差別と偏見 11
【最終章】-3『解決』
翌日の日曜日、事件の証言をするため朝一番に五十嵐は警察署へと向かった。
「五十嵐さん、事件当日現場の様子を見ていたそうですけどどんな状況だったか分かりますか?」
「はい、あの時は日課のウォーキングの途中だったんですが一人の男の人が刃物のようなものを持っていて数人の男の人達をめがけて突進していくところだったんです、遠目からでもはっきりと分かりました。刃物を持っていたのが日本人で襲われていた方が外国人でした。あたしもう怖くて」
「その後どうしたか分かりますか?」
「刃物を持っていた男の人が外国人の人達めがけて襲い掛かったように見えました。そしたら刃物を持っていた男の人と外国人の男の人の中の一人がもみあいになって最初に刃物を持っていた人が逆に刺されてしまって、その後数人の男の人の一人がケータイ電話でどこかに電話をかけていたようです。その後あたしも怖くなってその場から逃げたんですが少したったら救急車のサイレンの音が聞こえたのであそこに向かうのかなってわかったんです」
「その時あなたは通報しようとは思わなかったんですか?」
「一瞬思いましたけど怖くて関わりたくなかったんです。すみません」
「そうでしたか」
ところがこの時山崎刑事からはまさかのとんでもない言葉が発せられた。
「五十嵐さんと言いましたね、あなた遠目から見ていたといいましたが本当に刃物を持っていたのは日本人だったんですか、見間違いということはないですか?」
「そう言われてしまうと自信ないですが、でも間違いないはずです!」
「『はず』ですか、では確実ではないわけですね」
「何ですかそれ、まるでどうしてもあの外国人を犯人にしたいようですね」
この時の山崎の表情は薄笑いを浮かべており、五十嵐の話を真剣に聞いていないようだった。
「そんなことありません、ただ罪を犯す外国人が結構いるものでね」
「やっぱりそういう目で見ているんじゃないですか、外国人だからってそういう目で見るのはおかしいじゃないですか!」
この時五十嵐は外国人差別をし人を平等に扱うことのできない警察を信用できなくなっていた。
その後警察署を後にした五十嵐は、ケータイ電話を取り出し伊藤弁護士のもとに電話をかける。
『はい、伊藤弁護士事務所ですが』
女性事務員が電話に出ると彼女に対し五十嵐が尋ねる。
「五十嵐と言いますが伊藤先生はいらっしゃいますか?」
『伊藤先生ですね、少々お待ちください』
「先生先日の五十嵐さんという方からお電話です」
「こっちに回してくれる?」
警察署に行ってくれると言っていた五十嵐からの電話であったため、期待と不安を胸に受話器を取る伊藤。
『お待たせいたしました。どうしました五十嵐さん』
「先ほど警察に行ってきました」
『わざわざそのことを連絡いただいたんですか、ありがとうございます』
「いえとんでもないです。ただそのことでお会いしたいのですがこれから伺ってもよろしいでしょうか?」
『それは構わないですが何かありました?』
「それはお会いした時に」
『分かりました、ではお待ちしておりますので気を付けていらしてください。場所は分かりますか?』
「いただいた名刺に住所も書いてありましたので分かると思います」
『では目印だけ伝えますね』
そういうと伊藤は目印になる建物や店などを伝え五十嵐の到着を待つことにした。
暫くして五十嵐が伊藤弁護士事務所に到着すると、挨拶もそこそこに伊藤はソファーに座るよう促す。
「よくいらっしゃいました、どうぞお座りください」
五十嵐がソファーに腰を下ろすと、わざわざ事務所にやってきた理由を尋ねる。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。要件というのはやはり警察に行っていただいた件でしょうか?」
「はい、先ほど警察に行って証言してきました」
「ありがとうございます、それでどうでしたか?」
「どうもこうもありません! 警察の方は私の証言をまともに取り合っていないようで、私の証言が間違いだったと誘導しているようでした」
その言葉に伊藤はがっかりとうなだれるしかなかった。
「やはりそうでしたか、あなたのような一市民の証言も信用しないとは、わたしもあれほど言ったのに。彼らが外国人だからって偏見の目で見るなんて警察も地に落ちたとしか言いようがないな?」
「警察の方も言っていました、罪を犯す外国人が結構いるからと、私はその言葉に怒っているんです。私の知り合いにも外国人の方が何人かいますけどみんな優しくていい方ばかりです。外国人というだけで犯罪者扱いをするなんて許せません!」
この言葉により伊藤は何故五十嵐がこの件にこれほどまでかかわるのか分かった気がした。
「だから五十嵐さんはこの件にここまでかかわるんですね? 普通こう言う事件にはあまりかかわりたくないものですから」
「そうですね、ただの誤認逮捕であればここまでかかわらなかったかもしれません。でも外国人というだけで捕まってしまったと聞いてどうしても許せなくて」
「そういうことだったんですね、ありがとうございました。とにかくあの辺りは防犯カメラなどは期待できないでしょうから今後はもう一度目撃者がいないか探してみます」
「そうしてあげてください。それと私にはこれ以上何もできないですから、せめて今後結果が分かったら教えていただけますか? 連絡先を書いておきますので」
「分かりました、何か動きがあったら必ず連絡いたします」
その後伊藤は現場付近で目撃者を探していた。
しかしなかなか見つからず途方に暮れていた時ある家のガレージに止めてある車のドライブレコーダーが目に入った。
そっか、ドライブレコーダーの駐車監視機能だ。
そう思った伊藤は現場方面に向いて止まっている車のドライブレコーダーを探し出し、一台一台当たっていくとついに探し当てた。
映像を確認しマイクたちが映っているものの、その映像は非常に小さくはっきりとは分からない。それでも拡大すれば画像は荒くなるもののマイクたちだとわかるまでにはなった。
証拠となる映像が手に入ったことで早速この証拠を手に警察へと向かう伊藤。
この時伊藤は焦っていた。何故なら送検の期限が迫っており早くしないとマイクが送検されてしまうからにほかならなかった。
ぎりぎりで警察へと着いた伊藤はすぐに受付で山崎を呼び出してもらう。
「またあなたですか、今頃来ても彼はもうすぐ送検ですよ」
「彼が最初にナイフを持ち出したのではないという証拠を持ってきました」
「またそんなこと言って、一応見るだけ見ましょうか、なんですその証拠というのは?」
「この映像を見てください」
伊藤はノートパソコンを開きドライブレコーダーの映像を再生する。
そこにははっきりと本田がナイフを持ちマイクたちに襲い掛かる姿が映っていた。
「これは、あいつらが言っていたことは本当だったようですね」
「何ですかその言い草は、あなた方は彼らが外国人であることを理由にはなから彼らが犯人と決めつけたではないですか、そのことへの謝罪の言葉はないんですか!」
「確かにそうですね、申し訳ありませんでした」
「私にではない、彼らにです! 結果的に刺してしまいましたが正当防衛です。相手方も傷は浅く命に別状はなかったんでしょ、釈放してくれますよね」
「分かりました、すぐに手続きに入りましょう」
その後マイクの疑いは晴れたが人を刺してしまったことに変わりはなく、それでも正当防衛が認められることとなった。
対して本田は銃刀法違反と殺人未遂が付く事となり逮捕されることとなった。
最後までお付き合い頂きありがとうございます、
これにて完結となります。
お粗末様でした!
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