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転職される側の気持ちを会得する

春ですね。といっても今日(4月4日)の東京の最高気温は11℃ということで、ここ数日の中でも特に肌寒いです。雨も降ってるし。

しかしまあ、春です。春といえば出会いの季節。同時に別れの季節でもあります。進学、就職、異動、転勤、そして転職。社会人にとっていまや特別なことでなくなった転職ですが、する側にスポットライトが当たることは多くても、される側が取り上げられることは意外と少ないようです。

転職される側。

特にチームや部署の責任者からすると、これは結構つらかったりする。辞めていく人が目にあまるほどの不適性の場合を別にすれば、基本的には悲しい出来事なわけです。

求人広告、特に転職情報を手掛けるクリエイターは、しかしこのプロセスを正しく経験しないことには本当の一人前にはなれません。メンバーに辞められて、はじめてわかることがある。そういう話をします。

それはいきなりやってくる

入社3年目のリーダー。取材・打ち合わせからコンセプトメイク、企画書作成、プレゼン、コピーワーク、ブラッシュアップとひと通りの仕事はマスターした。こっぴどい赤入れも経験した。苦い全訂も味わった。

ZDもあれば、3桁の応募数を獲得できたこともある。3名しかない応募からドンピシャの採用を実現したことも。社内のコンテストでも最優秀賞に輝いた。順風満帆とはいえないけど、悪くないキャリアの積み方。

こういう人はリーダーになりがちですよね。会社にもよりますが、1名~3名ぐらいのメンバーで構成されたチームを持つわけです。こうなると俄然、モチベーションが上がります。

メンバーの打ち合わせ同席やコピーチェックといった実務面での指導のほかに、職場での人間関係や営業との渡り合い方、果てはプライベートのお悩みまで実に甲斐甲斐しく面倒見るわけです。

そうして1年ほどが過ぎ、メンバーそれぞれに個人差はあれど、概ね成長してきているな、フンフンと鼻の穴を少し膨らませているといきなりやってくるものがあります。

それが【ご相談】という題名のメールです。

文面はいたってシンプル。「少しご相談したいことがあるのでお時間をいただけますでしょうか」のみ。だいたい月曜日の夕方が多いみたい。

古今東西

さまざまな相談に乗ってきたぼくですが、この手のメールをきっかけにはじまる相談が楽しい内容だった試しはありません。

もしこの相談が「ホンダN-ONEの6速ミッション、あれどう思います?買いですかね?」とか「ダブルストロークがいまいち上達しないんですよ。スティックどのあたり握ってます?」といった愉快なものならどれだけ素晴らしいか。

たいてい、200%この相談は「辞めたい」です。

そしてそれは「辞めたいのですがどう思いますか?」ではなく「辞めたいので辞めます以上」という確固たる意思を表明してくれる場であり、実のところ相談でもなんでもありません。

これはショックです。

特にはじめてチームを持った新米リーダーなら、まさに血の気が引くというか生きた心地がしないというか。なんらかの前触れ(急に泣き出す、もう10日も出社していない等)があれば別ですが、先週もみんなで飲みに行ってチームの未来について大いに語り、盛り上がったばっかじゃん。

まずはオロオロしちゃいますよね。そして「どどどど、どうして?」などと理由を尋ねますが、まず本当のことは語ってくれません。もし語ってくれるような信頼関係があるならもっと手前の時点で相談しているはずです。

こういう時にリーダーが

なすべきことは、差し支えない範囲で理由を聞いて、もし改善できることがあるなら改善する。万がいち改善の結果、残留する意志がありそうならそこまでのロードマップを引くことです。

ですがたいがい手遅れです。この時点でメンバーは転職先を決めていて、心躍るオファーに絡め取られています。ちょっとやそっとじゃ意思を翻してくれません。

そしてこういう時にやってはいけないのが給与の引き上げです(よほど薄給の場合を除く)。お金で釣ったメンバーは必ずお金で辞めていきます。給与を上げるのはあくまで実力や正当な評価によることを肝に銘じておくべきでしょう。

ですので、できることはとにかく話を聞くこと。そして、その話の中に自分たちで改善すべき点があるならきちんと受け止めること。そうじゃない内容ならそれはきちんと指摘すること。最後に、きちんとこの話がとても悲しいものだということを伝えるべきでしょう。

実際に、悲しむべきです。

せっかく手塩にかけて育ててきたメンバーです。どのような理由であれ、悲しいはず。

ここで悲しさのあまり、悲しいという感情に蓋をして、悪いのはメンバーである、というような原因のすり替えなどをしないようにしましょう。また他人事や組織のせいにして自分の心が傷つくのを避けるのもいかがなものかと思います。

しかしリーダー業に慣れると

あるいは役職がさらに上がると、あまりの離職者の多さに辟易し、感覚が麻痺してくることも。「またか…」みたいな捉え方をするようになります。そっちのほうが気が楽ですから、人情としてはよくわかります。

そのうち「2:6:2」の「2」は仕方ないよな、みたいな組織論を持ち出して納得しようとします。これもわかるんですが、あまりヘルシーではないなあ、と個人的には思います。

せっかく何らかの夢や希望、あるいは意欲を持って入社してきてくれた人がどのような理由にせよ辞めていくというのは、彼ら彼女らの夢や希望、あるいは意欲に応えられなかったわけです。入社時のミスマッチのせいにするのもいまさらジローです。

その事実については、いくら組織が上場しようが有名になろうが拡大しようが、しっかりと受け止めるべきではないか。そして人として悲しい感情を逃げずに抱くべきではないか。

そう思うのです。

間違っても「辞めて良かった」などと口にしてはいけません。結果として後日、本当に辞めたほうが良かったとしてもです。そのセリフは辞めた人が言うもので、辞められた人が言うべきではありません。

ちょっとびっくり

しているのですがあと残り500文字ぐらいしかないのであわてて結論のようなものを書きます。

何がいいたいかというと、求人広告をつくる者として知っておくべき痛みがある、ということです。それがメンバーに辞められる痛みです。

自分がつくった求人広告をきっかけに、求職者が幸せになる。そして求人企業の業績が上がり、日本経済に少なからずプラスの影響を及ぼす。これは事実ですし、この仕事の本質的な価値であることには変わりありません。

しかしその一方で社員に辞められる会社がある。辞められる組織がある。辞められるリーダーがいる。辞められる側には辞められる側の理由とか、よくない部分もあるのでしょう。しかしそのこととは別に、辞められる悲しさや痛みは存在するのです。

そのことに痛みも何も感じない会社や組織のことを、ぼくはブラック企業と呼びます。同時にその組織のリーダーはリーダー失格だと思います。

そのことをきちんと押さえて求人広告をつくる。

おそらくですが、つくるものが少しだけ、変わると思います。

コピーがほんのすこし、重いものになる。

そのとき、そのリーダーは一人前の求人広告クリエイターになるんじゃないでしょうか。

求人広告に育ててもらった人間として、この春、辞められる痛みのわかる、一人前の求人広告クリエイターが一人でも増えることを願っています。

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