パズルを解きたいのではない
相場英雄「マンモスの抜け殻」を読んでいる。殺人事件をめぐるミステリだが、登場人物はそれぞれ昭和の貧困や現在の介護施設が抱える問題を背景に持っていて、グイグイと読ませる力がある。
私は年間300冊ほどを読み倒すが、ざっくり8割がエンタメ系小説。僭越ながら小説としての出来・不出来もわかってきたように思うし、おのずから自分の好みが形成されてくる。
エンタメ系でとにかく苦手なのが、いわゆる“本格ミステリ”というやつ。いまどきは「完全な密室のナゾを名探偵が暴く」だけではなく、設定からさらにひとひねりしたものが多い。それでも200ページも300ページもお付き合いして結局パズルの回答を披露していただくだけ、というのはなんともガッカリしてしまう。
他方、ここに社会派ミステリとしての要素があれば登場人物への思い入れが出てくるし、小説としての“読み味”まで楽しめる(可能性が高い)。
「社会派ミステリ」といえば松本清張か。
東南アジア支局に駐在していた当時、現地の日系書店に並んでいたご縁から松本清張の「熱い絹」を読んだことがあった。
これがダメだった。
題材こそ「ジム・トンプソ失踪」という謎に包まれた有名事件なのだが、登場する日本の警察官(警部だったかな)の人物造形がまったく描かれていない。
いまどきのミステリであれば、こんなことはない。上司と軋轢をかかえていたり家庭に問題を抱えていたりといったこの警察官の人物像を踏み込んで描くことで、小説世界に陰影を出しているはずだ。
さて「マンモスの抜け殻」。著者の相場英雄さんは時事通信社の記者だ。記者出身の作家さんといえば横山秀夫、塩田武士、本城雅人、堂場瞬一など活躍されている方が多い。社会派としてのテイストだけでなく、文章の呼吸も私の好みにあっているのかもしれない。
あ、新聞出身ならば大御所・司馬遼太郎さんと山崎豊子さんを忘れてはいけませんね。
(22/6/19)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?