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【自戒】素人が物書きで気をつけていること

物を書いてどこかに発表するからには、誰かに読まれることになります。そこで、素人の筆者が自分への戒めとして物を書くときに大切だなと気づいたことを2つ書いてみたいと思います(当たり前だと思う方がいらっしゃるでしょうが、それは筆者がそういうレベルにあるということです)。

1.ライター自身の感動

ポジティブなものに限らず、ネガティブなものに対する感動でも構いません。物を書くときには、実際に体験した感動を込めると、リアリティを添えたその言葉はとても大きな力を持ちます。2次元に書かれただけの文字列が、場合によっては3次元的な広がりを持つようになるので、言葉の持っている凄みはここにあると言えるでしょう。

しかしながら、実体験で得られる感動には限りがあります。そんな時は足りなかった分を想像で補って書くか、あるいは想像100%で全く新しく生み出すかになります。「実体験の感動」に対しての「疑似体験の想像感動」といったところでしょうか。後者であれば、ライターの持っている価値感(他の人からすれば偏見)と想像力の豊かさが試されることになります。実際に身体を動かして経験するわけではないので、ライター自身の感じる心だけが頼りになってきます。

具体的には、頭の中でイメージ映像が細部に至るまで鮮明に浮かんでいて、その世界に入ってライターが何を疑似体験したか、その想像の中で何に感動したかがとても重要です。適当に映像を思い浮かべただけではリアリティの薄い感動にしかなりませんから、五感に加えてライター自身の感性(自分なりの捉え方や考え方)を研ぎ澄ます必要があります。飽くまで大事なのはライター自身の純粋な感動なのです。

ちなみに、そこで感動したことを本文中に書くかどうかはライター次第です。ストレートに書いてもいいし、全体の流れからその感動を暗に喚起させてもいいですし、他にも様々な手法があるでしょう。いずれにせよ、押しつけがましさやご都合主義感、嘘臭さを読者に与えないようにできれば何でも構わないと筆者は考えています。

2.読者への配慮

ライター側と違って、全く前情報のない読者には読んで想像(体験を)してもらわねばなりません。なので、ライターのイメージ通りの映像を想像してもらったり、同じ感動を共有する・・・とは行かないまでも、共感くらいはしてもらえるような言葉の遣い方が必要になります。ライターは自分が作りだした世界の案内人としての責任は最低限果たすべきです。

しかし、ここで1つ重要な問題があります。それは「言葉による感情表現が極めて難しい」ということです。例えば絵や声と言った媒体は”感情”の情報を乗せることができますが、言葉というのはとても客観的なもので、持っている意味合いは個人個人の価値観に依存しています。そうなると、作者の伝えたい感動というものが客観的な”言葉”によって弱められて、言いたいことにズレが生じてくることになります。

なので、ライターと読者が似たイメージ映像を浮かべやすいだけでなく、文章にリズム感のある言葉を選ぶ必要があります。そのための言葉をたくさん知っていることはもちろん大事ですが、下記に示すような、①抽象的な言葉、②二人称、③比喩と指示代名詞の乱発、④その他分かりづらい表現を使うときは注意が必要になってきます。

①抽象的な言葉 = 読者にとっては「なんのこっちゃ?」の危険性

例えば「私は夢を愛している。」という文があったとします。将来実現したい方の夢か、眠っている時に見る夢かは前後の文脈で判断できますが、脈絡なくいきなりこういった文が流れてくると「夢」が抽象的すぎて読者は「なんのこっちゃ?」と止まらざるを得なくなります。

「読者の想像に任せますよ」というようなライターが仕掛けた作意なら話は別ですが、さらさらっと読ませたいところでは読者が混乱しやすい表現は避けた方がいいでしょう。ありがちな失敗例としては、詩的に書こうとか、カッコよく書こうとして自分だけ気持ちいい文ができあがることです。「感動したことを伝えたい」という本来の目的から、いつしかライターが自身に酔っているだけの内容にすり変わっていないかということには常に注意しなければなりません。

②二人称 = 読者にとっては「お呼びでない?」の危険性

典型的なのが「あなた」や「君」です。こういう二人称は便利な反面、注意しないといけないことがあります。

A.ライターが読者に向けて書いたもの

B.ライターが読んで欲しい特定の誰か1人に宛てて書いたもの

ライターはAかBかを当然知っているわけですが、読者には全く分かりません。Aは読者に伝えているだけなのでいいのですが、問題なのは特にBに該当する場合です。

Bは好きな人、恋人、友達、親兄弟など近しい人への恋愛や感謝、憧れといった感情を表す場合です。作中ではライターの言う、例えば「君」に対する感情や思いがほぼ全てを占めます。このとき陥りやすいのは、ライターが「君」に対する想いを思うがままに並べただけで作品ができたかのように錯覚することです(詩を書く時は特に注意すべきことです)。

これはライターとライターにとっての「君」との間で完結している関係であって、読者はその傍観者に過ぎません。ライターの気持ちを延々と聞かされているだけなので、これだと読者にとっては「お呼びでない?」という気持ちにもなりかねません。感動部分も不明瞭なので、このような読者に対する配慮がなされていない作品は筆者は読もうとは思いません。

仮に、ライターが様々な言い回しを駆使して「君が好きだ」と暗に書いたところで、読者はライターと同じ度合いの「好き」という感情を感じとることは絶対にできません。これが言葉が客観的なもののために生じる厄介さで、言葉だけで感情を表現しようとするととんでもなく難しいものになりますよ、と2.の冒頭部分で述べたわけです。ライターがこのことを理解せずに軽い気持ちで挑戦してもおそらく失敗するでしょう(筆者とは違って卓越した文才があれば別ですが)。

③比喩・指示代名詞 = 読者の理解への協力

比喩として典型的なのが「まるで~」「~のように」「~みたいな」です。比喩は読者が理解することを手助けする手法としては良いものの、乱発すると無駄に言葉が増えてしまって本来のイメージが歪む可能性があります。

例えば「わたしの心は水を打ったように静かで、空を流れる雲のように乱れもしない。」という文があったとすると、余計な情報であふれています。「わたしの心は静かだ。」と短くしても充分通じますし、読者の頭の中に不必要な水や空のイメージも浮かぶことはありません(作意であればOK)。用量に注意です。

指示代名詞は”こそあど”シリーズ(「これ」「それ」「あれ」「どれ」「この」「あの」「その」「どの」)です。ライターは自分が作りだした世界の中でどこかからそのシーンを眺めています。例えば、単なる「空」より「あの空」とすると方向性や奥行き(広がり)を持つ描写ができるといった具合です。どの視点から見ているのかによって使い分けたいものです。

1.で『頭の中でイメージ映像が細部に至るまで鮮明に浮かんでいる必要がある』と言及したのはこのためです。ただ、指示代名詞を使いすぎると説明文っぽくなり、想像の中の空間的な広がりを狭めてしまう恐れもあるので、これも用量に注意が必要です。

④その他分かりづらい表現 = 読者を混乱させる危険性

難ーー1つ目は、簡単に言えることをわざわざ難しい表現に変えることです。例としては「うろたえる」を「狼狽する」と書いてみたり、何と読むのか分からない難読漢字や難読熟語を多用することです。せっかく書いても読めなければ伝わるものも伝わりません。作意がない限りは伝わりやすい言葉を使いましょう。文を飾るためだけに難しい言葉を使うのは却って読者の混乱を招くだけです。

長ーー2つ目は、理由もなく短く書けることを(内容とは関係の無い比喩の乱発や、別の言い回しで)余計な言葉で長くすることです。例えば、「太陽が水平線の下へと沈んで行く。」という内容を「空の境界に溶け込んでゆくあの青の砂漠の果てはまだ夕焼けを隠し持っているのだろう、と言い表すのは生卵を1つ飲みこむことのように簡単だ。」というような感じです。中身がスカスカ(低密度)になるだけでなく、結局何が書いてあったのかよく分からない、無駄に長いという三重苦を読者に与えるような表現は絶対に控えるべきです。

これら難・長の2つはライターがイメージ映像の描写の努力を怠り、考えもなしに言葉そのものを飾ることを優先させた結果として引き起こされます。カッコつけるべきはライター自身ではなく、ライターの描いた世界(=ストーリー)だけで充分であることは忘れてはいけません。

※ここまで書いてきたことは筆者の偏見であって、個々のライターの考えや作風次第でいくらでも変わるでしょう。素人レベルで書くとしたらこうした方が無難だろうという意味合いで書いています。

まとめると、自分が作った物(作品)を最後まで読んでもらうには、自分が思い描いた映像世界と心を揺さぶられたものを把握して、読者には分かりやすい言葉で自身が作りだした世界を案内すれば良いということになります。

余談ですが、俳句や短歌はその究極形と言えるかもしれません。たった17音、31音と制限された中でライターの作意や感動を織り込みつつ映像を作り出す必要があるので、詩や小説よりもはるかに難易度が高いと思います。描きたい情景の表現に用いる言葉の取捨選択にも苦しめられるので、言葉の効率化や語彙力、表現力を鍛える点ではいいトレーニングになると筆者は考えています(巧拙に関わらず、作ってみるとその難易度が分かりました)。

「ためになるわ」と感じて頂ければサポートを頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。