【追想】Liga Española 02-03 第16節 バレンシア戦

あの日、ベルナベウは水溜まりだらけだった────  。

2003年1月2日、年明け早々にトヨタカップで延期となっていたベルナベウでのセビージャ戦を3-0のスコアで完勝。

勝ち点30で順位を2位に上げ、5点差で首位を走るソシエダを追い掛けていた。

この試合の前日に当時の監督デル・ボスケの母親が亡くなり、黙祷から始まる。

ベルナベウのピッチコンディションは雨による水溜まりが出来る程に最悪。
そんな中でもジダンとアイマールは躍動していた。

キャプテンで守備の要であるイエロは年明けから復帰。セビージャ戦を含めて2戦目だった。

ピッチ周辺のスポンサー看板はトヨタのランドクルーザーが左から右へ動く広告があったりと、今振り返ると当時としては最先端の広告だったなと感じる。

20年前のバレンシアは堅守のチームであり、バラハとアルベルダが中盤の底を固め、アジャラという壁を突破してもGKのカニサレスが構えているという状況だった。

GKのカニサレスはマドリーの下部組織出身で、ちなみに息子もGKで現マドリーのトップチームに何度か呼ばれている。

またバラハは現バレンシアの監督で、現役時代は『ゴムの壁』と評される程に守備の技術に長けており、パスの精度も高く、得点力も兼ね備えたセンタハーフであった。

とはいえ、この日の試合はその後セビージャで活躍するパロップがGKを務めていた。

前半はマドリーにとっての左側の水溜まりが酷く、ボールが予期せず止まることがあったが、ジダンとロベルト・カルロスはそんなことを一切気にしないのは流石だ。

逆にバレンシア側は前線にパスを供給しても足止めをくらうという感じだった。

そうそう、当時のバレンシアの監督はその後リバプールを率い、04-05シーズンのCL決勝イスタンブールの地で前半に3失点を喫しながらも、後半の9分間で3得点して追いつき、PK戦の末に「アンチェロッティ」が率いるACミランを下し逆転勝利を飾った、みなさんご存知、マドリードが生んだ「"めい"将」ベニテスである。

前半20分を待たずにマケレレが、左サイドから中央でボールを受けることに活路を見出だそうとした元ノルウェー代表カリューを抱き抱えてイエローカード。
シーズン4枚目をもらうこととなった。

この日のロナウドは再三に渡り裏へ抜ける挑戦を続けていた。

※一応注意だが元🇧🇷代表、2002年W杯得点王の方だ。

にしても、ドリブルを仕掛けるフィーゴにアイマールが張り付くというのは、今にしてみれば感慨深いものがある。

守備の局面で、DFのイエロが早めのプレスで空けたスペースをマケレレが埋める。
ディフェンス時の約束事を忠実に遂行するところはやはり職人芸だ。

あえてロベルト・カルロスが水溜まりでボールを保持し、アルベルダのスライディングを誘発。
その動きを読んでいた本人はジャンプしてなんなくかわす。
とはいえ危険なプレーでアルベルダにイエローカードが提示される。
その辺の狡猾とも言える駆け引きもまた、この左ラテラルの魅力でもあった。

前半33分にゴール前左サイドで得たフリーキックでジダンが蹴ったゴールへ向けてカーブを掛けたパスにラウールが合わせる。
しかし、ボールはわずかにゴールの右側に外れる。
ラウールもこんなパスに合わせるのが抜群に巧かったし、前シーズンまではモリエンテスとコンビを組んでいたこともあり、セットプレーとなれば相手にしてみれば、脅威そのものだったろう。

後ろだけユニフォームの襟を立てるのもカッコいい。
当時真似してました。

バレンシアの攻撃を未然に防いだ右SBサルガドがそのままボールをキープ。
自陣ゴール前のキャプテンにパスしビルドアップ開始、となる場面で相手からプレスが来ると判断したイエロは直前でフェイント。
巧みに切り返して相手を転ばせることに成功。
滑りやすい芝を利用した頭脳戦を制したと言える。
余裕をもって前へボールを繋げる。

イエロは元々中盤の選手でもあり、かつテクニックも特徴的で🇪🇸代表ではフリーキックやPKで得点を重ね、ラウールに抜かれるまで通算得点記録は歴代1位だったこともある。

その4番からのパスはバレンシアの中盤にヘディングでクリアされるが、その浮き玉をマケレレが上手くジダンへ繋げる。

ボールの動きを視たジダンはまずそのままバウンドさせて、相手の頭上を越えさせ自身はそのまま前に走る。
バウンド先で待っていたのはフィーゴ。

フィーゴがそのボールをジダンへ短くパス。
ボールを保持したジダンはロナウドが完全に戻りきり、オフサイドを解消したことを確認。
再スタートを始めるモーションに入ったと同時に右足のアウトでスルーパス。
ピッチを走るボールは水溜まりで止まるが、そこはロナウドが一番受けやすい場所そのものだった。

前に出て来たGKパロップをエリア内で切り返しでかわす。
後は少し窮屈になったとはいえ、無人のゴールの流し込むだけ。

何度も裏へ抜ける動きを繰り返していた成果を挙げる。

得点直後にマドリーベンチへ走り、監督と抱擁をするロナウド。
デル・ボスケの母親へ捧げられた祝福とも言える瞬間だった。

前半35分。マドリー先制。

再開直後にマドリーゴール前でアイマールのヒールパスからピンチとなるが、ファビオ・アウレリオを3人で止めて、危機を脱する。

局面が変わり、バレンシアゴール前でロナウドがペジェグリーノに倒されてヒヤりとする場面があったが怪我などの問題無し。
それで得たフリーキックを担当するのは悪魔の左足と呼ばれた元🇧🇷代表左ラテラル、ロベルト・カルロス。

マケレレが相手側の壁の端に立ち、蹴る直前に瞬間に移動してシュートコースを空けるが、パロップがパンチングでクリア。

こぼれたところを左サイドでジダンが拾い、ロナウドへパス。
そこからロベルト・カルロスの悪魔の左足からシュートが放たれるが、わずかに外れてクロスバー左の外枠を叩く。

浮き玉を処理する際に、バラハとマケレレの頭が接触。主審はそこで笛を吹くのだが、中継ではバルコニーが映し出される。
ブトラゲーニョ、中央に当時のスポーツディレクターであったバルダーノなど最後尾に座る3人がクローズアップされるのだが、バルダーノの右隣がカペッロだったのは注目すべき点だ。

当時カペッロはASローマの監督だったし、冬の移籍市場が閉まる前というタイミングだった。
ローマの王子と呼ばれたトッティがマドリーへ移籍するのではないのかと報道が出ていたのもこの頃の数年間だったと記憶しているので、歴史の転換点となる出来事が話し合われていたのかと妄想してしまう。

ちなみに、ブトラゲーニョは85-86~89-90シーズンまでリーガ5連覇を達成した際のエースストライカーであり、ラウールの前に7番を背負っていた。
当時からマドリーのフロント入りをしており、現在も役員を務めている。

まぁ、それ以上に当時のベルナベウはタバコ吸えたんだなと時代を感じてしまったのだが(笑)

そういえば、2006年に🇮🇹代表をW杯制覇に導いたマルチェロ・リッピがまだユベントスの監督だった時はデッレ・アルピ(ユーベの改修前のスタジアム)のベンチ前に立ちながら葉巻ふかしてたのを思い出した。

前半終盤にマドリーゴール前へ突破したアイマールをカピタンがスライディングで止めて黄色のカードをもらう。

とはいえ、ファビオ・アウレリオのフリーキックは大きく枠の上へ外れる。

直後のアイマールのシュートも勢いがなく、聖イケルと呼ばれたGKの出番はほとんど無い。

左サイドへポジションを移してきたフィーゴが水溜まりの中でドリブルをするが、重心が低くテクニックもあるため、倒れないし、失わない。

アディショナルタイムが3分と表示されたところで右に移ったジダンが左サイドのロベルト・カルロスへサイドチェンジのパス。
そこから中央の空いたスペースを進みながら、ゴール前で裏へ抜けようとするラウールへスルーパス。

背負ったままディフェンスの股を通したシュートはゴール右側へわずかに外れる。

そこで、前半終了。

さて、後半開始。
気温6℃、湿度79%のサンティアゴ・ベルナベウ。
この時点でリーガ最小失点のバレンシア。

相変わらずピッチの両サイドライン付近は水溜まりだらけ。
それでもジダンのテクニックもパス精度も低下しない。

後半開始直後からマドリーは攻めるがエリア内に侵入するには至らず。

バレンシアもアイマールからスルーパスが出るが最前線のカリューには渡らず。

水溜まりの上でもジダンのヒールパス、それが左サイドを走っていたロベルト・カルロスへ。
左サイドバックがシュートを放つが大きく枠を外れる。

直後にバレンシアのコーナーキック。これはエルゲラがクリアするがセカンドボールがゴール前左サイドのアイマールに繋がり、そこでマドリーはファールで止める。

しかし、そのフリーキックをアジャラがヘディングで合わせ同点。
バレンシア守備陣の要であり、何度も見た元アルゼンチン代表DFのハンマーヘッドを見事に決められた瞬間だ。

後半9分。スコアは1-1に。

同点になってから、ややチグハグな攻撃でフィニッシュまで繋げられないマドリー。
逆に勢いが増したバレンシアは、その後も立て続けにカシージャスを脅かし続ける。

後半12分、バレンシアの一連の攻撃の中でアイマールの足がボールをキャッチしようとうつ伏せになったカシージャスの頭にあたりファールの判定。
ここでイエローカードが提示される。

後半15分まではバレンシアに攻められる機会が多かったが、フィーゴの浮き玉のパスがラウールに渡る直前でおしくもオフサイドとなるが、この辺から徐々にマドリーのペースへと傾き出す。

後半18分、マドリー右サイド側で突破しようとした右サイドバックのサルガドを止めようとしたアイマールが足を踏んでこの日2枚目のイエローカード。
1枚目をもらってから5分間で2枚もらい退場となる。

ここで、一気にマドリーの攻勢が強まる。

後半21分にはグティがアップを始める。

左サイドでプレーが途切れ、ジダンはスローインをマケレレへ、それがジダンに戻り、やや中央気味にポジションを取っているサルガドへパス。

右ラテラルはそのまま中央のマケレレへ渡して、自身は右サイドを走りバレンシアディフェンスを1人引き付ける。

マケレレはジダンへと繋げ、エリア内で1人背負っているラウールへパス。

7番はポストプレーで軽く止め、そこへ走り込んだジダンはシュートするだけ。
豪快にバレンシアゴールに突き刺さる。

後半21分、2-1。マドリー逆転。
さらに勢いが増すEl Blanco。

バレンシアは後半25分にディフェンスラインのカルボーニから抜いてFWのミスタを投入。

ミスタもまたマドリーの下部組織出身だが、後にアトレティコへ移籍した。

後半28分にバレンシアのルフェテの突破をロベルト・カルロスとフラビオ・コンセイソンが止めに入り、このマケレレと2枚の中盤の底を担う🇧🇷人がルフェテの左やや後方からボールに向けてスライディングするのだが、これをファール無しでボールを奪うことが出来るのは、デポルティーボ・ラ・コルーニャから引き抜いた選手もまた地味だが守備の職人だったんだなと感じる。

後半33分、ロナウドに代わってグティがピッチへ。

その後、バレンシアはフリーキックを得て、バラハが担当するがマドリーだけの壁に当たる。

後半37分にはコーナーキックから再度アジャラのヘディングが襲いかかるが、ここは聖イケルが弾く。

後半40分となりカンビアッソが準備しているところでパロップが蹴ったゴールキックをイエロが拾い、フラビオ・コンセイソンへパス。
そして、ハーフウェーライン手前にいたグティに渡す。
無人のスペースを14番が進み、一旦左サイドのロベルト・カルロスへ。

エリア前でリターンをもらったグティからあのゴールが生まれる。

返ってきたパスをわざと浮かせて、落ちてきたところを巧みに叩いてシュート。
相手GKは反応するが、ゴール左隅に決まる。

ピッチコンディションが悪いため、浮かせた方が良いと判断して生まれた芸術的なゴールである。

後にベンゼマが同じくベルナベウでのバレンシア戦で似たようなゴールを決めたのも感慨深い。

グティのゴールでスコアは3-1に。
マドリーは突き放すことに成功。


後半42分、マドリーはマケレレに代えてカンビアッソを投入。

そして、後半44分にラウールはポルティージョに交代。

彼もまたトップチームでポジションを獲れなかった下部組織出身のストライカーである。

アディショナルタイムが3分の中で、後半47分にジダンが魅せる。
右サイドのグティから中央でパスを受けたジダンは軸足の裏側にボールを通して相手のマークを振り切る。

そのままエリア前に進み、スルーパス。
上手く反応したポルティージョがマドリーの4得点目を記録する。

スコアは4-1に。

これがポルティージョの02-03シーズン初ゴールだった。
ユニフォームのマドリーのエンブレムを指し示すのは素晴らしい。

ジダンと抱擁するポルティージョ。

彼はその後、フィオレンティーナにレンタル移籍したが結果が出ず、マドリーからも去ってしまったが、ポルティージョのサッカー人生において幸福な瞬間のひとつだったと思いたい。

ここで試合終了。

結果的にアイマールの退場が試合を決めた形だが、ピッチコンディションが最悪な中でも銀河系ここにありという試合だった。

そして、そんな中でもジダンの妙技を堪能出来る素晴らしい時間でもあった。

あの水でビチャビチャのピッチが、20年経って芝を分割収納出来るうえに開閉式の屋根が出来たベルナベウを見ることになるとは想像していなかったが。

現在のCL3連覇達成後のマドリーも素晴らしいが、銀河系時代もまたあの時代にしか体感出来なかった感動があった。

現役時代のジダンをみなさんも機会があればご覧いただきたいと思う。





















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