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【将棋】藤井七段ばかりが取り上げられる舞台裏で。

藤井七段の強さの秘密1:超速の未来予知能力

今やタイトル戦2つにも登場するようになり、世の中に流れる将棋界のニュースは偏向報道と言えるほど藤井七段で占められている。彼の快進撃を支えているのは、神がかり的な先を読むスピードにある。とんでもないミスをしないことを前提にすると、基本的に将棋の勝敗は相手よりどれだけ盤上にある局面の未来を見通すことができるかで決まる。

将棋を詳しく知らない方向けに言えば、藤井七段はプロの中でも並外れた速さで、遠い未来予知ができるのだ。その力でもって膨大に存在する未来の局面を天秤にかけ、現局面で何が自分にとって最善手なのかを論理的に選び取っている。しかもそれは現代のコンピュータソフトを凌駕する精度なのだから恐ろしい。個人的には、いつか彼がスパコン世界一位の「富岳」と対戦する様子が見てみたいものである。

さて、将棋だけに限ったことではないけれども、相手よりも速く、またより多くの未来の情報を把握できることほど強力な武器はない。それが相手を上回れば、相手の仕掛ける罠を事前に回避することはもちろんのこと、逆に罠を張りめぐらして自分の手のひらの上で相手を踊らせることだってできる。その驚異的な先を読むスピードに裏打ちされて、藤井七段は安定的かつ圧倒的な強さを保っていられるのだ(と考えられる)。それに加えて、もう1つ彼の強さの秘密があるので以降で述べたい。

棋聖戦第二局の夜、対局を振り返る渡辺三冠

6月28日には棋聖戦第二局をABEMATV将棋チャンネルが無料中継していた。結果、後手番の藤井七段が勝利し、2連勝で棋聖奪取へリーチをかけた。防衛する立場の渡辺三冠(棋聖・棋王・王将)は自身のブログでその日にうちに本局の山場を分析していて、最後の方でこう記している。

いつ不利になったのか分からないまま、
気が付いたら敗勢、という将棋でした
引用:渡辺明ブログ「棋聖戦第2局。」(2020-06-28)より

ABEMATVでは対局中にコンピュータソフトが対局者の形勢を百分率で表しており、一局のうち序中盤は両者が50%-50%近くで推移していた。中盤を過ぎて終盤に差し掛かると、その数字は55%-45%とじわじわ開きはじめた。渡辺三冠が「気が付いたら敗勢」と言及している局面においては、そのわずか数手の間に一気に70%-30%くらいまで広がったと記憶している(記憶が曖昧)。

藤井七段の強さの秘密2:精確な形勢判断力

このことから察するに、藤井七段は形勢判断の感覚がとても研ぎ澄まされているのだろう。形勢ゲージが50%±10%の間を揺れ動いている時、元アマ五段の自分にはどうしてその差が開いているのか皆目見当がつかない。「何十手か進んだ先に有利になる変化が多いんだろう」とぼんやり予想するのが関の山だ。

でも、遠い未来を見通す慧眼を持った藤井七段は間違いなくコンピュータソフト以上に精確な形勢判断をしている。それを裏付ける証拠として、本局の様に局面が混沌としているのに形勢が60%-40%より大きく傾いたシーンを自分はこれまでに何度も見てきた。わずかなプラス分を自身の1手1手でかき集めて正味10%のリードを奪うまでの過程は一見地味に映るものの、それを許した渡辺三冠が気づかなかったという意味では一局の中では最大のハイライトであり、感動的なシーンだと個人的に思う。

棋聖戦よ、どうか第5局まで

前述した最善手の精度と形勢判断の精確性によって、藤井七段の対戦相手は言うまでもなく1手の緩みも間違いも許されないプレッシャーがかかっている。現在最も強い棋士の一人、渡辺三冠でさえも「いつ不利になったのか分からない」と言わしめるほどなのだから、全く異次元の将棋を指していると言ってもいい。素人目からしても濃い内容だったということは分かるので、この棋聖戦の決着は是非とも最終第5局までもつれて欲しい。世の中や偏向メディアは藤井七段のタイトル奪取という結果にしか関心がないだろうと思うが、自分は藤井七段と渡辺三冠が紡ぎ出す価値の高い一局の将棋の方をもっと見ていたい、とそう願っている。

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