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『ちょっとは正しいゲームの歴史』を読んだ日記


岩崎啓眞いわさきひろまささんの
『ちょっとは正しいゲームの歴史』よみました。

これで、
岩崎夏海いわさきなつみ稲田豊史いなだとよし『ゲームの歴史』の騒動
区切りがついた・・・と一応は言えそうです。


これどんな騒動だったか

簡単にいうと、
講談社という立派な会社から
『ゲームの歴史』という真正面なタイトルの本が出されたが、
内容が間違いだらけと多数の指摘があり、炎上。
「確認中」「増刷で修正予定」などのコメントが出たのち、
結局販売中止・自主回収
ということで終わりを迎えてしまったもの。

全3巻

発売日が2022年11月14日、販売中止のお知らせが2023年4月10日。
2月ごろから炎上しはじめ、
大騒ぎであった。



はじめに

前を向いてゲームの歴史やこれからのゲームを考えたい人は、
こんな記事はともかく
桜井政博さんのYouTubeを見よう。



この本について

著者の岩崎さんは、知る人ぞ知るプログラマー、かつライターさんで、伝説の『天外魔境Ⅱ』ほか、さまざまでご活躍(ざっくり)。ハドソンのことや『イース』のことなど、まさに”コンピューターゲームの歴史”の一郭をどんどん書いてらっしゃる最中でもある。

プログラマーだから開発・技術面のことを把握しているし、かつライターでもあってゲーム史にも明るく、それらを言葉にできるということで、
ほんとに立ちあがってもらえてほんとに良かったなと・・・。

氏が『ゲームの歴史』のウワサを耳に入れたのは、発売から3ヶ月弱経った頃のこと。
お知り合いのこのツイートからだったそうです。


ここで、読むか相当悩んだと。
評判を聞くだけで「良い本」じゃないのはほぼ確定しているうえ、専門分野として批判を始めるなら、徹底的にやらねばならない。
最終、紙の書籍として発行+国会図書館にも納品して、ほか電子版もあるからこちらも電子も作り、『ゲームの歴史』に付随してレファレンス(参照)される場所に置かないといけない・・・と。
その長大な手間、そしてネット上でまとわりついてくるだろう手合いのことも。
(それは便乗して著者叩きたいだけの人も含むだろう)

それを押して最初のブログ記事をアップしたのは2月15日。。。
そこから『ゲームの歴史』各項目への批判記事が順次書かれていくこととなり、
途中、Twitterではゲーム業界からさまざまな証言もあらわれて、そこはちょっと楽しい~頼もしい~熱い展開もありつつ、

最終的に、ブログ記事を修正してまとめたものがこの本。
詳細に・事実に即して・資料にあたり・まとまった批判になっています。


批判内容について

本書では問題箇所を引用しつつ、指摘をおこなっています。

元になったブログ記事は公開されているので、見ると、しんどさがよくよくわかります。
なにしろ怒りがそのまま残っている。(書籍化に際し落ち着かせたそう)

自分は『ゲームの歴史』を(結局買わないままもはや高価転売しかないので)読んでないんですが、ただこう聞く限り、2~3章読んだくらいで投げ出すのが妥当じゃないかと思わされる。
おおまかにまとめると問題点は・・・

・資料にあたらず/あたってもうろ覚えで書いている
・技術的な知識がなく、資料を読み違えている
・データの裏付けや出典がない
・自説のために事実を曲げる/間違った理解から説を組み立てる
・視野が狭く、通史で登場すべきゲームタイトルやハードが省かれる
・言葉の定義もぶれる
・脳の構造に関してなど、疑似科学が頻出

といったところのよう。
これ、例を挙げてくと結局同じことになるので少しだけ・・・

〈資料にあたってない〉例としては、
ファミコン本体の色が白と赤に決まった理由について、この色のプラスチックが安かったから、と書いてある。これはNHKの番組「新・電子立国」がかつて発したデマで、すでに各所で明確に否定されており(p.20)、史実としてはたんに「社長命令だった」。テレビの影響力で流布したものをそのまま掲載してしまっているというわけ。(最近ひろゆきさんも言ってたとか)

〈技術的知識不足〉は例えば第1巻3~4章、1970年代の初期コンピューターゲーム業界ではまだ著作権が緩く、コピーが横行した、という箇所について、岩崎さんの指摘。

初期の商用ビデオゲームにはCPUがないので、ソフトウェアによって駆動されている部分はない。すなわち、いわゆるプログラム(ソフトウェア)などない。(略)筆者は著作権で保護される現在のプログラムを想定した話を書いているので、いわゆるソフトウェアのプログラムを想像している(略)3章から4章まで、ずっと非CPUゲームもソフトウェア駆動のゲームも全部ひっくるめて「コンピューターゲーム」と書いて、今の常識から見たソフトウェアがある前提でストーリーを書くため、全体がメチャクチャ(p.10)

〈通史で登場すべきタイトルが出ない〉偏りは、例えば「ゲーム弱者を救済し続けた任天堂」という節で『あつまれ どうぶつの森』に触れない(p.79)、2022年に出す本なのにコロナ禍のゲーム状況にも触れない、PS5とX/Sも出てこない。等々。


 『ゲームの歴史』の対象層

なんでこんなことに???
の前に、ちょっと補足を入れた方がいいのは、『ゲームの歴史』の想定読者層なんですけど、
これ、講談社のなかの「青い鳥文庫」というレーベルで出たものなんですよね。

「クレヨン王国」はじめ、小・中学生に向けた作品を出しているレーベル。対象読者層はそこ。
いま『ゲームの歴史』と銘打って盛り上がるのはまあ30代後半~50代くらいかと思いますが、そもそも子供向けの本なんですよね。

だから文体は「ですます調」だし、おそらく、ひとつの構成上の背骨~ストーリーとして「ハッキング精神」や「箱庭性」が時代の中で通底・発展してきたんだよ としたかったんだと思います。
資料の項目羅列型でおわらず、史実の細部は省略しても、ストーリーを追える、ワクワクする読み物にしたかったんだろう。そしてゲームを作りたいという子供に道を示してもあげられるように・・・。

と、いう観点から許される範囲の「細部の省略」からはみ出した問題だらけだったわけですが。
一応、覚えておくべきではあるかと。

逆にいえば、当時を知らない子供たちに、てきとうな思い込みで修正した歴史を教え込むことになるわけで、それは・・・最悪なんですけれども。

ちなみに『ゲームの歴史』著者(のひとり)岩崎夏海さんは「児童書出版社の社長」もしていると書かれているので、そういう立ち位置から本の企画を立ち上げたのかもしれません。が、まったく憶測。

岩崎 夏海(いわさき・なつみ)
1968年7月生まれ。本名同じ。東京都日野市出身。東京藝術大学美術学部建築科卒。
大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として数多くのテレビ番組の制作に参加。アイドルグループ「AKB48」のプロデュース等にも携わる。
その後、ゲームやウェブコンテンツの開発会社や作家を経て、現在は児童書の出版社である株式会社岩崎書店社長。
2009年、初めての著書『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』がベストセラーに。現在は、執筆、講演、コンテンツ制作(映画の脚本、オーディオブックのディレクション、本の監修、ゲームの監修)、芸能学校の講師等、さまざまな活動に従事。

Amazonの著者プロフィールより。太字引用者



『ゲームの歴史』の作業分担~誰が何をやっていたのか

販売中止・回収、という結末(のようなもの)が出たとき、”もう検証する気はないんだな”と絶望感がありました。
商業出版で、これだけ事実誤認の含まれた本が出た、
誰がスルーしてしまったのか?
誰が何の作業をして、これが出来たのか?

そういうことを、もう発表も、おそらく検証もせんのだろうなと思ったから。

こわいですよ。「本」の地盤がね。

著者は2人いる、どっちも止めなかったのか
編集者、読んでヘンだと思わなかったのか
大手の講談社、校正は確実にいる。
校閲まではしなかったのか。どうして?

『ゲームの歴史』は著者が2人。
岩崎夏海さんと、稲田豊史さんです。
先述の通り本を買ってないので孫引きになりますが、

同書の3巻のあとがきには、
《まず、岩崎が最初のコンセプトを考え、それを稲田に話しながら、2人で議論し、練り上げたり深掘りしたりしていきます。そうしてまとまった考えを、最初に稲田が文章に落とし込み、その文章に対して岩崎・稲田の2人が、さらに加筆修正を加えて仕上げました》
と書かれている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8a7b13bfaae27946b3431c70667f0ba6cecd99fb

とのこと。
また、販売中止発表での講談社コメントでも、作業分担には触れられていました。

本書は岩崎夏海氏が企画・構成・口述を、稲田豊史氏が文章を担当したものですが、編集部による事実関係の確認が不十分だったためにこのような事態となりました。

https://www.kodansha.co.jp/news.html#news62051

簡単にまとめれば岩崎夏海:著(喋り)、稲田豊史:聞き書き、ということのようです。


稲田豊史さんの範囲について

僕は、稲田さんが本当にこんなことに加担してしまったのか? というのがずっと懸念でした。
というのも氏は『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書、2022年4月。元連載は2021年3~12月)を書いた人で、
あの書きぶりは信用できる人だなと思ってたわけです。
そもそも、ちゃんと調べにいく人だ、と。

で、氏のサイトを見ると「最近の主な仕事」という欄
 (…現在『ゲームの歴史』が無くなってるのがヌーンと思いますが…)
には、
【書籍】ブックライティング(構成・編集協力)
という項目がある。

これは表紙に名前が出ない仕事のほう、裏方ですね。

ここからは推測ですが・・・
もともとは『ゲームの歴史』もこのカテゴリの仕事だったんじゃないか。

それが、2022年4月以降『映画を早送りで~』がヒットしたため、11月発売の『ゲームの歴史』では稲田さんも著者扱いにする動きになったんじゃないか。それが誰発信かも、わからないが。

稲田さんの、発売時のツイートに「足掛け3年をかけた」と書いてあります。始まった当初から共著者だったとは考えづらい。
なにせ相手は「『もしドラ』の作者」で、ネームバリューが全然違ったはずだから。

足掛け3年をかけた岩崎夏海さんとの共著『ゲームの歴史』(講談社)が全3巻で出ます。想定読者は「産業としてのゲームの成り立ちを、順を追って網羅的に理解したい人」、そして「ゲームクリエイター志望者や、ゲーム業界で働きたい人」です。なので中高生でも読めるようルビは多め。

稲田豊史 ツイート 2022年11月10日

で、まるで、稲田さんは被害者だ、と言いたいように見えるかもしれませんが、それも違って。
いくら聞き書きといっても、あのレベルの間違いをほったらかして、
あるいは少なくとも、自分の作業範囲の釈明もせず、
共著者としてクレジットされてしまっては、あかんではないか。
と思いました。

いまは、ちゃんと調べた本『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)が好調なようです。
面白そう~。


※2020年9月、ネトフリでゲーム史のドキュメンタリーを観た感想ツリーもあり。


岩崎夏海さんの範囲について

岩崎夏海氏については、2023年3月時点でTwitterアカウントを削除している。
販売中止以降のコメント発表もなかったものの、noteと公式ブログは継続しており、
「逃げた!」
という意見は、あんまりにもTwitter界隈すぎると思うんですが、どうか。
まあ釈明がないのは確かだけども。

↓ こちらは『ゲームの歴史』発売時のnote記事。

自分は、岩崎(夏)さんの単著、というかブログとか同人誌だったらこの件、まあそういうことになってもおかしくないよな、と思うんです。そう納得するんです。

でも共著者の名前とか、講談社とか、
出版までのプロセスがいかれてるやんか。というのがこの騒動へのモヤモヤなんですよ。


『もしドラ』のときからヤな予感はしてたんですよ。


・・・と無責任極まりないけれど、あれがヒットして、そのあと氏が『小説の読み方の教科書』(潮出版社、2011年)なるタイトルの本を出したとき、世の中のタガが外れてると思った。
もちろん後出しですよ、こんなのは。

あと又吉さんの『火花』の電車内広告に、キャッチコピーとして
 人間とは何か、笑いとは何かを書ききった一作
とかなんとか書いてあったとき、
文学やってる編集者が書くのか?こんな文言を! そんなもん「書きき」れた小説あるか、もってこいや。っと思った。


そんなことはいいんです。

これでおしまいです。



「と学会」って

そういえば、「と学会」という集まりがあったのでした。
その昔、'90年代ごろはノストラダムスの大予言が大流行り、むちゃくちゃなことを書いた本がたくさんあり、そういったヘンテコ、デタラメ、しかしまことしやか、な本を採り上げて面白がる書き手の集まり。
とんでもない本=トンデモ本、を研究する「と学会」。

いや、むちゃくちゃなことを書いた本はいまでもたくさんありまして、ヘイト本も、陰謀論も、電波を受けた人も、'90年代以上に元気な盛りで世に尽きまじ。
「と学会」最近どうしてるんでしょうかね・・・。
(調べずにこの項おわり)


おわりに


ブログ記事を読みながら、ものすごい労力だなと思っていた。この同人誌が発刊され、即座に売切れになっているようなので、少しは作業賃金にあたっていればいいのですが。

さいごに、本書の後書きから少し引用して、後味を良くしましょう。

(※ちなみにこの本の目次にある「あとがき」は、『ゲームの歴史』の「あとがき」への批判パートなので、この本そのものの「後書き」はその更にあとにある)


「ゲームの歴史」は、構成自体は結構よくできている。任天堂とSCEを中心にこんな風に組み立てるのはありの構成だと思うし、仮に自分が概史を書くなら、大いに参考にさせてもらう構成だ。

86ページより


【書誌情報】

『ちょっとは正しいゲームの歴史 書籍【ゲームの歴史】を批判する』

表紙はあの女子高生。さすが同人誌

著:岩崎啓眞、サークル:HIGH RISK REVOLUTION
B5・表紙カラー・88ページ(本文84)。
2023年5月28日 初版
2023年6月18日 二版二刷

通販や委託販売店はお調べください。

国会図書館には納本済みとのこと。


おもな(偏りのある)時系列

 2022年
11月14日:書籍『ゲームの歴史』発売
12月20日:オロチ さんのブログ記事で「プラスチック安価説」への批判。
12月21日:上記を受け岩崎夏海さんが謝罪&訂正ツイート。
 2023年
2月3日:keigo さん、note記事で『ゲームの歴史』感想+批判記事をアップ。著者からの反論があったことも併記。
2月15日:岩崎啓眞さん、ブログ記事「書籍「ゲームの歴史」について(1)」をアップ。以降、詳細な批判記事シリーズに。
3月5日:岩崎(啓)さん、ブログの中間まとめとして同人誌『書籍「ゲームの歴史」を批判する。概論』発行。(同人誌即売会「サンシャインクリエイション 2023 Spring」(サンクリ)にて)
3月7日:とみさわ昭仁さんのツイートで「ポケモンはメンコから発想された説」への批判。
3月13日:くりたしげたかさんのツイートで、iモードの課金形態、参入会社等の記述への批判。
3月17日:講談社、『ゲームの歴史』記述内容について「確認作業中」とコメント。
3月17~18日頃?:岩崎夏海さんTwitterアカウント、鍵アカウントののち削除となる。

4月10日:講談社、『ゲームの歴史』の販売中止・自主回収を発表。
4月20日:「書籍『ゲームの歴史』について(12/終)」アップ。
5月28日:同人誌『ちょっとは正しいゲームの歴史』(岩崎啓眞 著)、同人誌即売会「ゲームレジェンド」にて発売。





ITmedia、3月16日


FLASH→ヤフーニュース、3月27日

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