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「黙って座れば、ピタリと当たる」

 咳の風邪が長引いている。

 就寝中に激しい咳に見舞われたら、もうそれ以上寝つけない。その場合にすがるのがエスエス製薬「ブロン液エース」である。付属のミニカップでクイッと一杯引っ掛ける。この所作は、まるでお猪口で日本酒を飲んでいるような気分になる。

 ブロン液の存在を知ったのは東南アジアで記者をやっていた20年以上も昔のことだ。

 取材で訪れたミャンマー。軍事政権が「麻薬撲滅に力を注いでいます」とアピールするために、押収した各種麻薬を処分するパフォーマンスだった。

 取材をアレンジしてくれる現地助手は「大麻草などを燃やすので、近くで煙を浴びているとボーっとしてきますよ」と笑っていたが、私はそんなことはなかった。お仕着せの取材なので特に熱意もなく、淡々と見守る。

 パフォーマンスのひとつが、道路工事で使うローラー車が薬の瓶をバリバリとつぶしていく場面だ。「ブロン液ですよ。一気飲みするとラリってくるんです。知りませんでした?」と馬鹿にされた。知らなった。

 服用すると、ものすごく速く効く。あれだけ苦しかった咳がピタリと止まるのだ。

 実際に製薬会社のHPを見ると「販売量はお一人様1個限りとさせていただきます。」と出てくる。なるほど、脳の神経のどこかを麻痺させる作用は共通なのだな。

 ところで。

 服用して咳をピタリと止めるたびに「黙って座れば、ピタリと当たる」という“フレーズ”を思い出す。

 私は占いの類いをまったく信じていない。

 朝のテレビ占いで自分の星座が最下位であることを見かけると「ありゃ」と思うが、それ以上に引きずられることはない。ましてや、カネを払ってまで占いをやるという心理はさっぱり理解できない。

 「ピタリと当たる」は、どうも高島易断で有名な高島象山という人の言葉らしいと知った。

 まるで俳句のような簡潔なリズムでズバッと認知させる。21世紀のいまになっても占いに無縁おやぢの脳内で自動再生されるほどなのだから、本当に秀逸なコピーだ。

 咳に苦しみながらそんなことを考えていた。
(22/11/26)



 

 

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