納豆が飛んだ日
ぼく、18で上京するまで、納豆って食べたことなかったんですね。そもそも納豆自体をしらなかった。甘納豆というものがあることは認識していたんですが、いわゆるごはんのおかずとしての納豆については一切の知見を持っていませんでした。
そのせいか、東京ではじめて納豆を目にしたとき、あ、これは名古屋にはないたべものですねという発言をしていました。何年か経って帰省したとき、地元のスーパーで納豆を発見したときは「なぜこれらは18年ものあいだ、オレの前に姿を表さなかったのか…」と愕然としたぐらい。
ま、そんなかんじなので、マイファースト納豆は東京でできた友だちの家(実家)に泊まりに行き、翌朝、そのご家庭の朝食をご一緒する運びとなったときでした。コピー学校で最初に仲良くなった友人は市川に住んでいて、その彼の高校時代の友人も交えて御徒町でさんざん酒を飲んだのち、ウチにおいでよということになりお邪魔したわけです。
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当然、人生初市川。人生初総武線。黄色い電車にのって、どこまでいくんだこれ、とやや不安になったことを覚えています。友人宅は市川駅から歩いて15分ぐらいの住宅街にありました。その夜は家にあったウイスキーやらブランデーやらを勝手にいただいて、3時頃に寝たのかな。翌朝、といっても10時近かったんですが、朝飯くおうぜ、と起こされました。
ダイニングにいくと、友人のお父さんとお母さんがニコニコしながらよく来てくれた、よくうちの友達になってくれた、名古屋からひとりで上京してひとりで暮らしてコピーライターになろうとしているなんて見上げた根性だ、どうかこれからもせがれをよろしく的な全面的圧倒的絶賛で迎えてくれました。そしてさあ朝ごはんだ君はどうせふだんろくなものを食べていないのだろうからどんどん食ってくれ、おかわりもあるよ遠慮しないでさあどうぞどうぞとこれまた有無を言わさぬ勢いで朝食をふるまってくれたのです。
ありがとうございます!ぼく、ほんとうに東京来てからろくなもの食ってないんで、ほんとうにありがとうございます。うれしいです。こういう家庭の味に飢えているので、ほんとうにありがたいです。うわあ、おみそしるおいしいなあ。実家のおばあちゃんのお味噌汁をおもいだすなあ。などと、かなり大げさによろこんだぼく。
事件はそのときおきました。
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これなんですか?
それはね、納豆と言うんだよ。え?君知らないの?こうしてタレをかけてだね、まぜまぜしてほら、ごはんにのせてほーら、おいしいんだよ。納豆を知らないって、おいかあさん、名古屋には納豆はないのかな。あらあなた、そういうことだってあるかもですよ。
はい、名古屋には納豆はありません。これはこちらのほうの料理なんですね。
君、納豆は料理じゃないよ。ほら、ささ、食べてご覧。わたしがやったようにまぜまぜして。
そしてぼくは、ひと口納豆をほうばって、悶絶したのでありました。
なんじゃこりゃ。まっず!!!そこまでせっかく如才なくこなしてきた社交をすべてうっちゃって、地のぼくがでてきてしまったのです。
おい、何だよこの腐ったの!こんなもん食わせんなよ!おい!!なにがまぜまぜだよざけんなよ!ぶっ○すぞ!(自主規制)みたいな暴言を名古屋弁でまくしたてました。
それが、マイファースト東京の友達との別離であり、マイファースト納豆の苦い思い出なのであります。
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それから7年。
居酒屋の兄ちゃんとしてアルバイトしていたお店の名物料理に『納豆の唐揚げ』というものがありました。ぼくは18のときの事件(市川事件と命名)を境に納豆をひたすら避ける人生を歩んでいたのですが、お店のメニューである以上仕方がありません。食べなきゃいいんだよ食べなきゃ。
ある日、厨房のコンロ前担当が「まかない作ってやるよ、鳥からがいい?なっから(納豆の唐揚げ)がいい?」と聞きます。ぼくは「なっか」の時点でかぶせるように「鳥からでお願いします」と頼みます。するとコンロ前は「ん?お前そういえば納豆ダメだっけ?一回でいいからオレのなっから食ってみ」などと恐ろしいことほざきます。
それどころかそのやりとりを見ていた花板が「おお、ヨネ(ぼくのあだな)食ってみろ。なっから食って納豆嫌いが治ったバイトも過去いっぺえいたんだから」とあおります。ぼくはいや別に納豆嫌いを克服したいともおもわないです。と断ったのですが…板前さんたちはがんこです。ぼくはしぶしぶ、納豆の唐揚げを食べることになってしまいました。
ぷーん、と香ばしく臭う納豆の匂い。おえー。臭いです。食べたくないです。横をみると板前軍団がニヤニヤしています。いいや、一口だけ食ってまずかったら暴れてこんな店ヤメてやる。ぼくは覚悟しました。少しでも味をごまかしたくて、辛子じょうゆをたっぷりつけて、一口。
「なんだ、この旨いのは…!?」
それからです。ぼくの好きな食べ物に納豆が加わったのは。いまは思います。なぜもっと早く納豆と向き合わなかったのか。それはもう、後悔に近い。
そんな、ぼくの人生を360度変えてくれた、西池袋萬屋松風の納豆の唐揚げのレシピはこちらです!
【納豆の唐揚げ】(材料/5人前)
・豆腐(もめん)…4丁
・納豆…4パック
・長ねぎ…2本
・玉ねぎ…1玉
・卵…2個
・桜えび…適量
・片栗粉…適量
・塩…思い切りよく
<タレ>
・辛子…適量
・醤油…適量
①豆腐4丁は重しをして冷蔵庫へ。ひと晩寝かせて水を切ります。
②納豆2パックを包丁で叩きます。
③長ねぎ、玉ねぎは薄切りにします。
④大きめのボウルに①②③と叩いていない納豆2パック、卵を入れてかきまぜます。おおきくざっくりとかきまぜます。
⑤④のボウルに片栗粉を入れ、少しまぜます。固まらない程度で桜えびと塩を投入します。そこからまたまぜます。塩は結構思い切りよく入れます。
⑥菜箸でつまんで形ができる程度まで片栗粉を入れながら調整してください。ここまでできたらタネの完成です。
⑦180度のサラダ油(白絞油であればベター)で3分揚げて完成。
⑧醤油に辛子を入れてかきまぜます。
⑨揚げたての納豆の唐揚げを辛子醤油でいただきます。
どうです?意外とカンタンでしょう?味が決まらない、どうもバランスが悪いときは塩を入れるタイミングで化学調味料を加えてみてもいいかもです。こちらも塩同様、思い切りよく投入するのがコツです。
ポイントは豆腐の水切りです。これが上手くできていないと、当然ですが油に落としたときにバチバチはぜます。重しを載せただけで水気が切りきれていないようなときは、電子レンジで5分ほど解凍モードにするのもいいでしょう。
できあがったら、ぜひご家庭でもキッチンペーパーを3つ折りにしてその上に3つぐらい載せて、三つ葉を添えてみて。最後にかるく青のりをふりかけると香りもいいかんじになりますよ。
ぜひ、ご家庭でもお試しください。納豆嫌いのお子様もきっと大喜びで食べてくれるはずです!(あれ?なんでこんな記事書いてんだオレ)
教訓:食わず嫌いはいけませんな。食べ物も、仕事も。
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