今年(も)仕事でもっともお世話になった三冊
前説のような言い訳
たぶん誰も気づいてもいないと思うし、気づいたところで何も困ることはないのだが、ここ2週間ほど月曜のnote更新が滞ってしまった。
わたしにとって月曜のnoteは最初、求人広告制作にまつわるエトセトラでスタートし、精神論8割テクニック論1割与太話1割という感じで連載が続いていた。しかしさすがに求人広告に絞り込むのには限界がきて、仕事全般に関するテーマでお送りするようになった。
この、テーマをひろげたのがいけなかった。
ネタがなくなったからといってむやみやたらに広げると、かえって何を書くかがぼやける。そんなことはわかっていたはずなのに、ついやってしまったのですね。
おそらくわたしが求人広告に打ち込んでいた職場にはビジネスネタがザクザク埋まっているから書くことに困らないだろう、という発想から「仕事」なんていう解像度の低いテーマに飛びついてしまったのだろう。反省。
だからといって求人広告制作に戻るわけではありません。12月からは「書く仕事」にテーマを移して書いていこうと思います。
ただの「仕事」と「書く仕事」はたった二文字の追加だけれど、グッとスコープが絞られたというかピントがあうというか。それだけの違いですが筆が急に進みはじめるのであります。
みなさん、noteを書こうにも何を書いたらいいかわからない場合、あるいは書き始めたけど途中で挫折するみたいな場合、ぜひ一度テーマ決めと真剣に向き合ってみてください。案外ゆるい感じで決めて走り始めたばっかりに息切れしてること、多いと思います。
以上。
で、終わることができたらこの◎ソ忙しい師走もどれだけラクなことでしょう。
と、いうことで今回は今年(あるいは今年も)仕事でお世話になった本を紹介します。
タイトルを書いたときに「あれ?」と違和感を覚えたのが「仕事でもっともお世話になった」のに「三冊」と言っていること。もっともなら一冊だろう。もっともの存在が軽すぎるんじゃないか、俺の中で。そんなことでいいのか。と考えるきっかけになったので、あえてそのまま残しています。「こいつ日本語できねえじゃんていねいな文章大全とか読んでるくせにプゲラ」とか思われないためのエクスキューズでした。
長い枕を抱えて眠る
今回ご紹介する三冊は、主に短めのフレーズを考える際に有効であった。逆にいえばインタビューやサイトのライティングなどにはあまり向いていないかもしれない。わたしが使いこなせていないだけかも知れないが。
特に効能があったのが企業のミッション、ビジョン、バリューにおけるワーディング。そしてもうひとつ、ブランディング目的のタグライン作成である。ネーミングなども含んでいいだろう。
いずれもできるだけ端的に、簡潔に、短めの文章で作成されることが望ましい。なぜならこれからの言葉はある一定のポータブル性が求められるからだ。ポータブル、つまり携帯可能ということは覚えられるという条件を伴う。
覚えるためには短さや簡潔さのほかに、フックが必要である。覚えようとして覚えるのではなく、ごく自然に記憶する。あるいは日々使っているうちに脳に刷り込まれる。そこに平凡な言い回しは似合わない。ほんの少し、引っかかりのある言葉であることが望ましい。
とはいえ広告のキャッチコピーとは異なり、コミュニケーションのスタートはマイナスではない。もちろんその企業や商品に嫌悪感を覚えている人にとってはマイナスだが、いずれにしてもそのような属性の人はその企業や商品から離脱していって構わないからカウントしないに限る。全ての人に好かれようとすると全ての人に嫌われる、とかの仲畑師も言う。
今年の初夏から冬にかけて、3つの企業のインナーブランディング、社名変更、タグライン作成に携わった。インナーブランディングにおいては年度方針というかなり踏み込んだジャンルである。プロダクトのタグラインは2社依頼を受け、1社は残念ながらわたしの力不足で頓挫したがもう1社は現在も継続中である。
そのような仕事に取り組む時、わたしはいつもこの三冊を指針として仰いできた。そして数々の評価に値するフレーズが生まれた。
わたしは広告畑出身だけに裏方、黒子に徹するべしという哲学を持っており、ここで声高に「これ俺の!」と社名を出したり商品名を出すことを是としない。なので評価はあくまで関係者の主観なのだが、自信を持っていいとは思っている。
ではさっそく(いつもながら本題までが長くてごめんなさい)紹介していきましょう。
まずは心技体でいえば心といえるこちら!
『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』
原野守弘著 クロスメディア・パブリッシング発行
はじめて池袋のジュンク堂で手にしてからもう何度ページをめくったかわからない。「自分はクリエイティブではない。そう思う人にこそ、読んで欲しい。」とは帯のコピーだが、まさにわたしはクリエイティブではないので、読んだわけだ。
この本から何が学べるか、というと、ちょっと気恥ずかしいが勇気だと思う。
この手の仕事をしていると、つい長いものに巻かれてしまったり、変に時流などを考慮したり、いわゆるウケを狙ってしまうことは少なからずあると思う。しかしこの本はそれをよしとしない。あくまで個人の、個人的な「好き」に従え、とあるのだ。
曰く創造の3ステップとして「好きになる」「好きを盗む」「好きを返す」と定義。「好きが世界を動かす」とまで提言しているのである。具体的にはぜひ本書をあたってほしいのでここでは伏せるが、わたしは作業に入る前に必ず一読し、制作プロセス、とくにフレーズを冷却する期間に再度読み返し、そしてフィニッシュの直前にも読む。
自分がつくったフレーズにいまひとつ自信がないときもページを開く。そして自信と勇気をもらうこともあれば、白紙に戻してゼロから作り直すこともある。
そういうきっかけをくれるこの本は、全てのクリエイターが必ずとおらなければならない必読の書であり、企業の広報や宣伝担当者は自分がその職に適性があるかどうかを測る踏み絵として手にすべきだだろう。少なくとも会話の中でこの本を読んだことがあるか、どうかはわたしの人を見るひとつの基準となっていることは確かだ。
『伝え方』
松永光弘著 クロスメディア・パブリッシング発行
さきほどの『ビジネスパーソン…』が心だとしたらこちらは体にあたるだろう。
今年出版されたばかりのこの『伝え方』という本がわたしの仕事に与えた影響は計り知れない。作者の松永さんは豊富なキャリアの大半を広告コミュニケーションの領域で過ごしてきた第一人者。実際にわたしが駆け出し時代から読んできた広告本の半分は松永さんの手によるものであり、ポスト天野祐吉の呼び声も高い。
この本では「伝えるべきこと」の重要性についてさまざまな角度から解説し、「伝える」の本質は<メッセージ>にある、と説きます。そして物事の魅力は「よさ」と「わけ」で語られると紹介したのちに教えてくれるのは『メッセージの要素メモ』です。
これ、わたしのような(?)仕事をしている人はぜひ使ってみてほしいです。騙されたと思って作って、使ってみてください。びっくりするぐらい芯を喰ったメッセージの核が作れます。
もちろん最初からするすると答えは出てきません。そもそもの「困りごと」が見つからないばかりか、間違っているケースもあります(それは本当の課題だろうか)。
しかし大切なのはねばり強く考え続けること、と松永さん。すぐに先に進めなくても粘り強く考え、行き詰まったら最初からやりなおす。そうした思考を繰り返すことでやがて答えにたどり着くのです。
もちろんそのたどり着いた正解も唯一のものでなく、たくさんある回答のうちのひとつに過ぎません。だけど、だからわたしはこの仕事が好きなんです。
ちょっと話はそれましたが、この『メッセージの要素メモ』こそコンセプトメイクに最適なツールであることは間違いありません。
それにしても三冊中二冊がクロスメディア・パブリッシング発行でインプレス発売とは。クロスメディア・パブリッシングやインプレスから何か金子のようなものや便宜を図ってもらったわけでもないのに、つくづく縁があるというか、良書が多いということか。
『心をつかむ超言葉術』
阿部広太郎著 ダイヤモンド社発行
最後の一冊はまさに言葉を磨き上げる、フィニッシュワークに有益な書。心技体でいうと技だろう。三冊のうち最も古く(といっても2020年)わたしも最も利用している本だ。
本書の紹介の前に、故・岩崎俊一さんの言葉から一部を引用したい。
うまいこと言え。という文章だ。
阿部さんのこの本にも岩崎さんのエッセンスが詰まっているように思えてならない。言葉の力に魅せられ、言葉に救われ、言葉を愛する阿部さんがいかに言葉を大事にしているかがページをめくる度にわかる。
そして、いちいち頷きながら、わたしが最も愛用している「企画の思考フレーム」にたどり着くのだ。言葉に矢印を込めよう、という章で阿部さんは実に具体的に企画の思考フレームを紹介してくれる。
企画は自分の「経験」から「本質」を見つけ出し、そこから生まれる。そしてそれは3つの接続詞を使うことで劇的に考えやすくなるという。
「そもそも」と「たとえば」と「つまり」。
まず「そもそも」で問いを立てる。そもそもそれは何なのか。わたしはここに『メッセージの要素メモ』から生まれたコンセプトを当てはめる。これは脳が喜ぶ体験ができるから、ぜひおすすめしたい。そんなこと、わかりきってるじゃ…と思いつつ以外と見落としていたり考えきれていないことが出てくる。
疑問を持つことで見過ごしていた前提が浮き彫りになる、と阿部さんも語る。
そして「たとえば」で発想を広げる。「そもそも」で出てきた本質前提のようなものに対してたとえばこういうこともいえるよな、と、どんどんバリエーションが増やせる。
最後に「つまり」何だ!と広げた円から覚悟を決めて絞り込む。ここはまさしくフィニッシュである。この過程を経てメッセージがもともとの言葉を離れて自分らしい言葉に変換される。まさに『ビジネスパーソン…』に書かれていた「好き」に紐付けられるのである。
本ではこれを「企画」のためのフレームとしているが、わたしは超解釈して「言葉」づくりに活用している。大丈夫だ。優れた企画は優れた言葉でもあるからだ。
某社でいまも愛され、利用されている行動指針はここから生まれた。そのプレゼンを聞いた役員はこれまで受けた電通や博報堂のどのプレゼンよりも感動した、と言ってくれた。
そうです、わたしは「博通」ですから、と答えてリモート越しに参加者全員が笑ったとき、この仕事はいい仕事になると確信できた。
と、いうわけで今回はわたしがどんな書籍を参考にしてコピーを書いているか、について種明かしをした。
仕事をしていてよく聞かれるのが、どうやったらそういう発想になるんですか、ということだが、おそらくわたしの発想などたいしたことはない。たいしたことはないが、それもこれら偉人たちの知恵を借りることでそこそこお金に換えられるものには磨けるのだ。
そしてこの三冊から学べることはまだまだたくさんある。これからも骨の髄までしゃぶりつくそうと思う。そう考えると1冊たかが1500円前後というのは投資としては安すぎるのではないか。
そして、そのことを思うがあまり今月も請求書の金額の0をひとつ減らしてしまうわたしであった。
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