差別と偏見 1
【第一章】‐1『発覚』
「お前らさぼるんじゃねえぞ!」
この会社では外国人従業員に対してはそう言っておきながら日本人の社員は度々さぼりながら仕事をしている。
「ほらマイク、さぼるんじゃえぇって言ってるだろ!」
「さぼってなんかいません」
片言の日本語で反論するマイク。
マイクはフィリピンから日本へと出稼ぎに来ており、他にも中国や東南アジアを中心に多くの外国人がこの工場で働いている。
この工場では彼らの様な外国人を多く雇い入れているが、実際には国に帰られないようパスポートを取り上げ少ない給料で働かせていた。
彼らは憧れの日本に来日し少ない給料でもほかの日本人も同等の給料で働いているものと信じて疑わず、半ば騙される形で働かされていたのだった。
ところがある日それは起きた。
この日は給料日。この会社でもほかの企業と同様給料は銀行振り込みなのだが、こういった銀行振り込みなのは日本人社員のみであり外国人労働者に対しては現金を手渡しで支給していた。
そんな時だった。この会社の若手社員である本田が上司から渡された給料明細をこっそり確認した際、たまたま近くをマイクが通りかかったため慌ててしまおうとし手元を滑らせ落としてしまった。
この時善意のつもりでそれをマイクが拾い上げた際給料の金額が見えてしまったのだが、給料明細をもらった事のないマイクはその紙に書いてあった数字が給料の額だとは思っていなかった。
「本田さん落としましたよ」
「見るんじゃねえよ」
本田はひったくるようにマイクの手から給料明細を取り上げたため、善意のつもりで拾ってあげたにもかかわらず怒られてしまいどこか釈然としなかったマイク。
「お前俺の給料の額見たか?」
この言葉によりこの時初めてマイクはその紙に書いてあった数字が給料の額だと言うことに気付く事となり、その金額が十九万円という額だったためマイクはこんなにもらっていたのかと驚いていた。
「ごめんなさい、細かい金額までは分かりませんが見えてしまいました。すごいもらっているんですね」
「何言ってんの? 俺なんてまだ下っ端だから少ない方だよ」
「でも僕そんなにもらった事ないですよ」
「当たり前だろ! お前らと一緒にすんなよ、おまえら外国人の給料なんてせいぜい俺らの半分が良いとこだろ。まったく外国人のくせに俺らと同じだけの給料がもらえると思っていたのか? 身の程を知れよな」
本田の当然と言わんばかりの言葉にマイクは驚いてしまい、それは彼の表情にも表れていた。
「ほんとですかそれ、やっていることは同じなのにどうしてそんなに給料が違うんですか?」
「そんなの当り前じゃねえか、俺たちは日本人でお前らは外国人だからに決まってるだろ! どう考えたって日本人の方が偉いんだよ」
(どうして日本人の方が偉いなんて事がありえるんだ、やっていることは同じなのに。それどころか僕らの方が日本人より働いているじゃないか!)
「そんなのおかしい! どうして同じ仕事をしているのに外国人というだけで給料が半分にも満たないんだ」
「なんだお前、日本で働かせてもらって給料まで出してもらっているのにまだ不満だっていうのか!」
「僕だって日本人と同じだけの給料をもらっているなら文句は言いません。でもそうじゃないですか、日本人はいつもさぼってばかりで僕らばかりが働いているのに、それなのに僕らの給料が日本人の半分にも満たないなんて納得いきません」
「お前らが納得しようとしまいと外国人の給料なんてそれでいいんだよ、外国人ふぜいが生意気言うな!」
「何ですかそれ、外国人だからってバカにしすぎじゃないですか、僕らはその少ない給料の中から国に仕送りをしているんです!」
二人の言い争いに気付いてやって来たのは工場長の小林だった。
「どうした、何もめているんだ?」
「工場長、マイクの奴がどうして同じ仕事をしているのに自分たちは給料が少ないんだって言いだして」
マイクは小林に対しても詰め寄っていく。
「僕たちは日本人のみんなと同じ仕事をしています。それなのにどうして僕たちの給料は日本人の半分にもならないんですか? それどころか日本人はさぼってばかりで僕たちばかりに働かせているじゃないですか」
「本田君給料話したの? この事は彼等には黙っているようにって言ったじゃない、どうしてしゃべったの」
小林のあきれたように話す言葉に言い訳をする本田。
「すみません。僕がうっかり落とした給料明細を彼が拾ってしまって、その時に見られてしまいました」
「わざわざ中身を見たのか?」
勘違いをしてしまった小林に対しマイクが訂正する。
「そうじゃありません! 本田さんが落とした紙を拾ってあげたときに偶然見えてしまっただけです」
「そう言う事か、まったくこんなところで見るから……」
仕方ないとばかりに小林はマイクに対し説明するが、マイクにとってその言葉は説明になっておらず到底納得できるものではなかった。
「当たり前だろマイク。良いかよく聞け、お前ら外国人よりも俺たちの方が優秀なのは決まっているんだ。能力の劣るお前らに高い給料払えないだろ! 分かり切った事を聞くな」
それでも引き下がらないマイク。
「日本人よりも外国人の方が能力が劣るって誰が決めたんです! 仮にそうだとしても日本人の半分も給料がもらえないなんておかしいじゃないですか」
「外国人の分際で何言っている。住む寮まで与えてもらって何の文句があるんだ、嫌なら辞めてもらったって良いんだよ。だからと言って行くとこないでしょ、パスポートは会社が預かっているんだ、お前らはここで働く以外ないんだよ」
日本語があまり得意でないマイクは小林の言葉に太刀打ちできなくなってしまった。
(確かにパスポートも取り上げられているしここを辞めたら寮も出なければいけない、そうなったらホームレスになる以外行くとこが無くなってしまう)
悔しさを噛みしめながらも引き下がるしかなくなってしまったマイク。
つづく
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