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求人広告制作者にとって「仕事観」はいらない?

昔ばなしで恐縮です。

いまから20年ぐらい前のこと。インターネット求人広告の媒体社に籍を置いていたのですが、その会社では年に4回『クリエイティブコンテスト』を運営していました。

クリエイティブコンテストとはクオーター内に掲載された全ての求人広告の中から特に優れたクリエイティブを讃え、表彰するというもの。全社員の投票により上位3作品が選ばれ、最優秀賞、優秀賞、入賞の三賞が与えられていました。

ある回で、たくさんの票を集めた広告がありました。

紙製品のルートセールスの募集です。4週間の掲載で応募が80名以上。クリエイティブも悪くありませんがそれ以上に非常に高い成果が出ていたことからエントリーされていた広告でした。

なにせ当時は弱小メディア。10名も応募が来たら万々歳という状況での80名応募は称賛に値します。

ぼくはクリエイティブ部門の責任者だったことから、開票作業の総元締めも行なっていました。

そこで目にした投票メールの文面に、目を疑うものがあった。

「ルートセールスなどという面白くもない、成長機会に乏しい職種にも関わらず、多くの応募数を獲得できている点がすばらしい」

送信者は横浜支社の営業責任者。成績好調につき若くしてポストを与えられたエースでした。

ぼくの在籍していた会社は当時、インターネット専業媒体として業界で急成長を遂げていました。求人広告媒体というビジネスモデル上、拡大再生産を一字一句違わずトレースする事業展開。前線で戦う営業マンの能力に全てがかかっています。

限界までボアアップされた営業力を、さらに底上げするために必要なのは、実はマインドのちから。テクニックでもスキルでもなく、折れない心、つまり根性論がモノを言う世界でした。

ゆえに自分たちの仕事の価値を身の丈以上に思わせるマネジメントが必要。後発だけに、知名度がないだけに、弱小ベンチャーだけに。こんな難しいことを俺たちはやっている。業界一位を狙っている。俺たちはすごい、俺たちは成長している、俺たちは、俺たちは…。

当然ながら営業マンたちの自意識は天を突き抜ける勢いです。形のない、無形サービスを新規開拓する。競合からリプレイスする。数字を上げたものが偉い。みな競うように深夜残業し、夜討ち朝駆けで営業します。そんな日々を誇りに思います。

そのことを否定する気はありません。ある局面においては必要なマインドセットだとおもいます。実際にぼくも自分たちがこしらえる求人広告が世界で一番すばらしいんだ、と部下を鼓舞する際には口にしていました。

そうでもしないとやってられないほど激烈な職場環境だったんですよね。

だから否定はしないんですが、一歩間違うと、大きく道を踏み外すことになりかねない。

それが、さきほどのような考え方に陥ることです。

「ルートセールスなどという面白くもない」

そういう君は、ルートセールスをやったことがあるのか?ルートセールスは面白くない、と誰かがいったことを鵜呑みにしているだけではないのか?ルートセールスの面白みという可能性を潰してしまっているのではないか。

「成長機会に乏しい職種」

ルートセールスは成長機会に乏しい。それはいったいどういう了見から生まれた結論なんだろうか。本当にそうなのか?かりに成長しないとしたらそれは職種属性のものなのか?働く人の個人的な問題ではないのか?

「にも関わらず多くの応募数を獲得」

仮にルートセールスが面白くもなく、成長機会に乏しい職種だったとする。裏を返せばラクな仕事ってことだ。なら応募が多くてもおかしくない。まさか世の中の人間が全員、自分と同様にハードワークで成長最高!を求めているとでも思っているのか?

■ ■ ■

そうなんです。自分たちがやっていることは正しい。自分たちはこんなにしんどくてもがんばっているから成長できている。最高に充実している。だからそれ以外の価値観は認められない。あるいはレベルの低いものである。

そういう思考回路になってしまいがちなんですね。特に若いうちは。

で、百歩譲って本当にスパルタンな営業現場で目から血を出しながら匍匐前進している人がそう思うのは仕方がないとする(最近はあの光ってるド営業会社でもかなりマイルドになっていると聞きますが)。

しかし間違っても広告の作り手である制作マンがこんな視野狭窄な価値観に陥ってはいかん、ということが言いたいのです。

人間なんて、ラクして稼ぎたいわけよ。できれば。

そのことを否定してはいけないのです。たとえ自分たちがそうでなくても。そのことの是非はさておき。

もしかすると求人広告制作者には中途半端な仕事観など必要ないのかもしれません。それよりは人間を識ること。人生について考えること。自分と他人は違うことを正しく理解することのほうがよほど大切かも知れません。

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