冤罪とデジタルタトゥー 1
【序章】『事件の始まり』
この日仕事に向かうため悟志が玄関に向かうと、そこへ一人娘の美咲が駆け寄ってきた。
「パパいってらっしゃい」
「美咲行ってくるよ、いい子にしてるんだぞ!」
「はぁい、おしごとがんばってね」
そこへ家事仕事を一時中断した妻の秋絵も駆け寄ってきた。
「行ってらっしゃいパパ、今日は早く帰れるの?」
「そうだな、たぶん定時に帰れると思うよ」
「そう、気を付けてね」
「あぁ行ってくるよ」
こうして悟志は仕事に向かった。
その後悟志は近所の住民で玄関前を掃除していた青山家の紗枝に挨拶をした。
「おはようございます青山さん」
悟志のあいさつに紗枝も返事をする。
「おはようございます、これからお仕事ですか?」
「はい」
悟志が笑顔を浮かべながら一言返すと紗枝はさらに続ける。
「おしごとがんばって下さい」
「ありがとうございます、行ってきます」
その後最寄りのバス停から駅に向かうバスに乗り込んだ悟志、そこにはすでに女子高生の絵梨花が乗っていた。
すでに座席に座っている絵梨花は車内が混雑しているにもかかわらずその隣にはバッグを置いてしまい二人分の席を占領してしまっていた。
すぐに気付いた悟志であったがその後しばらくは黙っていたものの、本来持っていた正義感から我慢できなくなり声をかけた。
「キミ」
それでも耳にイヤフォンをさし気付かないでいると、もう一度悟志は声をかけた。
「キミ、そこの女子高生聞こえないのか」
ようやく気付いた絵梨花が不機嫌そうな顔つきで返事をする。
「なんだよおっさん」
「そのバッグキミのだろ、車内がこれだけ混んでいるんだ、バッグを膝の上に置くとかしたらどうなんだ?」
その言葉に鋭い眼光で睨みつける絵梨花。
「うるせえな、あたしがどうしようと勝手だろ!」
「そのバッグをどかしてくれればもう一人座れるんだ、これだけ混みあっているんだから譲り合ったらどうなんだ」
悟志の言葉に呼応するように、周囲の人々からの痛いほどの視線に気付いた絵梨花は逃げるようにその場を離れた。
「別にそこをどくようにとまでは行ってないんだが」
小さく呟いた悟志は近くにいた年配の男性二人に席を譲った。
「どうぞ座ってください」
「ありがとうございます」
二人の男性は一言礼を言って席に座るが、その動きはどこかぎこちなくとても座りにくそうだった。
事件はその後に起きた。
つづく
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