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「騙される方が悪い」

 たまたま見聞きした話だけを根拠にして特定の宗教や文化をステレオタイプ的に決めつけるのは慎むべきだろう。そうとわかっていても、海外で取材やビジネスをしていて驚かされることが多かった経験から、「やっぱりあの人達は・・・」と考えてしまうのはどうしようもない。

 2001年のアメリカ同時多発テロは、発生直後からビンラディン率いるアルカイダによる犯行が取りざたされて、アメリカによるアフガニスタン攻撃が注目された。東南アジアに駐在していた私の担当エリアである。メディア各社は攻撃目標とされるアフガニスタンへ取材団を派遣することを躊躇して、世界中の報道陣が隣国パキスタンに集結した。

 こうした場面になると、どうも日本人は「金を持っている」「しかしぼんやりしていて騙しやすい」と思われるらしい。

 さまざまなツテをたどって「裏情報に通じている」と自称する輩が臨時支局にやってくる。

 彼らはメディアが欲しているものを熟知している。「ビンラディンがアフガニスタンに潜伏している映像を買わないか」。

 そりゃ、欲しいに決まっている。「それならカネはしっかり出す。とにかく見せてくれ」「いや、他の映像を買ってからにしてくれ」「他の映像はいらないから、ビンラディンのものを見せろ」というやりとりばかりが続いてラチがあかない。そんなもん、「前金」を渡したらすぐにドロン確定。それくらいは、いくらぼんやりしている私でもわかることだ。

 ある時は「小型ビデオカメラを買わないか?」とやってきた。渡されたものを見ると、任地でライバル関係にある日本の同業他社さんのステッカーがばっちり貼ってある。「やっぱりライバルさんも、あの手この手で映像をゲットしようとしてるんだなあ」ということが判明して興味深いのだが、とりあえずそこは“武士のなさけ”だ、「オタクのカメラが“売り”に出てるよー」と知らせてやった。

 イスラムでは、基底に「インシャ、アッラー」=「神の思し召しのままに」という考え方がある。これがどうつながるのかわからないが、「騙される方が悪い」ということになってしまうらしい。

 日本人はどこかで「お天道さまが見ているから、人として恥ずかしくないことはできない」と思っているので、この考え方にいつもビックリさせられるのである。

 いまとなっては、「やっぱり世界は広いから、いろいろあるなー」と思うことができる。まるで他人事だ。しかし世界のあちらこちらで業務を遂行していたころは無我夢中だったので、そんな余裕はなかった。

 これを書くにあたって当時のことを回想するだけで、胃のあたりがどんよりと重くなってくるのである。
(22/9/16)


 

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