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耐え難くも甘いBUNBUN倶楽部

ぼくの名前が「博報堂の博」と「電通の通」で出来ているという話はあまりにも有名ですが、実はこの組み合わせを人類最初に見抜いたのは誰あろう、あの岡田直也さんであります。

岡田直也さん、と聞いて「ああ、あのとしまえんの」と頭に浮かぶ人は広告業界人か関係者か広告研究会に所属する大学生でしょう。代表作は『史上最低の遊園地』『プール冷えてます』『考える遊園地』などなど。バブル直後の広告業界で活躍したスタークリエイターのひとりです。

わたしが岡田さんと面識をもったのはたったの一度きり。リクルートが主催したBUNBUN倶楽部(ブンブンクラブ)というヤングライター向け文章講座に講師として登壇され、その後の飲み会で偶然隣り合わせたのでした。

受講生の中でもよりすぐりの別嬪が主催者側の過剰なまでの忖度によって岡田さんの周りに集められ、しかし女性ばかりの中に岡田さんひとり男性、というのもいささかバランスを欠くな…というリクルート的な機会によって自らを変える配慮で人畜無害そうなオレ、が配置されたのです。

そこで行われたのは名刺交換大会です。多くは女子大生、または商社や銀行などのOLさんでした。それはそれは華やかなこと。そのなかで広告代理店の名刺を差し出すぼくはさぞ異色だったでしょう。岡田さんは「あ、業界関係なの?ん?○○企画?聞いたことないなあ」と首をかしげます。

(岡田さん、そりゃそうですよ。ぼくの会社なんてあなた、総合広告代理店と銘打ってますが言うても求人広告ですから。博報堂がキングギドラだとしたらウチの会社はせいぜいカプセル怪獣ミクラスがいいとこでしょ)

そんなふうにおもいながら「えへへ」とかアホ面さげてると岡田さんが名刺を眺めながら「キミ、おめでたい名前だねぇ。博報堂の博に電通の通でこれなんて読むの?」「あ、ヒロミチです」「すごいじゃん、キミ、広告の申し子じゃん?」「ネェネェ岡田センセェ~どうしたんですかぁこのヒト~」「みんなこの青年はすごいぞ、生まれついての広告マンだ!」「エーッ?ウソー?ホントー?ヤダー!」

そのあと岡田さんとどんな話をしたかは覚えていません。たぶん岡田さん、女のコたちとずっと盛り上がっていたんだとおもいます。ついでに講義の内容もまったく覚えていません。もっといえば岡田さん以外の講義もひとつも覚えていない。

BUNBUN倶楽部で覚えていることといえば…

①まず倶楽部入会にあたって選考試験があり、作文が課題として出されていました。同期のまっちゃん、むっちゃんとぼくで揃って提出したのですが、あろうことか合格したのはぼくだけ。たいそう妬まれた覚えがあります。

②その作文が掲載された印刷物をなぜか恩師の竹内基臣さんが目にされていました。そんなこともつゆしらず、銀座の居酒屋にご一緒させていただいたとき「ネクラな文章書きやがって、たわけ!」となぜか叱られました。

③会場は浜松町だったのですが、3回目の雨の夜の帰り道、大門交差点近くのもつ焼き秋田屋に猛スピードで車が突っ込むのを目撃しました。受講生が巻き込まれたらしく、講義自体がその時点で打ち切りに。

④打ち切り半年後、なぜかいきなり空虚な打ち上げパーティがありました。そこに交通事故に巻き込まれた受講生のお母さんがいらっしゃって、ぼくは目撃した事故のいきさつを説明しました。

どうやらクルマにはねられた受講生の方は命に別状はなかったのですが、残念なことに意識が回復しないままだったらしい。お母さんは事故が起きた瞬間のことを詳しく知りたいということでした。お母さんに付き添っていたリクルートのおねえさんがいちいち涙するので、ぼくもしんみりとした気分で話をしたものです。

と、まあ、全体的にあまり明るく楽しくない思い出ばかり。でも名刺交換した人の中には「未来の一級建築士」なんて夢のある肩書きの人や、そうだ!いま思い出したんだけどお笑いコンビ『ピンクの電話』のみやちゃんの妹さんもいました。さすが姉妹だけあって声まで似てましたね。

そんなわけで、いまひとつ講義内容において印象の薄いBUNBUN倶楽部。もしかしたら講義よりも周辺の出来事の情報量が多すぎて、メモリのキャパをオーバーしてしまったのかもしれません。

運営側であるリクルートのおにいさん、おねえさんたちがやたらイベント慣れしていてちょっとひいたんですが、お世話になりました。ありがとうございました。

そして岡田直也さん、いただいたニックネーム、いまだに講義やセミナーなどに登壇するとき『博報堂の博に電通の通と書いて博通でございます』というツカミに使わせていただいております。ありがとうございました。

人生50年を超えるとあらゆる過去に感謝の気持ちを持てますな。
報恩感謝の気持ちでいっぱいです。南無。

BGMは冨田ラボで『耐え難くも甘い季節feat. 畠山美由紀』でした!

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