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取材の心技体・「心」編…効率の悪い取材からはじめよう

取材は好きですか?
ぼくは大好きです。

いい取材、得るものが多い取材、刺激を受けた取材が出来た日には、速攻で会社に戻ってみんなを集めて熱く語りたくなるタイプです。っていうかよく語ってた。メンバーには大変迷惑をおかけしたとおもいます。

世の中にはいろんな取材がありますが、こと求人広告の取材となると、やたらフォーマット化というか『取材シート』なるものを作成し、誰もが均一の情報を収集できるようにしたがるんですよ。ビジネスサイドの人たちって。

理由は簡単で、そのほうがあらゆる面で効率がいいから。1年目でも5年目でも同じ品質の取材ができたほうがいい。取材の得意不得意関係なく、粒が揃ったほうが生産性が上がる。教育コストも最小限で押さえられる。

経済合理性で考えたら、絶対取材シートを使うべきなんです。

ところがこの取材シート、上手く運用できたためしがありません。もちろんぼくの知る限りなので業界の雄であるリクルートさんやマイナビさん、パーソルさんでは導入成功しているかもしれません。しかし、各社のクリエイターに聞いてみてもだいたい答えはおなじ。

「取材シート?ありますよ。でもあんま使ってないなあ。少なくとも私は使いません(ドヤア」

なぜドヤ顔で返答するのか、はひとまず置いておくとして、なぜ取材シートの運用が上手くいかないのか。その理由はみっつあると踏んでいます。

ひとつは聞くことが作業になるから。ひとつは網羅性に限界があるから。そしてなにより、取材が楽しくならないから。これがいちばん大きいのではないでしょうか。シートでは取材のことを好きにならないし、なれない。

当たり前です。人間は単純作業になればなるほど、その作業自体を見くびります。軽視します。取材を一枚のシートでインスタントに進めようと考えることは、求人広告づくりで最も重要な取材のことを軽んじることになる。これは営業でも制作でもおなじです。

考える行為を捨てて、そこにある通りに情報を聞き、書き込むだけ。そんな作業を誰が楽しいと思えるか。大事なのは、聞き、考え、感じること。自分の中の好奇心を発動させることにほかならないのに。

と、いうことで、取材にもっとも大切なのは好奇心です。いかに取材が楽しく、その取材からクリエイティブが立ち上がる過程が胸躍るものか。誰がやっても同じ結果になる取材シートからは何も生まれないのですね。

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ついでにいうと、対象物を好きになることも欠かせません。これには限度があり、好きになりすぎると盲目化して結果よくないのですが…ある程度冷静に、好きになること。そうですね、イメージとしては「俺はこの募集のターゲットではないが、もしターゲットだったら絶対入社したいな」と思えるレベル。これぐらいがちょうどいい。

そのために有効なのが共感力なのですが、誤解を恐れずにいうとこの力、男性よりも女性のほうが豊かに持っていることがわりと多いみたいです。そのせいで不慣れなうちはコントロールが効かず、先ほど書いた“恋は盲目化”を招いたりして。

盲目化するとどうなるか…これはもう、わかりやすいぐらいターゲット不在の広告ができあがることになります。主観100%。取材をして、その会社のことを好きになった自分の気分でコピーを書いてしまうんです。

往々にしてその手のコピーは顧客礼賛一辺倒。当然のことながらクライアントは大喜び。褒められるもんだから営業もご満悦。入稿、掲載までハッピーな時間が過ごせます。

そして訪れる、掲載後応募ゼロの日々。これはつらい。それで凹む駆け出しコピー女子をぼくは何人も見てきました。毎回だいたい同じパターンなので、そのうち取材の話を聞くだけでわかるようになります。あ、こりゃやばいな、と。

そういうとき、ぼくはいつも「ちゃんとターゲットのことを考えろよ」としかいいません。そのいいつけを守れればよし。もし守れなくて失敗してしまったら、それはそれで彼女にとっていい薬になるからです。冷たい?そうかな。自分で痛い目に遭わないとわからないことってあると思うんですよね。

だから共感力と同じぐらい大切なのが客観性です。客観視すること。ぐわっと相手に入り込みつつも、どこかでブレーキをかける。待てよ、と感情をストップさせる。いまわたしがいいな、とおもっているこの話、果たしてターゲットにとっても刺さるのかな?あるいはこのネタってターゲットにとって一般的なメリットなのかな?

言葉を選ばずにいうと、常に疑いの目を持って取材対象に向き合う。というと精神分裂症みたいですが、右脳と左脳をバランスよく使うことが実はとても重要なんですね。

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そして最後にもうひとつ大事なのがいわゆる撮れ高が取れるまで粘る、ということ。撮れ高って言葉はテレビ業界でよくつかわれるもので、うまく使える構図や絵がいかに撮れたかの度合いを指します。ぼくがいう撮れ高は「広告表現の素となるアイデアがつかめたかどうか」という意味です。

商品広告や企業広告、インナーブランディングなどの場合はオリエンがそれにあたります。求人広告の場合はオリエンではなく取材です。この場でどこまで情報をたくさん拾えるか、そしてその中から有益なネタを絞り込み、大まかな表現アイデアまで昇華できるか。

ぼくは現場で仕事しているとき、必ずここまでの工程を客先で終わらせるように心がけていました。万が一、撮れ高がとれなかったとしても、デスクに帰ってから考えるために十分な量の情報を確保していました。

取材で撮れ高、つまりいいアイデアが見つかったら、それはもうルンルンでオフィスに戻ります。なんならそのまま一杯やっていくか、ぐらいのノリで(もちろんそんなラクな会社ではありませんでした)。

一方、アイデアが見つからない状態で帰路につく場合は、もうなんだかどんより。わけもなくメンバーに八つ当たりしたりして。ごめんなさい。

それぐらい、取材の出来不出来って重要。求人広告に限らず、インタビュー記事でも、商品広告でも、ブランディングにおいても最終的なアウトプットのクオリティを左右するものなのです。

そう考えると、そりゃシート一枚渡して「取材行ってこい!」でうまいことまとまるわけないですよね。ってここまで書いてふとおもったのですが、シートが悪いんじゃなくて、シートをつくればそれで解決する、という考えが間違っていたんじゃないかな。

よく「見える化すれば解決するよね」というミスターミエルカ氏がいますけど、ぜったい解決しないじゃないですか。それどころか事態はますますよくない方向にいくことのほうが多いですよね。それといっしょ。

要は、上流の部分、本質的なところにメスを入れていないから上手くいかないんですよね。最終的なところだけどれだけ見える化したって、その根っこで起きている問題がなにかわかっていなければ意味がない。

取材シートの件もおなじで、シート云々じゃなくて取材する人の姿勢みたいなものをきちんとインストールしないまま、シートというアプリだけリリースしてはいおしまいこれであんしんですねみんなバリバリ取材ができるようになりますねだってこのシートに沿って聞いてくればいいんだから…っていうね。

なので求人広告の制作に携わっているみなさん。安易にビジネスサイドの頭よさげな話にホイホイのっかって、大事なことを捨ててしまわないように気をつけましょうね。そういう例がホントに多くて頭が痛いんですけど。

まとめると、いい取材に必要な心構えは「好奇心」「共感力」「客観性」そして「粘り」。効率なんか捨てちまいましょう。効率の悪い取材からはじめましょう。いい求人広告はいい取材から。いい取材は効率の正反対にあるものです。

次回は取材心得の第二弾として、より具体的な技術について書いてみます。

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