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求人広告に賞レースは必要か

某TCCで除名会員の不正応募が問題になっておりますが、それぐらい市井のコピーライターにとって『なんらかの広告賞を獲る』というのは価値があるものなんですね。

なぜか。それはひとえ広告コピーというものが定量評価できない(しにくい)代物である、ということにあります。

なぜ「できない」と書いたあと、わざわざカッコ書きで(しにくい)と付け加えたか。それは、Web広告ではコピーテストができるからです。

コピーテストとはバナーやディスプレイ広告のコピーを何種類も作り、ABテストした結果CV率(数)の高い方を採用する、という手法。なので広告コピーを絶対に定量評価できない、とは言い切れないんですよね。ジャンルによっては、メディアによっては、できる。

しかしだからといってテストの結果、効果が高い方のコピーに払われるギャラがその後に跳ね上がるのか、というとまったくそんなことはない。なんだ結局効果の良し悪しって収入と直接的な関係はないのね、とまとめられがちだから、カッコつきの表現にしたくなるんです。(しにくい)と。

できないけど、できるものもある。そして、できたらそれが評価や対価と正比例するかというと、そうでもなかったりする。Web広告は過渡期なので仕方がない面もありますが、なにかとややこしい。

いつになく一文が長く、もって回った言い方になっているのは、この問題、つまり広告文案の評価というものが、多分にデリケートな要素を含んでいるからなんですね。なので、つい物言いが慎重になってしまいます。

「はい、このコピーは一山いくらでござい」というような売り方ができない以上、お金を出す側は何を頼りにコピーライターを選ぶのか、信頼するのか。その基準のひとつが受賞歴なのであります。

当然、たくさんの広告賞を獲っているクリエイターは、ギャラも高いわけですね。それが『グランプリ』とか『最優秀賞』とかならなおさら。その人の書く(つくる)広告がいいか悪いかは「わからない」けれど、賞ホルダーだからまず「まちがいない」。「あの広告で賞を獲った」ことはひとつの説得材料にもなるわけです。

自分を高く売るためにも、予算を大きくとるためにも、コンペで勝つためにも、その他いろいろなしがらみを解決するためにも、受賞歴は錦の御旗であることは間違いないです。

他の錦の御旗としては「電通である」「博報堂である」「東大卒である」「京大卒である」「一橋(もういい。いろんな旗がたなびいておりますが、なんだよ、結局権威かよ。学歴社会かよ。会社の看板かよ。そうです。そういうものです世の中は。浪花節だよ人生は。

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で、いよいよ本題。
そういう広告賞みたいなものが求人広告の世界にもあるのか。

あります。
STAP細胞よりも確実にあります。

公益社団法人全国求人広告協会(全求協)が主催する『求人広告賞』が、それです。

※サムネがおかしなことになってます…いろいろ追いついていませんが何卒

これは紙媒体部門と求人サイト部門に分かれ、毎年100点あまりの応募からそれぞれ数点ずつ厳正な審査の結果、選出されるというものです。はじまったのはぼくが当協会の研究員だったころ。2005年ぐらいですかね。

最初のうちは受賞基準が明確でなかったり、媒体ごとにいい意味で特徴がバラバラで、審査もしにくく存在感もいまひとつでした。しかしさすがに近年はそれなりの権威となりつつあるようです。ぼくの古巣の会社も何度も受賞したりしています。素晴らしいですね。

で、それとは別に、おそらくですが各媒体社内にてクリエイティブコンテストみたいなものが行われているんじゃないかとおもいます。今回、取り上げるテーマはそっち。

社会貢献性色の強い原稿や課題解決ドリブン原稿が評価されやすい全求協よりも、ゴリゴリのエッジを効かせたウケ狙いな原稿がしのぎを削る社内コンテストのほうがクリエイターも燃えるんじゃないかと。

■ ■ ■

かくいうぼくも、かつて所属していた求人広告メディアでのクリエイティブコンテストでは燃えに燃えていました。記念すべき第1回から6連覇をものにして、会長から「お前はもうええやろ」と無理やり引退、殿堂入りさせられた経験があります。

1回目のコンテストは親会社の制作メンバー含めても参加者が10人に満たない小規模なものでした。全社員投票といっても100人未満。それでも結構、盛り上がりましたね。2回目には上位入賞者の顔ぶれがなんとなく“いつメン化”されてきました。

そして3回目では1位のぼくと2位の大阪親会社制作メンバーの得票差が1票という、デットヒートぶり。開票作業も盛り上がりましたし、発表もバチバチの火花が散るという、なかなか本格的なコンテストになってきたなあ、と悦に入ってました。

その後、その好敵手と書いてライバルは退職してしまい、親会社は親会社で独自路線を歩むことになり、純粋に自社内だけのコンテストになったのですが、倍々ゲームのように人が増えていったことからそれなりに格のある賞に育っていきます。

当時のコピーライターたちの第一目標が、このクリエイティブコンテスト受賞でした。クリコン受賞を逃したときの悔しさは本当に大きいらしく、せっかくクリコン以上に栄誉ある『社長賞』を受賞したのに、壇上のコメントで「クリコンが獲れなければこんな賞は意味がない」みたいな発言をして物議を醸したメンバーも。

この人なんですけどね。

彼、最近ぼくのnoteにやたら登場しますが特に金子の授受はございません。そろそろ請求しようかな。

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ぼくは基本的に自分が育てたメンバーにはクリコンを獲らせよう、と決めていました。案件を見極めて、打ち合わせの内容、クライアントとのリレーションなどをもとに「これはイケる」時に賞狙いの原稿を作らせるんです。それをエントリーさせて、受賞に持っていく。

このやり方で、1位~3位のどれかには必ず入りました。

ただそれは1回目だけなんですね。百戦錬磨の営業とわたりあうのに充分なハクがついたんだからそこから先は実力でやんな、というのがぼくの教育方針でした。

営業からすればその子はクリコンホルダーなわけで、否が応でも期待されるし、その分、水準の高い打ち合わせや案件が持ち込まれることにもなる。お弟子さんにしてあげられるお膳立て、環境づくりとしては申し分ないとおもうんですよね。

でも、そこから2回、3回と賞を獲ることができる人ってほんと稀でした。そういう人こそ真の実力者なんですよね。1回か2回、賞がとれてもマグレってことあるし。継続性、再現性のある仕事ができてこそ実力者なんですが、やはりこれ、なかなか難易度が高い。

だからみんな悩むんですよ。で、ぼくのところにやってくるわけ。どうしたら獲れるんですか、クリコン…って言いながら。んなもん知るか!と突き放して話が終わればそれでいいんですが、そういうわけにもいきません。

で、話を聞くと、みんなだいたい賞の獲り方がわかっていない。

「前回クリコンに提出した原稿、自分でもかなり自信があるし、効果も出たんです。なのに…」
「ふうん…これいつ出したの?」
「秋です」
「ああ、そりゃ時期が悪いな。これ、春なら賞獲れたぜ」
「え?なんでですか」
「なんでってお前、それは…」

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賞を獲るのに、まず自分の自信や好みは一切関係ないです。賞を獲りたいのであれば、まず審査員が誰なのか、を徹底的に考えることです。そしてその審査員がどんな広告表現が好きなのか、何を基準に広告を評価するかを調べること。これに尽きます。

でもほとんどの人がこれやんないで、自分がいいと思った原稿を提出する。そしてあえなく惨敗…涙にくれると。

審査員が限定されているのであれば、ボスは誰か。一番声の大きな人は誰なのか。審査会はモメるのか。鶴の一声系か。審査員同士の社内政治、力関係はどうなっているのか。東京中央銀行を想像してみてください。

全社員の投票によって決まるのであれば、その社員の属性をおさえること。社員の男女比率は?新入社員と既存社員の比率は?社内の空気感、温度感は?コンテストの開催時期は?

さらにエントリーする求人広告の案件そのものにも意識を向ける必要があります。業界は?職種は?珍しいものなのか、難易度が高いものなのか。どんなストーリーをもって作られることになった広告なのか。

それら全てを前もって押さえてからつくる。それがコンテスト用の原稿。賞を獲るとはそういうことです。もうここまでくると、自分がいいと思うかどうかなんて、ほとんど関係ありませんよね。

え?あざとい?
そこまでして賞を獲って意味があるのか?

確かに良い広告と賞を獲る広告が一致するのがいちばんいいですよね。でも残念ながら必ずしもそうならないのが現実です。もちろん中にはクライアントも作り手も、またターゲット人材も絶賛、効果も抜群で表現も斬新!ということで文句なしにグランプリということもあるにはあります。

でもその確率は結構低い。だったら、少なくともそういう広告をつくれる環境は自分の手で作ろうじゃないか、というのがぼくにとっての賞の価値なんです。冒頭でも書きましたが賞を獲れば仕事がしやすくなります。権威ってのはそういうもの。それは求人広告も、おそらくは商品広告も同じです。

本当に価値のある、本当にいい原稿、本当に人と仕事を結びつけ、みんなを幸せにする求人広告ってのは、その先でつくられることが多い。

社内のコンテストに限らず、全求協の広告賞でも、公募ガイドでも、宣伝会議賞でも、C-1グランプリでも、投稿しているけど全然賞にひっかからない…とお悩みの方はぜひ、考えるスタートラインをもっともっとグーンと奥のほうに移してみてはいかがでしょうか。

少なくとも「アイツラマジデミルメネーヨナー」なんて愚痴ってるよりは賞のほうが近づいてくるんじゃないかな、っておもいます。

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