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推しへ贈る本を作った話

※2冊目を作りました→こちら



★はじめに

Twitterの方にざっくり書いたものの詳細版です。
ですが、私のツイートを見ていることを前提にして書いているので、推し(とその役)や作品などについては特に説明しません。
その辺りは分かる人だけ分かれば、という感じで。



本を作ろうと思ったきっかけ

事の始まりは、CCC×fool 2020「アマテラスドライブ」のクラウドファンディング、鬼溝コースを支援したことからでした。
鬼溝コースのリターン(2つありますがその内の1つ)は、『溝口優書き下ろしの世界に一本しかない短編脚本1本』を書いていただけるというもの。
私が読みたいから・CFを支援したいから、ということがもちろん前提にはありましたが、支援した時からこの脚本は推しへ渡すと決めていました。
自分で持っているだけならコピー用紙にでも印刷してホチキスで留めておけばいいけれど、推しに渡すのにそれはできない。
なにより、溝さんが最高の物語を書いてくださったので、最高の形にして推しへ贈りたかったのです。
私の思う最高の形は『完璧』と言うよりかは『こだわり』です。
私の大好きとこだわりをとことん詰め込んだ1冊にしたかったんです。


脚本のオーダー内容は、『天カラの蛇煌、妖の牡丹、アリスコの露暗でのクロスオーバーストーリー』。
天カラと妖は溝さんが脚本・演出の作品で、かつfoolの公演は全て時系列が繋がっていて天カラの次の時代が妖なので、書きやすいだろうと思ったこと。
アリスコはC.C.Cの公演なので鬼丸さんの作品ですが、溝さんも出演していて世界観やキャラクターたちはもちろん把握しているだろうし、アリスコ自体の世界観も和風だったので、なんとなく混ぜられるんじゃないかなぁ、と思ったこと。
あと単純に、溝さんが書く露暗さんがどんな風になるのか、というのもとても興味があったんですよね。
そんな訳で、この人選。全部推しの役です。
溝さんに頼むならこれ以外はないと思いました。

そして届いた脚本のタイトルは『花と蛇と露』。
正にそのまんまのタイトルですが、私的にはこのタイトル以外にはあり得ないと思っています。
そう思える内容だったし、期待していた以上のもので、もう泣いてしまいましたね……。
これだけでも十分ではあったのですけれど。この時にちょうど溝さんが脚本執筆の個人依頼を受け付けていて。
普段、依頼は関係者であれば別だとは思いますが、ただの一般人がこういう依頼をできる機会なんて普通はそうそう無いでしょうし、書いていただいた脚本が続き(後日談)が出来そうな感じの終わり方だったため、その部分を個人依頼しました。

まぁ、あとはCF分の脚本を本にするためにざっと文字数からページ数を計算したら、もちろん本にはできるけれど想像していたよりもちょっと薄いかな……となったので、こうなったら薄い本を厚くしよう!と思ったのもあります。

結果的に、CF分と個人依頼した分を合わせて(溝さんが2本を繋げて1本のフルバージョンにしてくださったので)、最初のCF分の3倍の量になって戻ってきました。これにはだいぶビックリしましたね……。いや本当にありがたいです。
内容に関しては書きませんが、あまりにも尊くてエモくてしんどくて一晩泣きました……最高がすぎる……溝さん天才……!!!






ここまでが依頼した脚本が届くまでです。
ここから本作り(というかデザインと装丁)について。


まず脚本を読んだ時点で、表紙はミランダ黒に箔押し!ぜっっったいにミランダ黒に箔押し!!!!!
カバーも掛けてそっちにも箔押し!!!!!
この2点は即決でした。
わたし箔押しが大好きなんですよ。絶対にやりたかった。

あと普段からマスキングテープを使ってイラストを描いているので、絵というか色を付けるところは全てマステを使うということも決定事項で、絶対にこだわりたかったところのひとつでもあります。





▼表紙

ミランダ黒 170kg
特色印刷(ホワイト)+箔押し(シルバーホログラム箔)

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表紙
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裏表紙
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紙と箔のキラキラを頑張って写そうとした1枚


なぜミランダ黒にこだわったかと言うと、夜空/星空のイメージにしたかったからです。
紙表面に3色(赤・青・白)のガラスフレークが散りばめられていて、きらきらと煌めいてとてもきれいで、それが夜空や星空のイメージにぴったりな紙なんですよね。私的に大好きな紙のひとつというのもあって絶対に使いたかったのです。

カバーの方にイラスト(色)を載せるので、表紙はシンプルにタイトルとメインの3人の名前のみで箔押し。
ホログラム箔なので、ベースはシルバーですが角度を変えると7色に輝きます。
ガラスを砕いたような、宝石のような箔が、繊細だけれども派手に映える、という印象。

裏表紙はクロスオーバーした各作品タイトルを。表紙のタイトル下の線と合わせて、ここは特色のホワイト印刷。
同じく特色のシルバーにしようかとも思ったけれど、さすがにギラギラしすぎるため白にしました。

使用フォントは、タイトルが異世明と異世ゴ、キャラ名が飴鞭ゴシック、作品名が刻明朝。
異世明と異世ゴは『異世界に転移するときに“ぐにゃ”っと世界が歪むような崩れた感じのデザイン』なので、世界が交差するクロスオーバーにぴったりだなと。
飴鞭ゴシックと刻明朝は、通常のゴシック体と明朝体よりも少しインパクトがあって、かつぱっと見て独創的なデザインだと分かるものを、という事で選びました。





▼カバー

キュリアスIRパール 103kg
マットPP加工+箔押し(透明ホログラム箔)

カバー表
表紙側
カバー裏
裏表紙側
箔カバー
透明箔押しのところ
カバー折り返し
表紙側のカバー折り返し部分。裏表紙側は表紙側と対称になるよう上に同じ画があります。

偏光パールに光るのがこの紙の特徴なのでそれを活かしたくて、あまり濃い色を使わない&余白部分を多めにしました。
マットPP加工をすると、紙のキラキラ感が若干薄れてしまうのと傷が付きやすくなってしまうけれど、インクの掠れ防止と補強、それと表紙との対比を出したくてマットPPをかけました。
表紙が黒で結構ギラついて強い感じなので、カバーは白でしっとりした柔らかい感じに。
加えて、表紙のミランダは無加工なため紙特有のざらつきがあるので、カバーにマットPPをかけることによって滑らかな手触りにして、そこでの差も出したかったのです。

カバー表紙側は、タイトルの各漢字にそれぞれモチーフのイラストを付けてロゴっぽく。
文字・イラスト共にマスキングテープのみを使用しています。
イラストはもちろん、文字のところも数種類のマステを細切れにして貼り合わせて作っています。タイトルの元にしたフォントはうつくし明朝。
そしてイラストの部分には透明ホログラムの箔押し。
表紙の箔と同じように砕けたガラス片のようなホロ箔なのですが、表紙の方よりも欠片が大きく、あまり細い(小さい)所だと一個の欠片で埋もれてしまって目立たないため、文字よりも面積の広いイラストの部分にしました。
紙自体のパール感と箔の煌きがすごくよくマッチして、箔押しした部分とそうでない部分とで質感の違いも出せて満足です。

カバー裏表紙側と折り返し部分も全てマスキングテープを使用。
裏側は上から下に向かって、青空から夕焼けをイメージして貼りました。
折り返し部分は、本を開いた時に表紙の黒が少し見えるので、色味を合わせるためにモノクロ(実際のマステは箔押しのものなのですがスキャンすると潰れるので……)にして、表紙の夜空/星空のイメージから続くように星や月の模様が入ったものを貼りました。

キュリアスIRパールは紙の地の色が真っ白ではなく少し黄色味がかっていて、更にCMYK印刷で変色するため、その辺りを考慮した上でカバー表・裏共にマステの色を仕上がりイメージよりも少し明るめものを選んで、CMYK変換した後で色調補正をしています。

表紙の夜空/星空、カバーの青空と夕焼け、というのは脚本の内容からです。
『夕陽』がキーワードのような感じで出てくるため、『夕焼けのあとは夜、星が輝く夜空。夜が明け、朝焼けからの青空』というイメージで作りました。





▼本文

本文の前に、本のサイズについて少し。
この本の中身は小説ではなく脚本、言わば戯曲な訳で、市販されている戯曲本や読みやすさを考えてもB6以上にした方がいいかなとは思ったのですが。
見た目は小説、開くと脚本、という『小説と台本の間』のような感じにしたくて、文庫サイズのA6にしました。

本文
本文ページ

本文ページの組版は、
12行×30字/しっぽり明朝 10.7pt
行間 2.27、字幅 3.85(mm)
余白 上17、下15、外13、内21(mm)
ヘッダー8mm、フッターは無し、ノンブルは上部

脚本なので台詞とト書きしかないため、普通の小説のようなレイアウト(一般的な文庫は16~18行×37~40字が多い)にすると文字が詰まりすぎて読みづらく、下部の余白も多いからか全体的にスカスカした感じになってしまい……。でもあまりフォントサイズを大きくしても、それはそれでバランスも見栄えも悪い。
という事で、フォントサイズと四方の余白、行間と字幅の微調整を繰り返し、ページ全体の見た目は台本に近づけました。
本文使用フォントは、しっぽり明朝。上品で艶があって、見た目がとても好きなフォントです。
他にリュウミンとイワタ明朝体オールドも候補にあったのですが、リュウミンは少しすっきりしすぎている、イワタ明朝体オールドはダッシュが繋がらないため、しっぽり明朝にしました。
個人的にはするっと読める、違和感の無いレイアウトになったかと思います。

中身の脚本はもちろん書いていただいたものそのまま、ではあるのですが、小説の書き方のルールに沿わせたかったため、内容に干渉しない部分である以下の4点を修正しました。
・三点リーダーが全て1つだったので2つに。また会話の雰囲気から三点リーダーの一部をダッシュに置き換え。
・感嘆符と疑問符が複数個縦並び状態になっているところを縦中横に。
・感嘆符と疑問符の後に続く文章の前にスペースが無かったので、全角スペースを追加。
・算用数字と漢数字が混在していたので全て漢数字に。

あとは文頭に句読点や小文字がきてしまうところは、そうならないように文章の他のところに句読点を追加したり、漢字を平仮名にしたり(逆も然り)して調整しています。
また最終ページにカラー口絵(裏は奥付)を入れたかったので、そうなると本文は偶数ページで終了させなければいけないため、ページ数を調節するためにも一部の会話シーンの台詞の前後に空行を入れました。
これは私が読んでいて、ここの部分は空行を入れて台詞を強調させた方が演出が映える、と思ったのもあります。

本文用紙は淡クリームキンマリ90kg。
小説っぽい感じと読みやすさを重視して淡クリームキンマリを、裏に文字が透けないこととページのめくりやすさを考えて、通常の小説に使われているものよりも少し厚めの90kgを。
印刷指定を黒のマット感優先にしたので、文字のみですがテカりもなくとても読みやすい仕上がりになりました。

カラー口絵/奥付は雷鳥コートN110kg。
本文用紙が90kgなので、それとの厚みとバランスを考えて110kgに。
少しマット感があって厚さもちょうどよく、発色も綺麗で良い感じに艶も出るので、カラーイラストを載せるのだったら個人的には雷鳥コートが一番かなと思っています。
ちなみに、カラー口絵のイラストと奥付も全てマスキングテープを使用して描いています。





▼遊び紙

前:ミランダあい 100kg
後:ミランダしんく 100kg

遊び紙・前
前のミランダあい
遊び紙・後
後ろのミランダしんく

表紙がミランダなので、合わせて遊び紙も前後共にミランダにしました。
『あい』は牡丹さんと露暗さん、『しんく』は蛇煌さまのイメージです。
物語前半は牡丹さんが中心に話が進むので『あい』を前に入れました。
遊び紙のミランダはラメが片面にしか入っていないため、前後共に内側にラメ面を持ってきています。
本を開くと、カバーの折り返しが掛かっていない部分から表紙のラメが少し見えるので、前は表紙のラメからページをめくると『あい』のラメが、後は『しんく』のラメからページをめくると表紙のラメが、と続くようにしました。





まとめ

ということで今回の装丁まとめ。
ページ数:表紙込108ページ
表紙:ミランダ黒 170kg 特色(ホワイト)印刷+シルバーホログラム箔
カバー:キュリアスIRパール 103kg マットPP加工+透明ホログラム箔
モノクロ本文:淡クリームキンマリ 90kg
カラー本文:雷鳥コートN 110kg
遊び紙:ミランダあい/前、しんく/後、共に100kg


それから、今回利用した印刷所はSTARBOOKSさんです。
個人的には特殊装丁だったらプリントオンさんかスタブさんのどちらかと思っているのですが、プリオンさんは(文庫本セットで)カバーに箔が押せない・表紙にミランダ黒が使えないため、この2点+1冊から作成が可能なスタブさんにしました。
本当はもっと盛った装丁にしたかった気持ちもありますがA6サイズだと限界があるので……あと盛りすぎても今回のコンセプトである『小説と脚本/台本の間のような感じ』というところから外れてしまうので、盛り過ぎない程度の装丁に。

表紙・カバー・本文組版・カラー口絵・奥付、用紙からフォント、使うマステまで、全て細部までこだわりにこだわって、考えて作りました。

溝さんの個人依頼受付のタグに『貴方に贈る物語』とあるのですけれど、これは私から推しへ贈る物語、1冊です。
自分用にも1冊作ったので、この本は世界に2冊、推しと私しか持っていない本。

作ったはいいけれど、このご時世なのでお渡しできる機会が無くいつになるかなあ……と思っていたところ、先日お会いできる機会がありようやくお渡しできました。
自己満足で作ったものだけれど、楽しんでもらえていたら嬉しいなあと思いますね。

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