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Twilight of the country(Ⅰ~Ⅲ)

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series/たそがれの國(順不同) 今、黄昏に立ち向かわん!
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2017年8月の記事一覧

嘘

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「——それから少女は、一人の騎士——その身に〝シバルリード〟の名を冠しては、騎士道を意味するそのおくり名の元、いずれ王室騎士団の長となる男に拾われ……悪運しぶとく、なんとか一命を取り留めました」
 かさり、と焚き火の燃え殻が音を立てて沈む。小さな黒い丘から、細い煙が昇っていた。
「首の皮一枚繋がった少女は、しかし、寝ても覚めても怯えました。自分は狂うのだ、血に狂ってしまうのだ、と。なら

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黒

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 赤い。
 黒い。
 赤い。
 熱い何かが自身の上に覆い被さっているその圧迫感に耐えながら、少女は呻き声を発して、辺りに広がる一面の赤を己の瞳に映していた。
「……母さま……?」
 目の前で燃え盛るのは、こんにちまで自分たちが暮らしていた小さな家。
 黒い塊と化してこちらへと降ってくる天井や壁から、自分は母と共に逃げていたはずだった。
 けれども、何か衝撃を感じた後に自分は一瞬だけ、意

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刃

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〈第四章〉
黒の子ども



「——美しい人だろう」
 薄く赤茶けた石像を見上げて、感じ入るように老人は隣の少女に語りかけた。
「お祖父さまのお屋敷の奥に、こんな処が在ったなんて……」
「永く、永く、私たちが守り続けてきた場所だ。そしてこの先、おまえが守ってゆかねばならない場所でもある」
「守る——お祖父さま、一体何から守ると言うのです?」
 肩よりも上で短く切りそろえた、真っ直ぐな

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光

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 少年は歩く。
 とうに暮れが空を覆っていることにすら、気が付かずに。
 歩き続ける。
 アインベルは、ぼんやりと考えごとをしながら歩を進める自分の足が、自身の向かう方向とは段々と逸れていっていることにも気が付かなかった。
(……〝渦潮〟が起こるのは、東の海だけ……)
 樹海に最も近い町の〈語る塔〉で訊いたキトとメグの話は、こうして少年の心を物思いに更けさせるのに、まったくもって十分す

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名

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「——長老の分からず屋!」
 鉄の門を隔てた向こう側の小屋敷から、甲高い怒鳴り声が聞こえてきたために、イリスは驚いてその肩を揺らしては後ろを振り返った。
「ハ、ハル……」
 屋敷の中ではハルと、ハルの故郷の長老が対談をしている最中である。
 自分が長老からあの遺跡について何か訊き出してきてやると、気合十分で単身長老宅へと乗り込んでいったハルであったが、しかし屋敷から聞こえてきた彼女の声

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