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【広告本読書録:040】広告コピーの教科書 その①

誠文堂新光社 編・発行

副題に「11人のプロフェッショナルの仕事から伝える」とあるこの本は、かつて広告系の書籍をバラエティ豊かに扱っていた誠文堂新光社から発行されました。昔は『ブレーン』も『コピー年鑑』も、この出版社から出ていたんですよ。

さて2015年に発行されたこの本。いわゆる有名クリエイターにインタビューを行ない、コピーライティングの技法、手法、思想、その他哲学的なものまで根堀葉掘り聞き出した内容を一人称で語るスタイルで構成しています。

この手の「教科書」は過去にもいくつかありましたね。古くはこの連載でもご紹介した『クリエイティブは時代の空を飛ぶ』とか、割と新しいところでは眞木準さんが編集した『ひとつ上の』シリーズ。まだご紹介していない広告本にも『巧告』という教科書があります。あ、偶然にも『巧告』も眞木準さんが絡んでいますね。

そんな中『広告コピーの教科書』がぼくの目にとまったのは、やはり「広告コピー」と限定されているからではないでしょうか。セグメントがかかっていることで、書店の本棚でも埋もれない。訴求力高いわけです。そして、あくまで「広告コピー」のみ扱っていることで、他の参考書よりもその深度が期待できるのではないか、という。

さて、では副題にもある「11人のプロフェッショナル」とは誰か。2014年時点でほぼベストといえる人選がここにはあるのではないでしょうか。

谷山雅計
一倉 宏
小西利行
安藤 隆
福里真一
仲畑貴志
国井美果
前田知巳
岩崎俊一
門田 陽
秋山 晶

どうすか、このまんべんないラインナップ。大御所から中堅、さらにはニューカマーまでソツなく揃った顔ぶれに「ほほうこれなら一冊買っておいたほうがよさそうだネ」と思わず手が出るわけです。

ではお一人ずつなにを教えてくれているかをご紹介しましょう。できるだけコンパクトにまとめるつもりですが、なにせ11名いらっしゃいます。もしかしたら2回、あるいは3回ぐらいにまたがるかも?

平成のコピーキ○ガイ、谷山雅計先生

見た目からして糸井さんっぽい、谷山雅計さん。かつて糸井さんが秋山晶さんを「コピーキ○ガイ」と称したのですが、それを現代にスライドさせるとそのまま谷山さんに当てはまるんじゃないかというぐらい、この方はコピーが好きです。なんたって『広告コピーってこう書くんだ!読本』なんて書籍を著すぐらいなんですから。

そんな谷山さんがこの教科書で教えてくれること。それは…

「若いうちはたくさん書け」

です。え?身も蓋もない?そんなことないっしょ。ぼくもそうおもうし。

なぜ、若い頃はたくさん書いたほうがよいのか。それは単純にいえば、思考における基礎体力をつけるためなんです。基礎体力がないと、プロとしてやっていけません。テクニックはその次です。若い頃にたくさん考えるということは、運動でいえば、まず筋力や足腰の力をつけることに当たる。~中略~つまり、もともとの力が足りない人間がテクニックを身につけても、なにも発揮されない。コピーライターの仕事も同じで、テクニック云々言う前に、思考の地頭を鍛えないといいものなんてできません。

おっしゃるとおりです、谷山先生。そして、思考の地頭をつけるには、たくさん考えることが一番なんです。と続けます。おっしゃるとおりです。大事なことなのでもう一度いいました。

誰よりも言葉を愛する、一倉宏先生

個人的には一倉さんのコピーが大好きです。しかも、ボディコピーよりもキャッチフレーズ。ANAの「いい空は、青い。」とか「高速中国ANA」なんて電車の中で見て(これは一倉さんのコピーじゃないか…)とおもったぐらい。アノニマスな表現でもきちんと己がにじみ出るコピーが書ける、数少ない大御所だとおもいます。

そんな一倉さんがこの教科書で教えてくれること、それは…

「こういう本を読む暇があったら、もっと別の本を読め」

です。うーん…それ言っちゃいますか、一倉さん!でもですねー実はこんなnoteを書いているぼくが言うのもナンですが、ほんとそうなんですよね。

とにかくコピーライターは
①型にはまらないこと
②広告が好きで、言葉が好きなこと
③他人と同じことが、いくら上手にできても意味がないと知ること
④他人のアドバイスに耳を貸すな!
~中略~
ついでに言うと、どうせ読むなら平積みになっていない本がいい。いま書店で平積みになっている流行の本にたいしたものはないから。そんなハウツー本を読んでるから普通の言葉しか書けない、型にはまるだけで自由になれない。なんてね、私はたぶん、あまのじゃくなんですね(笑)。

一倉さんはとにかく、言葉にメソッドなどない。それこそが本当の言葉の面白さである、とおっしゃいます。日本人はとかく言葉を「型」にはめがちなんですよね。コピーは文法的に正しいかどうかではなく、きちんと伝わることが大事である、と説く一倉さん。こんどぼくのクライアントのとこに同行してほしいです。

ボツの山から宝を見つけた、小西利行先生

若手時代、とにかくコピーが書けなかったというのが小西さん。何を書いても何度書いても全部ボツ。正月実家に帰っても書けずとうとう辞表を書いたそうです。でも意地もあり、どうせ最後だと開き直って書いたコピーが当時の上司から絶賛。そこで開眼したエピソードの持ち主です。

そんな小西先生が説くのはこちら!

「コピーライティングは行動を生む」

「日本最大の“エコ”ショッピングセンター」というコンセプトをつくり、そこから施設内の移動手段が電気自動車になったり、施設の名称が「KAZE」や「MORI」になったり、地域の小学校を巻き込んだり…というムーブメントに発展していったイオンレイクタウンの仕事を紹介し、かく語ります。

みんなコピーライティングって言葉だと思ってるかもしれないけど、よいコピーはその後の行動を生むんですよ。言葉を変えると行動が変わる。行動が変わると体験が変わる。体験が変わると幸せが変わるんです。僕はいつも、その先の物語を考えながら、体験するコピーライティングを目指しています。

相手を想像して書くことがコピーライティング、と小西先生。だから必要なことは人とたくさん会話して、酒を飲んだり、恋愛したり、生きることそのものなんだと語ります。いやほんと、ぼくもそうおもいます。何かに役立てよう、なんて寒い考えで体験するのではなく、生きることそのもの。それがコピーライティングなんです。

広告コピーも自己表現のひとつ、安藤隆先生

そうなんですよ。サン・アドで長らく活躍なさる安藤隆さんは、広告コピーの常識、そう、鈴木康之さんに代表される“アノニマス原理主義”にまっこうから対抗する論を張る数少ない一人です。でも確かに「タノシイマイニチ、ニコニコワイン」とか一連のサントリーウーロン茶のシリーズのコピーからは安藤さんテイストが感じられますよね。

そんな安藤隆先生が教えてくれるのは…

「表現を決定的に分けるのは『志』の有無」

ちょっと難しい話?いやいや、ここでも安藤先生は持論に則ったコピー作法をご開陳しております。

このごろ表現を決定的に分けるのは「志」の有無ではないかと、思うようになりました。その志は広告表現に出ますね。なにか大きくしているもの、強くしているもの、高くしているもの、として出てきます。「それなり」と「それ以上」を、「志」の有無大小がわけているのではないか。そして「志」をつくるのは、最初に戻ってしまいますが、「それが自分の表現だから」だと思うんですね。自分を見失わず、自分の価値観を大事にし、自分を表現すると考えれば、クライアントの言うことをただ代弁するということにはなりません。

安藤先生がサン・アドに入ったころ、先輩によく言われたのが「コピーライターは企業と消費者の中間にいるんだから」ということ。それはクライアントの単なる代弁者になるなよ、という意味です。そして、最近はそれが結構難しくなってきている、とも。しかしこの位置づけはどんな時代でも普遍的なものであり、そろそろクライアントも製作者もあらためて関係を作り直して原点にいき、新しい広告をつくるべきじゃないかと語ります。

だからこそ、コピーライティングを自分の表現という場所に置くことで、単なる代弁者からは脱却できると。安藤先生ほどの達人でも、こうしたことで自分の仕事を再定義、再構築しているんだと思うともっと自分もがんばらなきゃという気持ちになります。

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うーん、4人ご紹介して、結構なボリューム。。やはり3回ぐらいに分けたほうがいいなとおもいました!なので続きは来週に。ぜひご精読のほど!!

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