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【広告本読書録:048】伝え方が9割

佐々木圭一 著 ダイヤモンド社 刊

あんまりハウツー本の類は手にしないのですが、そしてこの読書録でも紹介しないのですが、今回の『伝え方が9割』はものすごく売れていることと、続編や漫画版まで出ていることから、さすがにちょっと手にしてみようかなとおもった次第であります。

存在自体はずーっと前から知っていました。おそらく2~3回ぐらいはパラパラと立ち読みしたはずです。しかし、買うまでは至らなかった。

なぜでしょう。

それはおそらく、昔気質のボス、上司、先輩にこってりと教え込まれてきた鉄の掟『いかに言うかよりもなにを言うかが重要』が骨の髄まで染み付いているからだとおもいます。

しかし、このnote上での広告本読書録を通じて著者の佐々木圭一さんのことを知りました。あれは確か『名作コピーの時間』だったかな。

佐々木さんはこの本の中で「考えるな、感じろ」とか「死ぬことに意味を持つな、生きるんだ!」といったコピーではないフレーズを挙げていたんですね。それでなんとなく気になった。面白い切り口でコピーを選ぶんだなあ、とおもった。

そうしたら、プロフィール欄に『伝え方が9割』の著者、とあるじゃないですか。ぼくはがぜん気になって、本屋さんに足を運んだというわけです。

そう、『いかに言うかよりもなにを言うかが重要』という鉄の掟のことなんかすっかり忘れてね。

この本から学べること

結論から申し上げますと、この本は、山本高史さん著の『伝える本』のライトノベル版である、と言えるでしょう。『伝える本』は、それはそれでまたここで取り上げる予定なのですが…軽いほう先に紹介していいのかな。ま、いいか。

特に「ノーをイエスに変える7つの切り口」のところは、いわゆる相手が言ってほしいこと、ベネフィットを7つに分類して提示したもの。曰く…

①相手のすきなこと
②嫌いなこと回避
③選択の自由
④認められたい欲
⑤あなた限定
⑥チームワーク化
⑦感謝

とあります。相手の言ってほしいこと、とか、ベネフィット、と言われると抽象度が高くてもやっとしてしまう人も、こんなふうにラベリングされると腹落ちしやすいですよね。

もっといえば「ノーをイエスに変える3つのステップ」も山本さんの本に書いてあることの粒度を小さくしたものです。

ステップ1:自分の頭の中をそのままコトバにしない
ステップ2:相手の頭の中を想像する
ステップ3:相手のメリットと一致するお願いをつくる

ね、非常にわかりやすくまとめられています。

さらにこの他に「強いコトバを作る技術」としてサプライズ法、ギャップ法などのテクニックを紹介。一冊を通して“山本本の参考書”のような立ち位置をつらぬいているな、とぼくはかんじました。

コトバで悩む全ての人向け

もちろん作者の佐々木さんには“山本本の参考書”のつもりはありません。あくまでオリジナルな技術論です。ただ俯瞰してみると広告コピー的なものの作法や技術というのは、そうたくさんの流儀があるわけじゃないんだなと。

どうしても似たりよったりで、あとは教え方というか、肌合いが違うぐらいなのかもしれません。

だとするとやはりこの本は完全なビギナー向けといっていいでしょう。入門編としては最適かもしれません。それが何版も版を重ね、続編や漫画版が生まれる最大の理由だとおもいます。

駆け出しのコピーライター、またはちょっとコトバの扱いかたに悩んでいるような人に、山本さんの『伝える本』はちょっと難解。

一方でこの『伝え方が9割』は文字の大きさ、イラストなどの効果もあいまって、本当にあっという間に読み終えることができる。また、書かれている通りにやればある程度の効果は実感できるかもしれません。

しかしというか、だからでしょうかというか。読了したぼくは、なんとなく、もやもやとした読後感を抱いてしまったのです。

ぼくのもやもやの謎

もやもや、というと徳永英明さんを想起します。そう、あの恐ろしい病、もやもや病。

こわいよ、このwikiのサムネ。なんだこのゴケミドロみたいなイラストは。

それはさておき、ぼくが『伝え方が9割』を読んでかんじたもやもやは何なのか、ちょっと考えてみますね。確かにテクニック的はなるほどな、というものばかりだし、今日、すぐ使える点においてもすぐれてるなと。

ただ、どうしてもひっかかるのが以下のようなくだり。

まったくあなたに興味がない人がいたとして、その人をデートに誘うときのコトバ。
「デートしてください」⇒あなたのメリットでしかない。
「驚くほど旨いパスタどう?」⇒相手の好きなことをもとにつくり相手のメリットに変わった。

うん、でも、これ本質的な課題解決にはなってなくない?このひんぱんに例えとして出てくる「デートに誘うのNG、パスタといえばOK」でついてきた女の子は、当たり前ですがデートではなくパスタにOKしているわけで。

でも誘ってるほうはパスタなんかどうでもよくてデートしたいんですよね。誘うことはできたとしても、そっから先が何の解決にもつながらなくね?

そんなふうに思うんですよね。

「いやお前デートに誘えた時点で全然よくね?そっから先はお前の努力じゃね?」

そんな声も聞こえなくはないです。でも、なんか、よくないアフィリエイト広告見ているような気がするんだよね。本当に佐々木さんには失礼を承知で申し上げるとフェイクっていうか、あざといテクっていうか。

しかもそれが簡単に、誰でも、できるようになるという。こんだけ売れてる本なんだから、本当にみんながこのテクニックを駆使する世の中なのかもしれないね。そうしたらあっちでもこっちでも「パスタ行こうよ」は「デート行こうよ」の符丁になるし、さすがに手口バレちゃわね?

やっぱり「いかに言うか」より…

もちろん、この本はあくまでコトバや伝え方で悩むPUNPEE(本物のPUNPEEはコトバで悩むことはない)が対象なわけだから、これでいいのかもしれません。

本書にある通り「あなたが好き」では振り向いてもらえないから「くちびるがふるえるほど、あなたが好き」といえば、人生がちょっと豊かになるのかもしれない。

でもでも、でもですね。

なーんか、もやっとしちゃうんだなー。おれがおじさんだからかなー。

やっぱり「いかに言うかより何を言うか」が大事なんじゃないかな。確かに伝え方が9割なんだけど、だとしても、いやだとしたら残りの1割はしっかり中身を磨きあげないと本当の意味で人の心を動かすことにはならないんじゃないかなとおもったりしました。

や、もちろんそういう目的の本じゃない、といわれると返すことばもありません。だし、じゃあお前そんなにいいコピー書けてるのかといわれると、はい、すみません先に謝っちゃいます。

自分みたいな3流以下は佐々木さんのような賞を獲ったりもしていないですし、なんならこの本の通りにやって賞を獲ってから言えよ、って話だとおもいます。本当にごめんなさい。

ただ、これだけは確かに言えるのは、どうしようもない商品やサービス、組織を変えることなくコトバだけでなんかいいかんじに表現してよ、という依頼が相変わらずなくならないんですよ。

そこをブランディングで、ひとつ。みたいな発注。まずやんなきゃいけないのは商品なりサービスなり組織の課題の本質に迫って改善することからじゃないんですか?と言って失注することが少なくないんですよね。

ぼくは、それは、間違ってるんじゃないかなとおもうんですよね。

それは、決して伝え方が9割、じゃないとおもうんですよね。

……そんなふうにもやもやしていたところ、ぼくのあたまのなかの霞を吹き飛ばすTweetが今朝!!!

そうだよ!そうなんだよ!おもわずそんなふうにRTしてしまいました。

……ってことは、そもそも『伝え方は9割』は広告本として取り上げるべきではなかった?のか?そうなのかな。

釣り方を教えるのではなく、釣った魚をくれる本。それがこの『伝え方が9割』の正体だ、といったら語弊があるでしょうか。しかしそれが釣り方を教えてくれる『伝える本』の何十倍も売れているという事実。それがこの世の理なのかもね。

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