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【月刊あんスパ通信】あんかけだけが名古屋のスパゲティじゃない

いや、もちろんそんなの当たり前です。

当たり前なんですが、あえてあんかけスパを強く推すところに名古屋出身もうすぐ53歳のおっさんのレーゾンデートルちゅうもんがやね、

あるわけやけどね。

実はもうひとつだけ、見逃せない、見逃してはいけないスパゲティがあるんです。

それは…

鉄板ナポリタン


であります。ご存知でしょうか。いまひとつマイナーな存在だけに「知らん」という声も多いのではないかと危惧しておる次第であります。

鉄板ナポリタンとは、ステーキ用の鉄皿に玉子が敷いてあり、その上にナポリタンが乗っているという料理。名古屋では昔からデフォルトです。逆にこれ以外のナポリタンが出てくると「なにこのお店、いきっとるねえ」と嫌味をいわれます。

いきっとる、とは名古屋で「カッコつけている」「調子にのっている」という意味の言葉。ぼくが中学生のころケンカのはじまりはきまって「おまえなにいきっとんだ、おぉ!?」でした。

そんなことはどうでもいい。

ある日、いつものようにスタバで牛丼アタマの大盛りツユダクを啜りながらTwitterを眺めていると、前回の通信でも取り上げたあんスパ特派員のkumiさんがこんな投稿をされているではないか。

最初に断っておきますがkumiさんは愛知県民でも名古屋市民でもございません。プライバシーの関係で詳細は避けますが確か産屋敷家があったあたり…いや、蝶屋敷跡地だったか。まあ、そんなかんじのファンタジーな場所にお住まいのはずです。たぶん。

そんなkumiさん、せんだってお勤め先近くのスーパーで、なんと、あんかけスパ(しかもよりによって寿がきや製)と遭遇なさいます。とうとうそこまであんスパの侵攻が進んでいるのかよしよし、とホクホク顔で秋の到来を待っていたぼくのところに飛び込んできたのが上の投稿ですよ。

今日のお昼はあんかけスパじゃないのか!?

しかも鉄板ナポリタンなのにパッケージには『鉄板イタリアン』って!なに?イタリアンって!ケチャップで炒めたヤツがナポリタンでしょ?イタリアンって…カレーかかってるヤツ?あれはインディアンか。

こうなるともう、文献に頼るしかないですね。わたしは書架からこの手の専門書として唯一無二の信頼を置く一冊の本を手にします。

もう9年も前の出版になりますがいまだ色褪せることなくわたしの書棚で輝いています。大竹敏之さんによる『名古屋メン』です。

同書によると鉄板スパゲティは名古屋市東区の老舗喫茶店喫茶ユキが発祥。昭和36年にマスターの清さんが同業者とともに訪れたイタリアで初めて本場のスパゲティを食べて「でらうまいがや!ほんでも食べとるうちに冷めてまうがや」と思ったのがきっかけだそうです。

帰国後、清さんはそんな不満を解消するために、ハンバーグや焼肉を出す時に使っていた鉄板皿に着目。玉子を敷くのは麺が焦げついてしまわないようにするためのアイデアだった。ネーミングの理由は“イタリアで思いついたからイタリアン”というシンプルなものだった。ちなみに名古屋でイタリアンと呼ばれているケチャップ味のスパゲティは、一般的にはナポリタンと呼ばれる。ただし、イタリアンもナポリタンも、イタリアにはない日本生まれのパスタ料理である。(『名古屋メン』大竹敏之著/リベラル社発行より) 

なるほど!ナポリタンを玉子を敷いた鉄板の上に載せるとその時点でイタリアンになる、というわけなんですね。いやあ勉強になります。53歳にもなろうというのに、まだまだ知らないことが世の中にはたくさんある。

そんな学びのきっかけをくれたkumiさんですが、なんと後日、鉄板イタリアンのつくレポ一式をnoteの下書きで送ってくれました!なんという人格者…あんスパ特派員の鏡です。抜粋なんてもったいないので、できるだけまるごと紹介しますね。引用箇所はkumiさんオリジナルテキストです。

【ご用意していただく材料】
 ■水・油
 ■おすすめ具材
   玉ねぎ・ピーマン・ウインナー
 ■お好みで
   溶き卵
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なるほど。お水と油だけで作れるのか。一応玉ねぎとピーマン、赤いウインナー、それから冷蔵庫の中で忘れられていたベーコンとパプリカの残りも入れちゃう。しかしこれ、麺の入る余地あるかしら。

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す、すごい!kumiさん、もうこの時点でなんか美味そうなもんができていませんか?塩コショウしたら立派なビールのつまみに…

この具材をしばし炒めるといい感じになってきて、そこにすかさず袋入りの麺を投入します。

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あぁ、コレは確かにソフト麺。太くってやわらかい懐かしの給食メニューのやつ。ここに麺ほぐし用のお水を入れるって書いてあるけどポットのお湯にしちゃえ。焼きそばの時もお水よりお湯の方がほぐれるの早いような気がするし。気のせいかしら。

確かにまごうことなきソフト麺ですね。給食でこれが出た、と懐かしい思いをするのはある一定の年代以上でしょう(遠い目)

kumiさんはここに同封の謎の液体ソース『C555』を投入します。謎といいつつパッケージには「南欧産完熟トマトペースト使用」と書かれていて…

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赤いな...

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こいつは思っていた以上に赤い。

想像以上の赤さに若干の焦りをみせるkumiさん。落ち着いてください。いくら赤いといったってこれは広島料理ではありません。名古屋めしです。名古屋といえば中日ドラゴンズ。ドラゴンズといえばブルーです。いまに青くなります。

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ならなかった。赤いまま。しかしなんかいい感じに完成してるじゃないですか!!!

で、問題の「溶き卵」である。
実は鉄板イタリアンを食べたことがない。イメージがいまひとつわかないのだ。名古屋ではないが、学生時代を愛知県で過ごしたうちの同居人曰く「完全に火は通ってなくて、テーブルに運ばれてきてから鉄板の予熱でだんだん火が入る感じ」らしい。ふむ。ソフト麺1玉に1玉子ってことで4個分にしよう。

実際に食べたことが無いにもかかわらず!同居人からの談話だけで!

みなさんこれはすごいことですよ。具体と抽象をいったりきたりしながら頭の中のイメージをきっちり形にしているわけですからね。

フライパンから溢れそうな麺と具材を中央に寄せて山を作り、出来上がったスペースに溶き卵を流し込んでいく。だいぶ卵の量が多くてタプタプしているのでフタをして少し火が入りやすい状態から数分。

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あまりに素晴らしいので画像再掲。完成です。見事なまでの鉄板イタリアンのできあがりですよ。ウインナーはお得意のタコさん。卵もふんわりやわらかそうで

メチャクチャウマそうやんけ!!!


しかし、実際にkumiさんはひと口、ふた口程度しか召し上がっていないようです。

肝心のお味の方はと言いますと...どうやらとても美味しかった模様。なにしろ、作ってる最中に数本の麺を味見したものの、それ以上は私の口に入らず。あっという間に2袋4人前はきれいに完食!されていたのであります。...まぁ...残っちゃうより、よっぽどいいか。おかぁさんは冷凍ゴハンでもチンするよ。口の周りを赤くしているうちの小学生達を横目で眺めつつ、次は食べられちゃう前にちゃんと食べるぞ、と固く誓ったのであります。

なんという母の愛。自己犠牲というものを目の当たりにしました。あっという間にきれいに完食とのことですが、そりゃそうでしょう、めちゃくちゃ美味そうなんですから。

次回はぜひkumiさんご自身のぶんも確保した上で、ゆっくりとご賞味あれ。ご堪能あれ。君に幸せあれ。乾杯ですよ。

と、いうことで9月のあんスパ通信はその内容のほとんどをkumiさんからいただいたレシピで構成するというお前はなにをやっとんねん企画でお送りいたしました。kumiさん本当にありがとうございました。

いやほんと、名古屋でスパゲティといえばあんかけがイチ推しなんですが、どうしても忘れられない、人生ふたり目の恋人みたいな存在が鉄板イタリアンなのであります。

せっかくなので『名古屋メン』に載っている鉄板スパの銘店を紹介して終わります!

キャラバン……赤ワインのソースと生クリーム入りの卵が生み出す得も言われぬ甘みと旨味。創業は昭和57年です。地下鉄高丘駅から徒歩7分。東京のぼくの家からは2時間56分かかるそうです。

キッチンはせ家……ここのはナポリタンではなくてミートソースが鉄板の上に載っているんです。昭和38年から続く老舗中の老舗。地下鉄久屋大通から徒歩5分。ぼくの家からは2時間53分ですって。

せろり大須店……自家製の生パスタをつかったなんとも贅沢な一品。シェフの記憶の中での理想の味を追求したそうです。地下鉄上前津から徒歩10分。ぼくの家からだと2時間57分かかります。

ぼくの家(東京都江東区)よりも近い方、緊急事態宣言もあけたことですし、名古屋へお立ち寄りの際はぜひこれらのお店をのぞいてみてはいかがでしょうか?

SpecialThanks:kumi nakajima、「名古屋メン」大竹敏之(リベラル社)

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