空に浮かぶ鯨や鯉を見に行ったり。。。
巻末には、お知り合いの寄稿した架空日記も収録。
ここに次項で紹介する 灰 さんのものもあって、ひとりだけイガイガ味のつよい人間関係を書いてて、芸風で峻別できたのが笑った。
エッセイ
B-14 灰 『自虐とセルフラブの狭間で本当はあなたを愛したかったのだ』
セルフラブ=自分を愛する 反対語=セルフダウト(自己否定)。共感とか、他者には他者のペースがあるとか、誰も傷つけない笑いとか・・・モーレツ時代(昭和の残滓)は過ぎ去り、いまはセルフラブの時代に入っているらしい。
自分のつらさを自虐ネタに昇華する、という対処法で育った世代。著者は若い頃「悲しいこと一気」という遊びがあったという。
皆の前で、悲しかった出来事を言って、一気飲みする。
まわりは「それ悲しいな」とニヤニヤする。
それだけだ。
ネタにする、ということが禊だった。エネルギーや露悪を必要とした頃。そうして生まれ育ったものがいるんですよ。多分同世代だ。
この(おもしろ)エッセイは、そこからセルフラブに移っていくには? というもがきであり、なにより1本目のタイトルがふるっている。
「キショ味を愛されたい欲望はもう捨てる」
あるいは、著者は休日の朝に、自分が何を行動するか問われている気がする、という。あれこれしたいことはあるが気力を奪われる。
それを”人生35回目という風情の”上司に打ち明けてみたとき。
こりゃ染みた。
最後の章からあとがきへの流れは、おもしろ面倒くさエッセイの面目躍如。清々しい。
というか、今見ると「灰」ってペンネームがもう味が出てるなぁ。
E-15 六花ましろ『千時竜宮』
ましろとしゅん『ごちそう楽日』
元 渋谷道頓堀劇場の踊り子、六花ましろさんの生活エッセイ
&美月春さんとの食をテーマにしたエッセイ+コミック本。
ひとつひとつの生活をすくう網目が人にはあって、うっかりすると周りから、メディアから、網目はこう、こう。とそれが常識になってしまいそうになるのだけど、自分が感じたことや思っていることを、こうして掬って、書き記して、こちらにも渡してくれるのは、そういうエッセイを読めるのはうれしいこと。この気持ちもあの気持ちも確かにあったものだし、誰にも何を言われることもない。エッセイってそういう気持ちになるんだな。それに美月さんの表現、陽。マンガでもやっぱり元気をもらう。
ましろさんが初めて文学フリマに出た回は、自分が初めて文学フリマにお客として行った回でもあって、ストリップで見知った人がいることに(黒井ひとみさんもいた)安心の場になったのを思い出した。あの時から一年半たった。あとがきに書いてある「消失」した店は、いまクラウドファンディングで再建中だ。
とりあえず自分もごはんたべたい。
(ごはん本多いな・・・)
F-09 dec 『プチエッセイガチャ『人生売ります』』 (人生切り売りガチャ)
文学フリマでは、メイドカフェでガチ恋した体験記を主に出品されてるdecさん(本業はリンクから)。
今回新刊は、ガチャガチャのマシンを持ち込んでの全6種になるプチエッセイ。色んな人生のエピソードがランダムで楽しめ……楽しむというかメロウからシビアまで、小粒でもパワーが強い。
(高円寺での「季刊性癖」さんとのトークショーもすごかった。あんなことを背負ってるとは誰も知らない……)
ランダムなのだけど、ダブったら交換してくれるので600円で全部読める。買えばよかった。
研究│同人即売会実用
J-10 スギモトマユ『”什器”が読めなかった私がディスプレイのために準備したこと』
出品者への即実用書。「同人誌即売会」「ハンドメイドイベント」「吉祥寺ZINEフェスティバル」(※机イス貸しのない特殊形態)の3種について、必要物、レイアウト、便利なお店に、搬入方法、イベント前後にやることetc. etc. ギュっと詰まってます。即売会での気持ちのありかたミニマンガも。
全体が「レトロ印刷JAM」さんでのリソグラフ2色刷り、しかも紙ごとに配色が変わって(オサレ~)こういうとこからもアガりますね。表紙はエンボスニスだし。
実用&なにかを作ることへのワクワクを盛り立てる一冊。
研究│食べもの
お-56 雲形ひじき『フィナンシェ食べなんしぇ』『実録 フィナンシェヤクザ』『クイニーアマンがナイニーアマン』
名前からしてふざけているが、中身は真面目・・・いや欲望に正直な、各店フィナンシェレビュー、クイニーアマンレビュー本。
「食べなんしぇ」には200種(!)におよぶ全国フィナンシェメモを収録し、そのうちの30~40程度をカラー写真付きで詳細レビューしたものが「ヤクザ」。
書名は、フィナンシェにハマりすぎた著者が知り合いにそう呼ばれだしたからだそうだ。しかしそれがかえって収集の助けに。
フィナンシェの条件は、卵は卵白、粉は多くがアーモンド、そして焦がしバター使用、というところ。
筆者の用いる語「ブンする」=オーブンで再加熱、をすると、内部にバターが染みだしてくると書いてあり、飯テロ。あとわたしは「エッジ」=上部の角、水分が抜けてサクッとした食感のところがすごい好きです。
お手軽なコンビニフィナンシェのレビューも入っているので今すぐつかもう。
クイニーアマンは、カラーで26種を紹介。
早速近場にあった「THE STANDARD BAKERS」行きました。すぐ行きました。
あとBOUL'ANGEのクイニーアマンに付けられた「これは悪いかたつむりですよ。」という惹句がたまらない。
どちらの本も、マーガリンを使った物への憎しみはまったくのヤクザ。
研究│ルポ
F-10 水の人美『季刊性癖 Vol.53 2023 AUTUMN』
「性 は性質の 性」
というわけで、エロ限定ではなく、気になった人の性質を深掘りするインタビュー誌。今回はギャル女王様 包茎たけし(名前)さんに尿料理等について訊いたのと、人間をやめてシャチになろうとする エニオン さんに、その計画と理由など伺っています。
毎度、フラットな姿勢で読み心地がいいです。話題自体のパンチ力はもちろんあるけど、書きかたで煽らない。女王様が料理を供していた”若マゾ”さんとのエピソードとか、「シャチになる」の詳細とか、見出しやレッテルでの印象から位相がずれていく。
余談
エニオンさんはクラウドファンディングしたり活発に活動されているようで、最近Abema TVの「Abema Prime」(ワイドショー的なもの)にもご出演されたとのこと。早速、YouTube公式で見てみて、やべえな、と思った。もちろんエニオンさんのことではない。司会のひとが。
明確な言葉にはしないものの、態度でエニオンさんを排除にかかっているように見えた。どの、どういう音や、顔の向きやでそうした表現になっているかを、こんど詳しく書きたいと思います。
それまで、司会のひとの評判とかはあまり調べないでおく。あの映像だけで取り出せるものを取り出し尽くしてみたいから。
(※2024年1月7日追記 やっと書きました)
(では口直しに、まったく関係ないけどシャチ化で思い出した名曲
NHK「なんでもQ」より「人類ラクダ化計画」貼っておきます)
短歌
Z25~26 『芸人短歌2』
その通り芸人さんが短歌を書き下ろし(詠み下ろし?)した本。
収録されているのは
大久保八億、マタンゴ高橋鉄太郎、プノまろ、春とヒコーキ土岡哲朗、小松海佑、街裏ぴんく、真空ジェシカ ガク、真空ジェシカ 川北茂澄、加賀翔(かが屋の。なぜかコンビ名なし)、相川弘道
以上敬称略。
芸人は「お笑い」という枠でみんなやっているわけだけど、実はそれぞれ相当に形の違う「面白いと思うもの」がある。それが企画色の薄いラジオなどでは特に如実に出て・・・というのは皆知っている話。
これが形態を「短歌」にすると、さらに凝縮されて世界観が出るようで。いうなれば、その人が「面白いとGOサインを出せたもの」が端的に見られる。
街裏ぴんくさんなんて、もともとネタ自体、詩みたいなものだし。
ただ川北さんは、これ、恥ずかしがってないか? あまりに普段の芸風すぎないか? と思ったけど。いいんだけど。
Z25~26 井口可奈『プラスチックのかたち』
書き下ろし短歌100首を収めた本。
短歌がなんなのか自分はわからない。感触をしらない。読んでみると感触はある。散文の論理感が外れて、”なんでそう思ったの?”と訊かれることをまぬがれて消化できていく感触がたくさん続いて、色んな感触がこっちに触れたり、通りすぎたり、ばちばちにわかったりしながら並んでいる。
これはあまりにもわかるやつ。
短歌っておそろしいな。これ、そういうののプロって世俗から離れた人みたいな仕舞われ方してるけど、SNSのキャッチーな短文バズり時代に、短歌の人って、日本を牛耳る力を持ってるんじゃないか?
という感慨も、これもひとつのただの感触。
詩
W-20 星圭・詩 かつらゆきの・絵 『新聞詩』
「新聞の校正用語」に着想を得た詩の数々。なんですかそれは?
著者は、長年その仕事に従事されてきたそう。
『現代詩手帖』11月号でも紹介された一冊。
たとえば1つ目の詩「両おり」は、校正用語としては段の寄せや文の区切りが不十分なレイアウト。段のつづきを読み間違えやすく、ある1段に、上から2つ文章がおりてきてしまう。
その、”2か所から1か所に集中する”ということがイメージとなり、報じられるニュースと混じり合っていく。
あるいは、見出しが縦に並んでしまうことを指す「煙突」。もとは、級数の大きな文字がタテナガに並んださまをそう呼んだだけだろうが、陰惨な記事のそれは、焼き場と弔いのイメージを招き入れる。
また、「欄外」という詩の目眩。
校正者が目を凝らす必要のない欄外――日付・号数などが書いてあるだけの――と、ニュースが踊る枠内の世界、その断絶を疑い、繋ぐ欄外の外にいる自己の意識が描かれている。
詩が結節するイメージがとても楽しい。
そして、思わぬ角度からきた構想と、裏腹に新聞報道ゆえシリアスな事象が描かれる詩とを、うまくコーティングし、潤滑しているのがこちらイラストの数々。
お二人は姉妹なのだそうで。クリエイティブやなあ。
今回の文学フリマでは続編も出されていた。すでに新聞校正の職は辞められたそうだが、詩はまだまだ湧き出している。
小説
N-17 釈迦堂入史『ショートケーキは甘くない』
テイスト様々な、恋愛モチーフ短編集。
お局、とは違う、オフィスでも世間でも浮いた存在の”竹村さん”。その恋路をひょんなことから目撃させられてしまう表題作「ショートケーキは甘くない」。主人公(20代女性 竹村さんの後輩)が、突き放した目線を持ちつつも彼氏の予定をキャンセルしてまで竹村さんの行方を追ったり。距離感が絶妙な印象だった。
ほか、純朴な男子学生の瑞々しくもカチカチに昭和文学な初恋を描く「恋昇り」、無限の健康寿命を得られる新薬とその薬害揺れる世界で、分断される人々を描いたSF「夢の終わり、そして」、同人創作にもありそうな共同執筆者への厭悪を、乱歩や夢野久作的な一人語り形式で書く「訴人狂人」、名曲「木綿のハンカチーフ」の世界をもし湊かなえが書いたら……な展開の「往復書簡」、最後は枕草子の風俗嬢バージョン「枕の睦言」。
全六篇。
ブースでご本人がおっしゃってたのだけど、あとがき・奥付・裏表紙のペンネームが間違っているという・・・。稀有な本。
誤:入文
正:入史
です。お間違えなく!
し-66 大北栄人『親切な寿司屋』
もとは「新喜劇」として上演された舞台脚本を、作者自らノベライズしたもの。単に舞台の再現ではない「小説化」がありました。
とか言って、自分も出演させてもらった舞台で(「バネ」という電器屋が出てくる)言葉少なにはなるものの、ここには大北さんの、小説への「初期衝動」みたようなものが詰まっている。
なにしろ、あの地の文だ。
物語じたいは非常に「新喜劇」の枠組みで、あるさびれた商店街に立つ寿司屋の職人が主役。その持ち前の「親切心」(正確には違うが)により、出会い系サイトのサクラへ次々と”人助け”の大金をつぎ込んでしまうという騒動が描かれる。
商店街の仲間や寿司屋の客、立ち退きを迫る不動産屋、ほか様々な珍客が出入りするのだが、その挙動と心理を描写する地の文(=小説化ならではのもの)の存在感が、物語を舞台版の様相から一変させているのだ。
ことに、比喩表現。
いくらか引用してみると、
ときおり、比喩は一文では役目を終えず、しばらくそのやりとりに居すわり続けることすらある。
その極めつけは、八木(=寿司職人)が弱々しい寸借詐欺の男から電車賃をねだられての、「親切心」の発露を描いた場面だろう。
話の理解を補助する比喩が、描写対象と同等、いやそれ以上の質量に膨らんでゆくバロック小説。
新・新喜劇がここに。
ゲームブック
お-60 FT書房 編『100パラグラフゲームブック集①』
王女にかけられた呪いを解くため魔女の塔へと向かう王道「龍の王女と大釜の魔女」ほか、全3本を収録。
約100パラグラフの分量(プレイ時間30分~2時間くらい?)で、手軽にさまざまなタイプのゲームブックを遊べるというシリーズ。作者も絵師さんもちがうので、バラエティ出てます。
FT書房さんはブースに大量にゲームブックがあり、初心者の自分は霧の森で右往左往する感じになったのですが・・・これを薦めていただいて助かった。
ただ、紙が硬い、いやさ背の糊付けが強くて、本が、ググーッとせんと開かないのはなぜに。
次項『元剣士と雪の民』も紙厚め・背糊強めだったので(家系みたいな書き方)ゲームブック界ではスタンダードなのかな???
ページを行ったり来たりするのにこっちのほうがいいのか。。。
情報もとむ。
き-17 S 『元剣士と雪の民』
かつて魔族と人類の大戦を勝利に導いた元剣士、それが君だ。
しかしその戦で最愛の人を喪った君は、山奥でひっそりと暮らしている。
そんなある日、もふもふの毛も可愛い「雪の民」の子供が迷い込んできて・・・。
というわけで、雪の民・ゴローと連れのおサルを無事集落へ帰すまでの物語。メモするパラメータはゴローとの”友好度”といくつかのアイテムのみで、初心者も安心なゲームブック。
前回の文学フリマでもSさんの本を購入したんですが、通底しているのは優しい世界観。大戦や魔族といった背景はありながら、登場する人物・描かれる物語に暴力性はなく、みな平和な暮らしを望む人たちだ。
本作も君=野の民と、雪の民ゴローの交流であり、他にも異種族との共存が描かれている。また「最愛の人」も、主人公の幻?として同行し・・・。
あと言い忘れてましたが、初心者も、洞窟パートはマッピングを忘れずに!
グラフィック系
K-41~42 ragan books『ragan no.004 Comic Stripe』『ragan no.026 wipeout』
すでに自分のなかでは王者に近い、ラガンブックスさん。
一旦、サイトからステートメントを見てみましょう。
ウソつけ!
いやまったく嘘はついてなくて、この通りなんだけど、本はどれも真顔でふざけている。この「裸眼」の為せる業だろう。
no.4 は、ややくすみ色でカラフルなストライプ柄が、ページの全面に印刷されている。綺麗だね。
綺麗だが、何かのデザインパターンなのだろうか? と考えながらめくると、その柄の目がさらに細かくなる。
そして次の見開きでは、写真に変化。配色は同じながらややシャギーになり、何かを接写したものだとわかるが・・・
という、謎かけのようなことがつづいたあと、不意に見開き一面に少女マンガの紙面がちりばめられて現れる。その紙面は赤、青、緑・・・と様々な色をしていて・・・
”そうだ、マンガ雑誌の紙って、色んな色が入ってた!”
このストライプは、マンガ雑誌の小口(紙束の断層。背表紙以外の上・横・下)の意匠だったのである。
クイズみたいなアハ体験でもあるので、ブースに行ったとき、ハマった男性がずっと熱中していた。おれも熱中していた。
『no.027 Cover Boys』については、前回出店した振り返りトークで、紹介させてもらいました。
さて。
no.26 は、梶井基次郎の「檸檬」を収録し、挿絵にはさまざまなポーズでレモンをもった手が描かれている。
この手は・・・? なぜこんなバリエーションが・・・?
レモンを手で持つといえば・・・?
答えは、あなたの目で確かめてください。
おわりに
おわりです。1万4000字を越え、よくここまで。
このあとは「メダカちゃん」さんの本紹介をどうぞ。
ディープな本を、端的に、超手際よく書いてらっしゃる。全部ほしくなります。
いやー、文学って、ほんっとうに、いいもんですね。
おわりです。
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