あとがき

 この度は、どこの馬の骨だかわからない茶漬け狂の作品をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。
 気がつけば3冊目。文筆家になるためにADを辞め、今の生活を始めて1年半が経とうとしています。この年月は短いようで長く、そしていろんなことが起こったものでした。個人的に一番大きな出来事は、こうやって夢を持つきっかけをつくってくれた恩人との別れでした。先に言っておきますが、死んでいません。ただ、死んだも同然のショックを受けたことに間違いありません。

 大学3年生の頃、私は某お笑い養成所の姉妹校であるエンタメスタッフ養成所に1年通っていました。その頃から書くことは好きだったのですが、いかんせん自分に自信が持てず、せめて好きな業界に就きたいという願いを叶える足がかりになれば……と考えたためです。その年に入学した2つの養成所生は『同期』として扱われ、授業の一環で共にライブやネット番組を作るなどの交流がありました。
 数多の芸人の卵たちの中でひときわ存在感を放っていたコンビがいました。私より2歳年上の彼らは将来有望株としてさまざまな舞台に立っては爆笑をかっさらっていました。同年代の彼らの勇姿に憧れを抱き、いつしか「絶対にこの人たちと仲良くなりたい」「仲良くなって一緒に面白いものをつくりたい」と思うようになりました。積極性に欠ける私が初めて自分からアクションをして仲良くなった人、と言っても過言ではないかもしれません。
 ADになって3ヶ月目、さっそく辞めたくなりました。就活が全くうまくいかず妥協で入社した会社での激務は精神的苦痛でしかなく、毎日が辛かったです。辞めるにしても私にできる仕事なんてこの世にあるのか、私は今後も楽しく生きていくことができないのか。もやもやを抱えていたある日、ついにストレスにより仕事が全く手につかないくらいの頭痛と腹痛と倦怠感に襲われて会社を早退しました。己の情けなさからやるせない気持ちになり、何だか真っ直ぐ家に帰りたくなくて、気分転換に彼らの出演しているお笑いライブを観に行くことにしました。
 語彙力に欠けた感想ですが、ライブは素晴らしいものでした。全組のネタが最高に面白いし、何より同期の彼らは錚々たる出演者たちの中でも堂々としていてたくさんの笑い声を生んでいました。「面白かった! たくさん笑えて楽しかった!」と感想を伝えたくて、そして今の自分をどうにか変えたくて、終演後彼らと会って話すことにしました。
「仕事、辞めたい…」
 ずっと考えているこの言葉とその経緯を伝えると、納得と同情をしてくれ、私がひとりで出せなかった『今後どうするべきか』の答え探しを手伝ってくれました。そして、その答えは自宅への帰路の途中、一緒に乗った電車の中で出ました。
「小説家とか、物書きになるっていうのはどう?」
 今思えば、思いつきで言ってくれたのかもしれません。それでも私にとって記憶の奥底に眠らせていた夢を思い起こすには十分でした。そうだ、私は昔、物書きに憧れていたんだ。

 そこからの生活は楽しいものでした。相変わらず貧乏だし、物書きとしてはまだまだ未熟です。でもこの大好きな書く仕事で、いつか彼らもびっくりさせられるくらいの売れっ子になるんだと意気込んで生きていました。日々が忙しないものになり、彼らのライブにもなかなか足を運べないことが続いた昨年の年の瀬、彼らコンビの解散をSNSで知りました。私に夢を与えてくれたほうの男性は、芸人を引退して構成作家になるとも投稿に書かれていました。
 芸人の解散、というのはどれもショックを受けるものではありますが、憧れの同期でもあった彼らのそれはかなりのダメージを受けるものでした。これから、2人揃って会う機会はないかもしれません。私も私で「会って何が言えるのだろう」と考え込んでしまい、気がつけばどんどん疎遠になってしまいました。それこそ今までなら劇場にライブを観に行けば会えたのに、それすらも叶わなくなってしまったのです。

 しかし、悲しい別れがあれば新たな出会いもあります。同人文学の即売イベント『文学フリマ』で作家の友人ができました。同じ夢を持つ彼らは、悩みを相談できる良き友人であり、彼らの仕事の話を聞けば「負けていられない」「もっと売れたい」「もっと書きたい」と士気を高めてくれる良きライバルでもあります。
 さらに言えば、周りの環境は変われど私自身の野望は変わりません。絶対売れっ子になって、『物書きとして生きてよかった』と思えるようになりたいんです。そのためにも、彼ら『憧れの恩人』との別れも、良き仲間との出会いも、全部自分の大切な要素にしてこれから新たな作品を生んでいきたいと思っています。

 最後になりましたが、この作品を作る上で装丁・デザイン・校正校閲などなど手伝ってくれた優秀なサポートメンバー、SNSでの告知に協力してくださった方々、そしてお買い上げいただいた読者の皆様に、最大の感謝と愛を。

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