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【冒頭試し読み】脳科学者とマーケターが教える『「欲しい!」はこうしてつくられる』

来週1/17(月)に発売する『「欲しい!」はこうしてつくられる――脳科学者とマーケターが教える「買い物」の心理』から冒頭を紹介します。

普段の買い物やネットショッピング、SNSにいたるまで、みなさんの身の回りには企業がつくりだす心理学的な戦略が潜んでいます。それは人の盲点を突いた〈見えない〉罠のように、あなたを「欲しい!」という気持ちに誘導させています。

本書は脳科学のスペシャリストであるマット・ジョンソンと世界的企業で活躍するマーケターのプリンス・ギューマンがタッグを組み、消費者の「欲しい!」の仕組みを12の章から解き明かしたものとなります。

「買い物をする側」である消費者のみならず、消費者の心理や行動を知りたい「売り込む側」であるマーケターにもおすすめの一冊です。

「欲しい!」はこうしてつくられる目次01

「欲しい!」はこうしてつくられる目次02

0234「欲しい!」はこうしてつくられる_表1帯あり

はじめに 目に見えないものを見る力

 2010年に行われた一連の実験を通じて、科学の世界が打ちのめされた。実験に参加したT・Nという名の男性が、箱やタンス、椅子などが散乱している廊下を、それらに一切触れることなく20メートルほど歩ききったのだ。そんなのは簡単だと思うだろう。だがそれが、法律上は盲人とされる人が成し遂げたことだとしたら? T・Nは、脳科学者が呼ぶところの「盲視」という実に珍しい現象を有する人だった。
 盲視の人は、物理的には何も見えないにもかかわらず視覚情報を処理できる。コンピューターの前に座らせて画面上にいくつかの点を点滅させても(これは実際に実験で行われた)、彼らは画面も点も見えないと言う。だが本当に目の前にあると辛抱強く言い聞かせ、点滅するタイミングを推測してみないかと冗談めかしてすすめると、その「推測」は驚くほど正確だ。
 なぜそんなことができるのか?
 実は、脳内で行われる視覚情報の処理は複雑で、複数の領域で複数の手順がとられる。盲目の原因のほとんどは、目の損傷や機能障害(要は、視覚情報が最初から脳に入らない状態になること)によるものだが、T・Nのように脳のどこかに損傷を負って盲目になる人もいる。その場合、目を通じて入ってきた情報は、脳の損傷していない領域では滞りなく処理されるので、刺激(例:障害物のある場所を歩き回ること)を意識的に処理しなくても、反応をとることが可能になる。
 要するに、本人は受け取ったと気づかなくても、脳は情報を受け取っているのだ。
 このようなことが起こるのは、盲目の人だけに限らない。どんな人の脳●●●●●●も、本人が意識しないところでつねにさまざまな情報を受け取っている。盲視は、脳が視覚的な認知を生み出す過程を垣間見せてくれる興味深い現象だが、実はこの現象には、私たち消費者と消費の世界の関係も映し出されている。
 障害物が点在する通路を盲視の人が歩くと、障害物が目の前に現れるたびに、なぜかわからないが●●●●●●●●●左右どちらかに避けないといけない気持ちに突如として駆られる。その反応は本能的で、意識の外で生じる。私たち消費者も、こうした反応を通じて消費の世界を動き回っているのだ。
 消費者としての買うかどうかの決断は、実にさまざまなものに影響を受ける。そこら中で目にする広告、ウェブサイトに設置されている「購入する」ボタンの位置、パッケージのデザインなど、その多くは意識の外側から影響を及ぼす。特定のブランドの歯磨き剤を買いたいと思ったときに、そう思う理由を説明できるとは限らない。理由はわからないが、それを買いたいということだけはなぜかわかる。
 本書ではそうした疑問を解き明かし、消費の世界の裏側やその世界をデザインするコードを明らかにする。目に飛び込んでくるブランドのロゴ、ニュースフィードをスクロールしていて表示される広告、テレビから浴びせられるCM、毎日使っているアプリといったものは、消費の世界のいちばん外側の目に見える部分でしかない。一皮剝けば、脳の特異な構造を利用するために入念につくられた何かがあり、それが消費者に知られることも同意を得ることもなく影響を及ぼす。
 T・Nに見受けられる盲視は神経心理学的な状態の一種だが、本書では違うタイプの盲視をみなさんに授けたい。それは、消費の世界で目に見えないものが見えるようになる力だ。本書を通じて、看板広告に何が●●描かれているかだけでなく、そのイメージが脳にどのように●●●●●影響を及ぼすかを理解し、さらには、なぜ●●その看板が結局はあなたにその商品を買いたいと思わせうるのかを見破れるようになってもらいたい。

 思いどおりに消費の世界を飛び回れるようになるには

 本書では、神経科学にもとづいて消費の世界を見ていく。飛行機の操縦の仕方を学ぶようなものだと思ってほしい。飛行機はあなたの脳で、特定のルールや制約のなかで機能する複雑なマシーンだ。機体を取り巻く風は消費の世界で、そこではブランドやマーケティングが絶えず脳のメカニズムに働きかけて、消費者の思いや欲求を思いのままに引き寄せようとしている。
 そして飛行機に乗る人物はあなただ。いや、あなたの顕在意識と呼ぶほうが正しい。ここで一つ問題がある。あなたはパイロットか、それとも乗客なのか?
 どちらになるかは、機体と風に関する知識をどれだけ備えているかによる。パイロットはそうした知識を持ち合わせているから、行きたい場所へ安全にたどり着くことができる。それとは対照的に、乗客は機体や風のこと(脳と消費の世界のかかわり方)が何もわからないので、飛行機が向かう場所へ勝手に連れていかれてしまう。
 自分の飛行機を自分で操縦できるようになる、それが本書の目的だ。機体と風に関すること、つまりは脳の働きとマーケティングが脳に及ぼす影響について理解して、変化の激しい今日の消費の世界の風をうまく操れるようになってもらいたい。

 知識の溝を埋める

 それに、自らの消費者としてのふるまいを理解することは大切だ。ただ単に有益だというだけではなく、いますぐに学ぶことが絶対に必要だと筆者は考える。なぜ急ぐ必要があるのか?
 いまや、ブランドはあなた以上にあなた自身のことに詳しいからだ!
 脳と消費の世界の関係性を知りたいと思っているのはあなただけではない。クリックやスワイプをするほど、スマート機器に心拍が記録されるほど、ブランドはあなたに現金を使わせる方法によりいっそう詳しくなる。消費者とブランドの知識の差は、日増しに広がっているのだ。
 この本は、そうした状況を踏まえて誕生した。消費者であるあなたに、そして心理学とマーケティングのあいだに存在する愕然とするほど大きな知識のギャップを埋めたいと思っているすべての人に、ぜひとも本書を読んでもらいたい。
 これから12の章にわたって、脳と消費の世界の密接な関係を解き明かしていく。具体的には、記憶と体験、快と不快、感情と論理、知覚と現実、注意、意思決定、依存、新鮮味、好ましさ、共感、コミュニケーション、ストーリー、サブリミナル効果を神経科学的な観点から考察し、マーケティングにどう関係するかを見ていく。
 脳の働きを知り、ブランドが脳をどう攻略するかを学んでいくわけだが、いざ学んでみると、意外にも自分自身のことが以前よりもはっきりと見えるようになる。消費者としてのふるまいに映し出される自分の心理がよくわかるようになるのだ。
 パイロットになるには、風と飛行機の両方に詳しくなる必要がある。つまり、消費の世界で新しいタイプの盲視の力を手にしたいなら、マーケティングと脳の両方に詳しくならねばならないということだ。だから本書は執筆者が二人いる。神経科学者のマット・ジョンソンと、マーケターのプリンス・ギューマン。この二人の経験を組み合わせることで、目に見えない消費の科学の世界を垣間見るという貴重な機会を提供したい。
 それでは映画『マトリックス』のネオよろしく、ウサギの穴の底がどこまで深いかをともに見ていくとしよう。
 目に見えないものが見える世界へようこそ。

『「欲しい!」はこうしてつくられる』紹介ページ

■著訳者紹介

マット・ジョンソン
脳科学者。ハルト・インターナショナル・ビジネススクール教授。作家、研究者、講演家としても活動する。プリンストン大学で認知心理学の博士号を取得。現在は、神経科学の視点から消費者体験や意思決定の理解を深めることを中心に研究を行っている。

プリンス・ギューマン
マーケター。ハルト・インターナショナル・ビジネススクール教授。専門はニューロマーケティング。マット・ジョンソンとともにウェブサイト「ポップニューロ」を創設し、科学にもとづく消費者の理解の周知やニューロマーケティングの倫理的な活用を推進している。

花塚 恵(はなつか・めぐみ)
翻訳家。福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。英語講師、企業内翻訳者を経て現職。主な訳書に『LEADER'S LANGUAGE』(東洋経済新報社)、『天才科学者はこう考える』(ダイヤモンド社)、『これからの生き方と働き方』(かんき出版)、『苦手な人を思い通りに動かす』(日経BP)などがある。

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