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どこでも言える表現と、そうでない表現の違い

駆け出しコピーライターが上司や先輩のコピーチェックを受けたとき、必ず一度は言われるフレーズがあります。

「これ、どこでも言えるよね」

このフィードバック、求人広告に限ったものでもなさそう。商品広告や企業広告の分野でも「どこでも言える」はヤングクリエイターのハートをザクザクと切り刻み、前夜の脳から血がでそうなぐらい考え抜いた苦労を一瞬にして“なかったこと”にしてしまいます。

ではどんなコピーが「どこでも言える」コピーなのか。

このnoteは主に求人広告制作関係者に向けて書いているものなので、あくまで求人広告にそって例をあげるとすれば…

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と、まあキリがないのでこのあたりで。

なんとなくわかりますよね、これらのコピーの「どこでも言える」感。なんというか、こう、そりゃそうだよね、という読後感。なんなら読後感すらありません。

こうした「どこでも言える」コピーは、どこでも言えるが故に、その会社、その仕事、その募集で言うべきことを言っていないんですね。ちょっとややこしいんですけど。

だから、コピーチェックをする側としてはダメ出しとあわせて「この募集ならではのコピーを書きなさい」なんてアドバイスするんです。

そうすると駆け出しコピーライター諸氏はとたんに、何をどう書いたらいいのかまったくわからなくなる。思考停止に陥り頭がまっしろになってしまいます。

「その会社でしか、この仕事でしか言えないことなんかこの世界にもはやないじゃん!」

と頭を抱えてしまうんです。

■ ■ ■

なぜか。

極端に考えすぎなんですよね。「どこでも言えるよね」とのFBに「どこでも言えないこと」で対抗しちゃうんです。

「どこでも言えないことを言え」

誰もそんなこと言ってないと思います。っていうか、そもそもどこでも言えないことなんてめったにない。もし求人広告においてどこでも言えないことでコピーを書くのだとしたら「社名+職種名+募集しています」という構造になります。

そしてこの方程式で応募効果を見込めるのは、イケてるイメージの有名企業のみです。たとえば…

Googleが広報を募集しています。

コルクが営業を募集しています。

味の素が社長秘書を募集しています。

LINEがビジデブを募集しています。


企業選定に若干の偏りがあるとは思いますが、もうこれでいいわけです。訴求力抜群です。逆に余計なことをしないほうがコミュニケーションスピードが早いんですね。

でもたいていの場合、会社名に採用力があるわけない。聞いたこともないような会社がマネすると思いっきりスベるであろうことは賢明な読者のみなさんなら想像に難くないでしょう。

だったらどうするか。

別に「どこでも言えないこと」でなくていいんです。その募集企業や募集職種に沿った事柄を言えばいいだけのこと。そうすればおのずと「どこでも言える」コピーにはなりません。

もちろん、これだけたくさんの企業と職種が世の中にはひしめきあっているわけですから、似たフレーズのコピーを掲げる募集は他にもあるかもしれません。

だけど、そこで差別化を図る必要はないんです。

商品広告なおかつマス広告の場合はそういうわけにもいかないかもしれませんが、こと求人広告においてはまるきり同じ案件はないからです。

たとえばガムを買うとき。消費者はほとんど同じ条件の、たくさんの種類の中からひとつを選ぶことになりますよね。だから商品そのものに差別化ポイントをわざわざつくらなければなりません。味なのか、色なのか、香りなのか、機能なのか。

そしてせっかくわざわざ作った差別化ポイントですから、それを広告してほしいとクライアントが願うのは当然のことです。

でも仕事選びは違います。同じ営業募集に応募するといっても業界によって全然お作法が異なります。向き不向きもある。また新規開拓かルートセールスか、あるいは有形商材か無形商材でも違う。そもそも会社が違うわけでお給料から勤務時間(このあたりは比較的似てきますが)、さらには勤務地も違うわけです。

ですので、差別化を図る前から「差」はすでに存在しているんですね。

だから、繰り返しますが、その募集企業や募集職種に沿った事柄を言いさえすれば「どこでも言えるよね」というFBにはなりません。そしてそれは決して「ここでしか言えないこと」でもないのですが、そもそもその必要はないし、それで効果が出るのかというと甚だ疑わしいことになります。

求人広告の究極の目的は応募効果を出すことです。そしてその応募効果とは何を指すかというと、その企業が求めている人物(潜在・顕在問わず)を採用できることにあります。

その前提条件を考えれば、意味のない差別化や意味のないオリジナリティの追求はナンセンスだ、と言い切れるのではないでしょうか。

■ ■ ■

そうはいっても募集企業や募集職種から着想して生まれるコピーは、充分にオリジナルな顔つきをしているもの。逆に同条件同職種の募集であったとしても、似たものは生まれにくいといえます。

たとえばゴルフショップにおける販売スタッフ募集のコピー。

賞金ランクには入りませんが、
私たちもゴルフのプロです。


こんなのはゴルフショップならどこでも言えるかもしれません。だけど採用ターゲットがゴルフ経験者でレッスンプロあるいは大学のゴルフ部出身、という条件がついてくれば、どこでも、とは言いにくくなるでしょう。このコピーである必然性が生まれてきます。

あるいは仕事において、たとえば顧客からの指名制度があり指名本数に応じてインセンティブがつくというような福利厚生があれば、これまたどこでも言えるね、とは言いにくくなるはずです。このコピーである意味が生まれてきます。

と、いうことで求人広告における「どこでも言える表現」と「そうでもない表現」の違いについてツラツラ書いてまいりましたが、ご理解いただけたでしょうか。

ポイントは「どこでも言えるよね」のFBに対して思考停止にならない、ということ。「どこでも言える」の反対は「どこでも言えない」ではなく「どこでも言えなくもないけど、ここで言うのが一番強い」なのであります。

そして本質的な目的から逸脱した意味のない差別化、機能しないオリジナリティの追求は単なるマスターベーションに過ぎないということも付け加えておきます。

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